008.日常のお仕事(5)
コンッ、コンッ、探偵社を訪れた者がいる。
ひょっとしてお嬢様か・・・・
「お久しぶりです」
猫山さんだった、ちえっ
と思ったら後ろに、にゃんたを抱えたお嬢様が居た。
嬉しい。
みんな元気そうだ。
やはりお嬢様も猫山氏と同じく猫語が少しわかるのらしい。
お嬢様の名は、『皇 姫亜』。
彼女はマエちゃんが羨ましいと言っていた。 一生私の世話役なのに?
それからたまに遊びに来るようになった。
殺伐とした仕事をこなす私達にとってそれは一つのオアシス的な存在になっていった。
今度主が来たら紹介してあげよう。
色々話すようになって知ったのだけど、彼女は難病にかかっていてもうすぐ入院生活が始まるらしい。
以前マエに聞いた友達のタエという人が同じ病気の様だ。
これは・・・主に知らせるべきか・・・でも同じ難病の人を全員救えるわけでは無いし。
主の話だと人間としての回復は無理で、人でなくなってしまうらしいし。 お勧めはしないと言っていた。
それは治ったと言えるのかとか、マエもどうするか同じ様に悩んでいる。
にゃんたは病院に入れないので、お見舞いにもいけないらしい。
主に頼めばきっと治して?くれるだろう・・・だけど死ぬより苦しいらしい。
止まらない地獄の拷問に近いらしい。
本人が強く望まない限り駄目だろう。
だが、マエと相談した結果、選択肢を与えてやった方が良いという事になった。
念話で主と話したら、みゃーちゃんの友達なら本人が強く望めばやってもいい、と言ってくれた。
それに実験したことは無いけど何か新しい方法があるらしい。
・・主、優しい。
次の日、お嬢様が遊びに来た。
主も来てくれた。
そこで主から提案があった。
その提案とは『魂の複写』という方法だった、遠い彼方の星で太古に発案・開発されたものらしい。
主はそれを復刻したというのだ、ただ生身の人体での経験は無いらしい。
複製体の複製をしたのだという。
前例のない事だけど、それ以前にこの星では許されない医療技術であるという事だ。 この世界では異質な人間になってしまうというのだ。 人で無くなる事自体はゴーレムによる方法と変わらない様だった。
自分の転写が自分と認識できるのかどうかもわからない。
自分が二人になって、一人は死んでいく。 ただし苦しみは無い・・・らしい。たぶんというぐらいだ。
無理やり魂を入れ込むのではなく、既に機能しているものに転写するのでストレスが軽いらしい。
その他にも、家族がどう思うか、周囲の人間がどう思うかとか・・・考えればいろいろな問題が出てくる。
マエの友達のタエの場合は一度死んで、魂をゴーレムに入れ込んだらしい。 なので死から逃れたわけではなく死を乗り越えなければならなかった。
倫理的な問題もあるだろうけど、主は倫理外の存在らしいのでそれは問題ない。
タエと同じく地球を離れて主のお世話になるのが一番問題が少ないらしいが、それも本人次第という事だ。
帰って家族に相談するというが、本人の意思次第だろう。
まあ、失敗しても自分でない自分が存在し続けるだけとも言えるけど。
結局彼女は、自分は自分として病魔と戦い死ぬことを選んだ。 魂の複写や転写はしない事を選んだ。
死にゆく自分の考えではなく、行き続けるであろう複製された自分の気持で考えた結果であるらしい。
それは自分ではないと思ったと言っていた。
自分が自分じゃ無いって変だけど本来の自分では無いってことかな。
でも誰しも自分はいったい何者だろうという疑問を持てば答えられない。 気にしなくてもいいのに。
入院に伴い、にゃんたは猫山さんが引き取る事になった。




