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闘神の子  作者: ありり
神々の戦争
29/48

赤ん坊を連れ帰った夜

十三年前の夜。


闘神の領地の外れにある小さな村。


雪が静かに降っていた。


村の灯りはほとんど消えている。


その中を、一人の騎士が歩いていた。


黒い外套。


闘神の騎士。


ホープの育ての父だった。


腕の中には――


赤ん坊。


小さく、布に包まれている。


泣いてはいない。


ただ静かに眠っていた。


騎士は家の前で足を止める。


しばらく扉を見つめる。


そして静かに開けた。



家の中。


暖炉の火が小さく燃えている。


妻が振り向いた。


「……おかえりなさい」


だが夫の腕の中のものを見て目が止まる。


「……それ」


騎士はしばらく何も言わなかった。


ただ赤ん坊を見ている。


そして言った。


静かな声で。


「託された」


妻が近づく。


赤ん坊を見る。


まだ小さい。


生まれて間もない。


「どこで?」


騎士は答える。


「城だ」


妻の目が揺れる。


「城……?」


騎士は頷く。


「闘神様の城」


そして小さく息を吐く。


「今日」


少し間を置く。


「闘神様の奥方様が子を産んだ」


妻が驚く。


「え……?」


騎士は続ける。


「男の子だった」


その瞬間、

妻の顔が変わる。


闘神の子。


それが何を意味するのか、この土地に住む者なら分かる。


騎士は言う。


「闘神様は」


赤ん坊を見る。


「男なら城では育てないと」


妻が口元を押さえる。


「そんな……」


騎士は続ける。


「だから」


小さく言う。


「俺に託された」


沈黙。


暖炉の火が揺れる。


妻は赤ん坊を見る。


小さな顔。


小さな手。


指がわずかに動く。


そして小さく声を出す。


「……かわいい」


騎士は言う。


「神の子だ」


妻が言う。


「それでも」


赤ん坊の頬に触れる。


「ただの赤ちゃんよ」


騎士は黙る。


妻はゆっくり言う。


「この子」


目を上げる。


「どうするの?」


騎士は答えない。


しばらくして低く言う。


「……育てる」


妻の目が揺れる。


騎士は続ける。


「ここで」


「人間として」


妻が言う。


「でも」


「神々が知ったら」


騎士は頷く。


「だから」


赤ん坊を見る。


「誰にも言わない」


妻はしばらく赤ん坊を見つめていた。


そして手を伸ばす。


「……抱いていい?」


騎士は頷く。


妻が赤ん坊を抱く。


とても軽い。


赤ん坊が目を少し開けた。


妻の顔を見る。


そして小さく指を握る。


妻の目から涙が落ちた。


「……この子」


小さく笑う。


「強く生きそうね」


騎士が言う。


「名前がある」


妻が顔を上げる。


「名前?」


騎士は言う。


「奥方様がつけた」


静かに。


「ホープ」


妻はその名を繰り返す。


「ホープ……」


赤ん坊を見る。


そして優しく言う。


「希望」


少し笑う。


「いい名前ね」


騎士が言う。


「この子は」


赤ん坊を見る。


「闘神様の子だ」


そして小さく言う。


「いつか」


「戦いに巻き込まれる」


妻は赤ん坊を抱きしめる。


そして静かに言った。


「それでも」


優しい声。


「今は」


赤ん坊の頭を撫でる。


「私たちの子よ」


暖炉の火が揺れる。


その夜この家に、

一人の赤ん坊が迎えられた。


闘神の子、ホープ。

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