3:エピローグ
あのあと、家に帰ってから――
俺は母さんに、こっぴどく怒られた。
「人様の家にベランダから入るなんて、バカじゃないの!?」
「……うん、バカだった」
さすがに反省して、黙って説教を受けた。
でも、俺が怒られっぱなしだったわけじゃない。
セツナが、俺を庇ってくれた。セツナのお母さんも「ありがとう」って言ってくれた。
「おかげで部屋から出てきてくれたわ。あなたはヒーローだったわ」
――そんなふうに言われて、ちょっとだけ、泣きそうになった。
数日後、セツナのお母さんが俺の家にやってきて、言った。
「迷惑かけたお詫びに……これ、どうぞ」
手渡されたのは、箱に入った、ピカピカの――新しい変身ベルトだった。
俺は絶句した。
だって、それは俺がずっと欲しかった、一等賞の景品だったから。
「え、でも、そんなの……」
「いいんです。今回は特別だから。娘にとっては、ユウキくんとの大切な思い出ですから」
壊れた方の変身ベルトは、セツナがもらうことになった。
おもちゃは普通、家に置かせてもらえないのに、今回は特別に許された。
「これは、ユウキくんと一緒に手に入れた宝物だから」って、セツナはそう言ったらしい。
そして――休みの日。
俺たちは、いつもの公園でまた走り回っていた。
「うおおおっ、くらえっ! 正義の必殺キーーック!!」
俺は新しい変身ベルトを巻いて、ド派手にポーズを決める。
セツナは、壊れたベルトを腰に巻いて笑った。
「むむむ……やるなっ、ユウキヒーロー! でもこのヒロイン、負けませんよっ!」
「なあ、セツナ。新しいやつ、使ってみるか?」
俺がそう言ってベルトを外しかけると、セツナはぷいっと横を向いた。
「いいんです。私はこっちがいいんです」
「え?」
「これが、ユウキくんと一緒に頑張って手に入れた思い出のベルトですからっ。世界でひとつだけの宝物ですっ!」
「……」
そのとき俺は、なぜか少し照れくさくなって、言葉が出なかった。
なんかこう、胸の奥がムズムズして、うまく喋れなかった。
だからその代わりに――
「よっしゃっ、今日はヒロインと手を組んで、ダブル必殺技やるぞーっ!」
「了解ですっ、ヒーロー!」
俺たちはまた手を繋いで、公園を駆け回った。
走って、笑って、転んで、また笑って――
俺とセツナは、ヒーローとヒロインは――
ずっと一緒だ。