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闘神の子  作者: ありり
闘神の妻
16/48

妻の妊娠

戦のあとも、城の時間は静かに流れていた。


闘神はいつものように振る舞っている。

妻も、いつものように側で仕えている。


だが――


闘神の胸の奥の迷いは、消えていなかった。


時の神を愛していた過去。

そして今、城の中にいる人間の妻。


同じ存在なのか。

それとも違う存在なのか。


答えは出ないままだった。



ある日の朝。


妻は給仕の途中で手を止めた。


皿を持ったまま、少しだけふらつく。


闘神が気づいた。


「どうした」


妻は慌てて姿勢を正す。


「……申し訳ございません」


だが顔色が少し悪い。


闘神は立ち上がる。


「座れ」


「いえ、大丈夫です」


「座れ」


命令だった。


妻は静かに椅子に腰掛けた。


闘神はしばらく彼女を見ていた。


そして言う。


「医師を呼ぶ」


妻は驚いた。


「そこまででは……」


闘神は聞かない。


兵に命じる。


城の医師がすぐに来た。


しばらくして――


医師が静かに頭を下げる。


「闘神様」


闘神の目が細くなる。


「言え」


医師は答えた。


「奥方様は……」


一瞬だけ言葉を選ぶ。


「身籠っておられます」


部屋が静まり返った。


妻は目を見開く。


「……え」


自分の腹に手を当てる。


信じられないという顔。


「……本当に?」


医師は頷く。


「はい」


妻の目に涙が浮かぶ。


小さく笑った。


「……そうですか」


そして闘神を見る。


だが闘神は黙っていた。


顔はいつものまま。


何も変わらない。


医師が去ったあと。


部屋には二人だけが残る。


妻はゆっくり闘神の前に立った。


そして頭を下げる。


「お願いがございます」


闘神は答えない。


妻は続ける。


「この子を……」


声が震える。


「産ませてください」


闘神の目がわずかに動く。


妻は必死だった。


「お願いです」


腹に手を当てる。


「育てたいのです」


闘神はしばらく黙っていた。


そして低く言う。


「まだ分からん」


妻は顔を上げる。


「……え」


闘神の声は冷たい。


「子が」


少し間を置く。


「女なら」


妻の呼吸が止まる。


「育てることを許す」


そして続ける。


「だが」


闘神の目が暗くなる。


「男なら許さない」


妻の顔から血の気が引く。


「……どうして」


闘神は答えない。


妻は一歩近づく。


「お願いです」


涙がこぼれる。


「男でも……」


「駄目だ」


闘神の声は絶対だった。


「男なら」


静かに言う。


「この城では育てない」


妻は震える。


「そんな……」


闘神は背を向けた。


それ以上話す気はない。


だが妻は諦めない。


後ろから言う。


「それでも」


声は震えている。


「私は産みます」


闘神が止まる。


妻は続ける。


「この子は……」


腹を抱く。


「私の子です」


そして静かに言った。


「あなたの子でもあります」


闘神の拳がわずかに握られる。


だが振り向かない。


ただ低く言う。


「……女であることを祈れ」


その言葉だけ残して。


闘神は部屋を出て行った。


妻はその場に立ったまま。


腹に手を当てる。


涙が落ちる。


それでも小さく言った。


「……大丈夫」


まるで、

お腹の中の命に語りかけるように。


「あなたを守ります」


静かな城の奥で。


神と人間の子が、

まだ小さな命として息づいていた。

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