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悪い事したい・その二……遅れて登場する遅刻がしてみたい

 迷子で遅刻になってしまう焦りから何度も名前を呼ばれていたらしいが反応できなかった。


「アイゼンハワー、授業を休む気か? 」


 相手が制服でないところを見ると教師だと分かる。

 あのリストの一番上にあった人物。

 確か担任の……

 担任の……

 名前はまだ覚えていない。

 綺麗な顔の人という覚え方をして名前が……

 資料に記載されていた紫色の髪と瞳は彼の妖艶さを更に引き立たせていた。

 

「いえっそんなつもりはありません」


「では、なぜここにいる? 」


「……すみません」


 迷っていましたなんて話しても信じてもらえないだろうし、迷子だなんて恥ずかしくて言えない。

 

「早く教室に行きなさい」


「はいっ」


 急いで教室に……


「こらっ、どこへ行くっ」


「えっ? どこって教室です」


「教室はそっちじゃないだろう」


「えっ? 地図では……あれ? もしかして上下逆? 」


 だから私は先程から目印の図書室に辿り着けなかったの?


「……何を見ているんだ? 」


「あっ、これは……」


 手にしていた地図を確認される。


「学園の地図? まだ覚えていないのか? 」


 信じられないモノを見る目で見られている。

 それは教師として生徒を見る目ではない。


「……はい」


「信じられない……」


 三年通って校舎内の見取り図が分からないなんて信じられないかもしれないが、私としては登校初日なので仕方がないと思う。

 私の苦労も知らないで……


「しょうがないじゃないですか、忘れちゃったんですもん」


 つい悔しくて反論してしまった。


「忘れた? 教室をか? 」


 記憶喪失を疑われているというより、記憶力を疑われている気配。


「いや……あはははは……」


「冗談を言っていないで、早く教室に向かいなさい」


「…………ないんです……」


「なんだ? 」


「教室の場所が分からないんですっ」


「……それは……本気なのか? 」


 三年通い、突然『教室の場所が分からない』発言しても信じてはもらえないのはわかる。

 まさか、休んでいる間に記憶喪失(前世を思い出しましたぁ)なんてことが起きるなんて予想出来ないだろう……


「……階段から転倒し、その際に頭を強打したらしく……目覚めたら記憶が……」


「……まさか……記憶喪失なのか? 」


「……えっと……はい」

 

「医者には診せたのか? 」


 先程とは違い、私を心配してくれる姿はちゃんとした教師だった。


「はい健康面は問題ないと……」


「記憶の方は? 」


「……全く……」


「全く? 私の事は? 」


「……えっと……」

 

 目の前の人物をいくら眺めても記憶が蘇ることはないので、持参していたカンニングペーパーを確認する。

 

「これを見ないと分からないってことか……」


 私が何をしているのか確認され、使用人が準備してくれた教師リストを本人に目撃されてしまった。

 変な事は書いてないが、本人に見せていい資料ではないと思う……

 すでに見られてしまったが。


 キーンコーンカーンコーン


「あっ……」

 

 予鈴が鳴ってしまった。

 という事はこれは完全に……

 

「遅刻」


 確かに授業に遅れて入室するのを一度体験してみたいとは思ったが、それには事前の覚悟が必要で今日は遠慮しておきたかった。


「はぁ……全く。付いてきなさい」


「……はい」


 これはお説教コースなのかもしれない。

 遅刻したくてしたわけではないが、遅刻なのは逃げられない。

 私は授業に間に合う事は諦め、教師の後ろをとぼとぼと歩く。


「ん? 保健室? 」


 到着したのは教室ではなく保健室。

 到着するまでてっきり教室に向かっていると思っていた。


「ここで休んでいきなさい。体調不良ということにしておく」


「……いいんですか? 」


「今日だけだ」


「はいっ」


 体調不良という設定なのに元気よく返事をする。


「記憶喪失と言ったが自分の事も分からないのか? 」


「はい、記憶にありません」


 力いっぱい堂々と宣言した。


「確かに……言われてみれば別人だな」


「……そうなんですか? 」


 別人かどうかなんて見て分かるようなものなんだろうか?

 まぁ確かに、私の仕草にお金持ちのお嬢様の雰囲気はないわね。

 姿勢を整えお嬢様感を演出する。


「何をやっているんだっ」


「お嬢様感出してます」


 首の角度を気にして流し目で教師に視線を送る。


「……その表情はやめなさい」


「……はい」


 公爵令嬢から私に戻る。


「私は担任のロンバルト・キングズリー」


「キングズリー先生……」


「この状況を誰かに話したのか? 」


「家族と使用人は知っています」


「婚約者は? 」


 婚約者?


「あっ、話してませんね」


 忘れてた。

 話した方が良かったのかな?


「話さない方がいいだろう」


「そうなんですか? 」


「話せば婚約解消される」


「ほぉ、そうなんですね」


 記憶喪失の婚約者は相思相愛でなければ面倒よね。

 あの反応からして相思相愛には見えないもの。


「……婚約者の事も覚えてないのか? 」


「さっぱりです」


「……そうか」


 その後、地図を見ながら現在地を教えてもらい教室への順路や学園についての質問にも時間の限り答えてくれた。

 

 本日の一言日記。

 遅刻は覚悟してするもの。

 覚悟のない遅刻は教師に発見され、サボリとなって秘密はバレる。

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