偽りのない告白
妻の言葉が落ちたあと。
部屋は静まり返っていた。
「私は……あなたが愛している時の神ではありません」
その言葉がまだ空気の中に残っている。
闘神はしばらく動かなかった。
妻の手首を掴んだまま。
だが、その手の力はもう抜けている。
やがて闘神の指がゆっくり離れた。
そして低い声が落ちた。
「……違う」
妻の瞳がわずかに揺れる。
闘神は一歩、近づいた。
今度は命令ではない。
怒りでもない。
ただ、まっすぐに彼女を見る。
「確かに」
闘神は言う。
「最初はそうだった」
妻の呼吸が止まる。
闘神は続けた。
「俺は時の神を愛していた」
その言葉は重い。
だが、逃げなかった。
「何百年も探した」
「転生したあいつを」
妻は黙って聞いている。
闘神の声は静かだった。
「そしてお前を見つけた」
少しだけ目を伏せる。
「だから連れてきた」
「記憶を消して」
「城に閉じ込めた」
それは事実だった。
闘神は隠さない。
妻の胸が静かに痛む。
闘神の声が続く。
「……だが」
闘神は妻を見た。
まっすぐに。
今度は逸らさない。
「今は違う」
妻の目が揺れる。
闘神の言葉はゆっくりだった。
「俺はずっと迷っていた」
「時の神を見ているのか」
「それともお前なのか」
低く息を吐く。
少しだけ声が変わる。
「答えはもう出ている」
闘神は手を伸ばした。
今度は強くではない。
そっと妻の両手を取る。
温かい手。
闘神は言った。
はっきりと。
「今の俺が愛しているのは」
一瞬だけ間が空く。
そして
「お前自身だ」
部屋の空気が揺れる。
妻の目が大きく開く。
闘神は続けた。
「時の神ではない」
「影でもない」
「代わりでもない」
手を握る力が少し強くなる。
「城で」
「俺の帰りを待って」
「花を見て」
「子を抱こうとして」
「泣いた」
闘神の声が少しだけ低くなる。
「その全部を」
「俺は見てきた」
そして静かに言う。
「それが」
「お前だ」
闘神の目は揺れていない。
戦場の神の目ではない。
ただ一人の男の目だった。
「……俺が愛しているのは」
もう一度言う。
「お前だ」
その言葉は。
初めて偽りのない告白だった。




