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闘神の子  作者: ありり
神々の戦争
30/48

息子との再会

ホープの騎士見習いとしての訓練が始まってから、数日。


城の訓練場では、毎日のように剣の音が響いていた。


若い騎士見習いたちは汗を流し、必死に剣を振るっている。


その中でも――

一人の少年が目立っていた。


ホープ。


まだ十三歳。


体格は他の見習いよりも少し細い。


だが剣の動きが鋭かった。


踏み込みが早く、判断が迷わない。


ホープの剣を受けていたルークが、息を吐く。


「くっ……速いな」


剣を構え直す。


「もう一回だ!」


ホープが笑う。


「いいよ」


二人が踏み込む。


カン――!


剣がぶつかる。


ルークは腕に力を込める。


「前より強くなってないか?」


ホープが言う。


「そうかな」


少し離れた場所では、ガルドが豪快に笑っていた。


「ガハハ!」


巨大な木剣を振るう。


「もっと来い!」


教官が呆れる。


「お前は加減を覚えろ」


ガルドは気にしない。


「鍛えてるんだ!」


その近くでは、セリアが弓を引いていた。


シュッ――


矢が的の中心に刺さる。


ルークが言う。


「また当てた」


セリアは静かに答える。


「外す方が難しい」


ガルドが笑う。


「弓はつまらん!」


セリアが小さく言う。


「あなたの声の方がうるさい」


そんな騒がしい訓練の中でも――


ホープの剣は、やはり目立っていた。


教官の騎士たちも言う。


「妙だな」


「まだ教えていない動きをしている」


「まるで……」


その言葉を誰も最後まで言わない。


その様子を遠くから見ている者がいた。


闘神。


城の高台から、訓練場を見下ろしている。


その視線は、ずっと一人の少年を追っていた。



ある日。


教官の騎士が闘神に言った。


「闘神様」


闘神は振り向かない。


「何だ」


騎士は少し迷いながら言う。


「ホープという少年ですが」


闘神の視線がわずかに動く。


騎士は続ける。


「腕が良い」


「見習いの域ではありません」


そして少し笑う。


「試してみてはどうでしょう」


闘神の目が細くなる。


「何を」


騎士は言った。


「闘神様と一度、剣を交えさせてみては」


周囲の騎士たちが苦笑する。


「無茶だ」


「一瞬で終わる」


だが騎士は首を振る。


「それでも」


「見てみたい」


闘神は黙る。


そして短く言った。


「……いいだろう」



訓練場。


兵と騎士が集まっていた。


見習いたちも呼ばれている。


中央に立っているのは――


闘神。


鎧をまとい、剣を腰に下げている。


その姿だけで空気が変わる。


見習いたちは息を呑んだ。


ルークが小さく呟く。


「まじかよ……」


ガルドの目が輝く。


「闘神様だ!」


セリアは静かにその姿を見ていた。


そこへホープが連れて来られる。


少年は驚いていた。


「……え?」


教官が言う。


「闘神様がお前の腕を見たいそうだ」


周囲がざわめく。


ルークが小声で言う。


「おいホープ」


「やばいぞ」


ガルドが笑う。


「いいじゃないか!」


「伝説だぞ!」


セリアは静かに言う。


「落ち着いて」


「いつもの剣でいい」


ホープは一瞬固まった。


だがすぐに姿勢を正す。


そして膝をついた。


「光栄です」


頭を下げる。


「闘神様」


闘神はその少年を見ている。


近くで見るのは、初めてだった。


まっすぐな目。


その目を見た瞬間。


闘神の胸が、わずかに揺れた。


あの女の目だ。


妻の目。


それと同じだった。


剣を構えたとき。


その立ち方。


重心。


踏み込みの癖。


闘神は心の中で呟く。


……俺だ。


間違いない。


血が流れている。



剣が抜かれる。


教官が言う。


「始め!」


ホープが踏み込む。


速い。


少年とは思えない速さ。


真っ直ぐ闘神へ斬りかかる。


ルークが息を呑む。


「速っ……!」


ガルドが叫ぶ。


「行けホープ!」


闘神は動かない。


剣を軽く上げる。


カンッ――


金属音。


簡単に受け止めた。


だが闘神の目がわずかに動く。


良い踏み込みだ。


ホープはすぐに下がる。


そしてもう一度踏み込む。


連続の斬撃。


闘神はすべて受ける。


その動きは最小限。


周囲の騎士たちは驚いていた。


「……すごい」


「闘神様にあそこまで近づいた」


ルークが呟く。


「やっぱりお前すごいな」


セリアは小さく言う。


「動きが変わった」


だが闘神の胸の内では別のことが起きていた。


剣の動き。


間合いの取り方。


判断の速さ。


それは自分と同じだった。


教えていないはずの動き。


それでも自然に出ている。


闘神は確信する。


この少年は、自分の子だ。


その瞬間。


ホープが踏み込む。


今までで一番鋭い斬撃。


闘神の目が細くなる。


そして初めて剣を動かした。


カン――!!


一撃。


ホープの剣が弾かれる。


少年の体が後ろに飛ぶ。


砂煙が上がる。


ルークが叫ぶ。


「ホープ!」


ガルドが前に出そうとする。


セリアが止める。


「まだ終わってない」


ホープは膝をつく。


だがすぐに顔を上げる。


息が荒い。


それでも。


その目は輝いていた。


「……すごい」


小さく呟く。


「やっぱり」


闘神を見る。


憧れの目。


「闘神様は」


「強い」


闘神は何も言わない。


ただその少年を見ていた。


自分の息子が。


目の前で。


尊敬の眼差しを向けている。


だが少年は知らない。


自分が誰の子なのか。


その事実を。


まだ――


知らない。

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