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闘神の子  作者: ありり
闘神の妻
14/48

神々の会議

翌朝。


闘神の城は、いつもと同じ静けさだった。


私室の窓から赤い光が差し込む。


闘神は席に座り、朝の酒を口にしていた。


その前で――

人間の妻が静かに給仕をしている。


昨日のことなど、何もなかったかのように。


妻は酒を注ぎ、皿を整える。


「お口に合いますでしょうか」


丁寧な声。


闘神は短く答える。


「問題ない」


妻は軽く頭を下げた。


「ありがとうございます」


二人の間には、穏やかな沈黙が流れていた。


昨日、頬を叩いたこと。


そのあと、何も言わずに部屋を出たこと。


二人とも、まるで触れない。


それがこの城のやり方だった。


闘神は酒を飲みながら言う。


「今日は戻りが遅い」


妻が顔を上げる。


「……ご用事でしょうか」


「神の会議だ」


妻は小さく頷いた。


「そうでございますか」


闘神は立ち上がる。


妻がすぐに外套を持ってくる。


闘神が腕を通す。


妻が整える。


その距離は近い。


だが、触れ合うことはない。


妻は言う。


「お気をつけて」


闘神は一瞬だけ妻を見た。


そして言った。


「……起きていなくていい」


妻は少し驚いた顔をする。


「帰りが遅くなる」


「承知しました」


妻は静かに頭を下げた。


闘神はそのまま部屋を出ていった。



神殿。


巨大な円形の会議場。


神々が集まっていた。


炎の神、雷の神、海の神、風の神。


この世界を支配する存在たち。


その中心に、闘神が座っている。


会議は神々の領地争いについてだった。


だが話題は、やがて変わる。


一人の神が笑いながら言った。


「そういえば」


軽い声。


「闘神よ」


闘神は目も向けない。


神は続ける。


「人間を妻にしたらしいな」


周囲の神が笑った。


「聞いたぞ」


「神が人間を妻とは」


「落ちたものだ」


別の神が言う。


「せめてエルフくらいにしておけばよかったのではないか?」


また笑い声。


「人間だぞ?」


「寿命も短い」


「力もない」


「ただの家畜のような種族だ」


「そんなものを妻とはな」


闘神は黙っていた。


酒杯を持ったまま。


別の神が言う。


「飽きたら捨てるのか?」


「それとも本気で妻にしたのか?」


また笑いが広がる。


そのとき。


――ギシ


石の床がわずかに軋んだ。


誰も触れていないのに。


空気が重くなる。


神々の笑いが、少しだけ止まる。


闘神はまだ座っている。


だが杯が、静かに砕けていた。


闘神の手の中で。


神の一人が気づく。


闘神の目。


それは静かに怒っていた。


何も言わない。


怒鳴りもしない。


ただその場の神々は理解した。


それ以上触れてはいけない話題だと。


会議はすぐに別の話題へ移った。


だが、

闘神の胸の奥では、静かに火が燃えていた。



深夜。


闘神の城。


廊下は静まり返っている。


闘神は戻ってきた。


会議は長引いた。


神殿の重い空気が、まだ体に残っている。


扉を開ける。


私室の灯りがついていた。


闘神の眉がわずかに動く。


中に入る。


そこには――


妻がいた。


椅子に座って、静かに本を読んでいる。


闘神に気づくと、すぐに立ち上がった。


「……お帰りなさいませ」


闘神は言う。


「起きていなくていいと言った」


妻は少し困ったように微笑む。


「はい」


そして言う。


「ですが」


小さく頭を下げる。


「……お帰りをお迎えしたかったので」


それ以上の意味はない、

きっと。


だがその瞬間、

闘神の胸の奥で、何かがほどけた。


会議で聞いた言葉。


人間。


弱い種族。


価値のない存在。


そのすべてが、頭の中に残っていた。


そして、

目の前の女。


何も知らない。


何の力もない。


ただ、

自分の帰りを待っていた。


闘神は無言で近づいた。


妻が少し驚く。


「……どうかなさいましたか」


その瞬間、

闘神の腕が動いた。


妻を引き寄せる。


強く。


突然。


妻の体が闘神の胸に押し付けられる。


抱きしめていた。


妻は完全に驚いていた。


「……え」


闘神自身も、何をしているのか分からなかった。


ただ抱きしめていた。


強く。


離さないように。


妻の声が小さく震える。


「……闘神様」


闘神は何も言わない。


ただ、

静かに。


彼女を抱きしめ続けていた。

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