神の闘い
神々の戦は突然起こる。
その日もそうだった。
昼過ぎ、城の空気が変わった。
遠くの空に黒い雲が渦巻き、神の力がぶつかり合う気配が広がる。
闘神は窓の外を見ていた。
そして短く言う。
「来たか」
妻は少し離れたところで給仕をしていたが、その言葉に顔を上げた。
次の瞬間。
城の奥から兵が駆け込んでくる。
「闘神様!
北の領地に暗黒の神の軍勢が!」
闘神は静かに立ち上がった。
怒りも焦りもない。
ただ戦場に向かう神の顔。
妻は思わず言った。
「……戦い、ですか」
闘神は振り向く。
そして少しだけ考えたあと、言う。
「来い」
妻は驚く。
「え……?」
「戦場を見る」
短い言葉だった。
「だが俺の後ろから離れるな」
妻は戸惑う。
だがすぐに頭を下げた。
「……承知しました」
⸻
城の外。
戦場。
妻は初めてそれを見た。
大地は裂け、空には雷が走り、炎が燃え上がる。
人間の戦とはまったく違う。
神の戦争。
兵たちが叫び、魔物が暴れ、神の力が空を裂く。
そしてその中心に――
闘神がいた。
槍を手に。
暗黒の神が空から降りる。
巨大な神だった。
「久しいな、闘神」
闘神は答えない。
黒い雷が落ちる。
だが闘神は一歩も動かない。
次の瞬間、
槍が閃いた。
空が裂ける。
暗黒の神の体が、真っ二つに割れた。
神の血が空から降る。
妻は言葉を失った。
闘神は振り返りもしない。
戦場を歩く。
神を殺し、魔物を薙ぎ払い、軍を蹴散らす。
それは戦いというより――
蹂躙だった。
妻はただ立ち尽くす。
「……これが」
小さく呟く。
「神の……戦い……」
闘神はすでに戦場の中心にいた。
そして戦は終わった。
あまりにも早く。
⸻
夜。
城に戻った闘神は血のついた鎧のまま歩いていた。
兵も侍女も近づけない。
神の血の匂いがまだ残っている。
私室の扉を開ける。
中には妻がいた。
闘神を見る。
血の跡。
戦いの気配。
それでも妻は静かに頭を下げた。
「……お帰りなさいませ」
闘神は何も言わない。
ゆっくり鎧を外す。
妻が近づく。
「お手伝いします」
鎧を外す手伝いをする。
その距離は近い。
だが妻は震えていない。
闘神はそれに気づく。
「怖くないのか」
妻は少し考える。
「……怖いです」
正直な声。
そして続ける。
「ですが」
闘神を見上げる。
「あなたが戻ってきてくださって、安心しました」
闘神の動きが一瞬止まる。
妻は鎧を外し終えた。
闘神はしばらく黙っていた。
そして低く言った。
「……寝室へ来い」
妻は頷く。
「はい」
⸻
寝室。
炎の灯りだけの静かな部屋。
闘神はベッドの端に座っている。
戦場の気配がまだ残っている。
妻が部屋に入る。
静かに扉を閉める。
闘神は言った。
低い声で。
「……抱かせろ」
命令だった。
妻は驚かない。
少しだけ息を吸ってから、頭を下げる。
「……承知しました」
妻はゆっくり闘神の前に立つ。
そして言う。
「お疲れになっていらっしゃるでしょう」
静かな声。
「お側におります」
闘神は彼女を見上げる。
戦場では神を斬る目。
だが今は、どこか違う。
妻はゆっくりと闘神の肩に触れた。
その夜。
闘神は初めて――
戦いのあとで、
ただ静かに人を求めていた。




