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闘神の子  作者: ありり
闘神の妻
23/48

時の神と人間の女

それから数日。


妻は再び部屋に籠るようになった。


食事は最低限だけ口にする。

侍女が話しかけても、ほとんど答えない。


窓の前に座っている時間が長かった。


花園へも行かない。


あの日まで、少しずつ戻っていた笑顔も――

もう見えなかった。



闘神はすぐに異変に気づいた。


侍女たちは何も知らないと言う。


妻は体調も悪くない。


それでも明らかに様子がおかしい。


闘神の胸の奥が、静かにざわつく。


そしてその夜。


闘神は妻の部屋の扉を開けた。


部屋は暗い。


灯りは一つだけ。


妻はベッドに座っていた。


窓の外を見ている。


闘神が入ってきても、振り向かない。


闘神はしばらく立っていた。


そして低く言う。


「……何があった」


妻は答えない。


闘神はもう一度言う。


「体調ではない」


沈黙。


「何があった」


妻はゆっくり言った。


「……何もありません」


その声は静かだった。


だが明らかに、何かを隠している。


闘神の眉がわずかに動く。


「嘘だ」


妻は黙る。


闘神は一歩近づく。


「こちらを見ろ」


妻は動かない。


視線は窓の外。


闘神の声が少し低くなる。


「こちらを見ろ」


それでも妻は動かない。


闘神の胸の奥に、苛立ちが生まれる。


戦場では、すぐに答えが出る。


だが今は何も分からない。


闘神は妻の前に立った。


そして――


妻の手首を掴んだ。


「……っ」


妻の体がわずかに揺れる。


闘神は強く掴んでいた。


「何があった」


低い声。


「言え」


妻はゆっくり顔を上げた。


はじめて闘神を見る。


その目は――


とても静かだった。


怒りもない。


涙もない。


ただどこか遠くを見ている目。


そして妻は言った。


小さく。


はっきりと。


「……私は」


闘神の手の中で。


ゆっくり言う。


「あなたが愛している」


一瞬、言葉が止まる。


そして続けた。


「時の神ではありません」


闘神の手が、わずかに止まった。


妻は続ける。


「知りました」


静かな声。


「あなたが愛していた神」


「その生まれ変わりが私だということ」


闘神の瞳が揺れる。


妻は目を逸らさない。


「だから」


小さく息を吐く。


「私を妻にしたのですね」


闘神は何も言えない。


妻の声は静かだった。


だがその言葉は、刃のようだった。


「あなたが見ているのは」


妻は言う。


「私ではありません」


胸の奥が締めつけられる。


妻は続ける。


「……時の神です」


そして小さく言った。


「私は」


一瞬だけ目を伏せる。


「その代わりです」


部屋の空気が止まる。


闘神の手はまだ妻の手首を掴んでいる。


だが今度は――


闘神の方が、言葉を失っていた。

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