ズル休みの代償
「お嬢様。何か必要な物があればおっしゃってください」
タイミングよく使用人が戻る。
「ねぇ。私のクラスを教えてくれない? 他にも学園の地図とか必要だと思うの」
「…そうでしたね。事前準備もなく学園に登校だなんて時期尚早でしたね。てっきりお嬢様お得意の自主休みかと思っておりました。私が浅はかでした」
使用人の口ぶりから、シャルロッテはかなりズル休みをしていたようだ。
……自主休み……
シャルロッテはやはり私の理想の人かもしれない。
「……大丈夫よ」
それから使用人は急いで学園の地図を手配し、私のクラスに席なども確認。
担任や教科ごとの教師に婚約者についての情報も用意してくれた。
それに、同格の令嬢達。
友人ではなく『同格』と使用人は表現したので、良好な関係とは言えないのだろう。
「お嬢様、お客様がお見えです」
「お客様? どなた? 」
私が学園を欠席した事を知らないお客様なのだろう。
一応体調不良の欠席なので必ず対応しなければならない訳ではないだろうが、誰がやって来たのかは気になる。
「アンダーソン伯爵令息です」
「アンダーソン……婚約者? 」
使用人に確認すると頷かれる。
「分かった、行くわ」
使用人に案内され婚約者が待つという応接室へ向かう。
婚約者と聞いて会ってみたいという感情が生れてしまった。
私……シャルロッテが自ら望んだ婚約者。
きっと素敵な人なんだろう。
「遠いな……」
公爵家というのはかなり広い。
歩いても歩いても近付いているのか分からない。
いくつもの扉を通り過ぎ、ようやく応接室に到着する。
「あっ……へぇ……」
初めて見る私の婚約者。
茶色髪と瞳。
爽やかという印象で、クラスにこんな人がいたら人気者だろう……
シャルロッテって、こんな感じ人が好みなのね……
意外だわ。
見た目で選んだわけではないのね。
「……アンダーソン令息、本日はどのようなご用件でしょうか? 」
以前の彼との距離感が分からず、変な言い方だっただろうか?
彼も少し驚いた表情を見せる。
「元気そうですね。公爵に容態を聞いており、今日目覚めたので『本人も会いたがっている』と連絡があり伺いました」
おっ……
それは、私が『会いたい』と要求した為に訪れたという事ですね。
彼の反応からして『愛しい婚約者』に会いに来たという感じではない。
使用人から聞いていた話とは違う。
政略的なものではなく、私の願いが叶ったと聞いていたのに……
ん?
『私の強い想い』により叶った婚約……
それって……
彼の気持ちは?
もしかして公爵家という立場で強引に伯爵家の彼との婚約が決定したのか?
そう思うと彼の反応も頷ける。
公爵から連絡あれば、伯爵家の彼は逆らえない。
私の見舞いに来たくて来たわけではないというのが伝わる。
「えっと、本日はわざわざお越し頂きありがとうございます。私は御覧の通り回復致しましたので、ご心配には及びません。明日から学園に登校できますので、今後はこのような事にはならないと思います。訪問してくださった事は父に報告しておきますので、長居は無用です」
私なりに精一杯彼に気を使った対応が出来たのではないだろうか?
「……分かった。本日はこれで失礼する」
彼は逃げるように去って行った。
私との婚約を受け入れていないのだろう。
「はぁぁぁぁぁ」
私の勇気を出したズル休みは、良好とはいえない関係の婚約者が来訪して幕を閉じた。
本日の一言日記。
ズル休みをすると良好でない婚約者がやってくる。
「ズル休みは……良くない」