13歳の騎士
それから――
十三年の歳月が流れた。
神々の戦争は続いている。
領地は広がり、闘神の城はさらに巨大になっていた。
だが城の奥では、かつてと同じように静かな時間も流れていた。
⸻
朝。
城壁の上。
闘神は遠くの大地を見下ろしていた。
広い領地。
村や街が点在し、人間たちが生活している。
その横に――
妻が立っていた。
白い衣をまとい、風に髪を揺らしている。
十三年前よりも落ち着いた顔。
闘神を見ることもあれば、遠くを見ることもある。
二人の間には、穏やかな沈黙があった。
妻が言う。
「今日は騎士見習いの誓いの日でしたね」
闘神は短く答える。
「……ああ」
城では、毎年数人の若者が騎士見習いとして剣を学ぶ。
神の軍に仕える騎士。
今日はその日だった。
城の訓練所ではすでに若者たちが並んでいる。
その中に――
一人の少年がいた。
⸻
少年は十三歳。
まだ幼さの残る顔。
だが目は真っ直ぐだった。
彼はこの城に仕える騎士の養子として育った。
本当の親の顔は知らない。
名前だけを与えられている。
ホープ。
その名をつけたのは、育ての父だと言われている。
だが本当は違う。
その名前は――
母がつけた。
十三年前。
赤子を城から送り出す夜。
闘神は一つだけ、妻の願いを聞いた。
「名前だけは……」
涙を流しながら妻は言った。
「私に決めさせてください」
そして彼女は言った。
ホープ。
それが少年の名前だった。
⸻
城の訓練所。
騎士見習いの誓いの場。
兵たちが並び、神兵も見守っている。
闘神が高い階段の上に立つ。
その存在だけで空気が張り詰める。
若者たちは膝をついた。
剣を前に差し出す。
騎士が順番に名前を呼ぶ。
「前へ」
少年が一歩出る。
「名を言え」
少年は顔を上げた。
真っ直ぐな声。
「ホープです」
闘神はその少年を見ている。
表情は変わらない。
視線だけは――
離れなかった。
少年は続ける。
「今日より騎士見習いとして」
剣を握る。
「この領地と」
そして闘神を見る。
「闘神様に忠誠を誓います」
その言葉は力強かった。
十三歳とは思えないほど。
闘神は黙っている。
その少年を見ている。
少しだけ胸の奥が揺れた。
⸻
城壁の上。
妻もその様子を見ていた。
少年の姿。
真っ直ぐな目。
妻の手が、わずかに震える。
十三年前の夜がよぎる。
赤子。
泣き声。
自分の腕から離れていった命。
妻は小さく息を吸う。
そして言った。
「……あの子」
下では、
少年が剣を握り、頭を下げている。
まだ何も知らない。
自分が誰の子なのか。
誰の前に立っているのか。
知らないまま。
誓いを立てていた。
⸻
闘神は静かに言う。
「立て」
それが許しの言葉だった。
少年――ホープは顔を上げる。
その目は、まっすぐ闘神を見ている。
尊敬と憧れの目。
自分の息子と思われる少年が、
今、目の前に立っている。
闘神は何も言わなかった。
ただ静かに、
その姿を見つめていた。




