婚約者
卒業式を迎える。
学園長の言葉を頂きながら、式の最中その後のパーティーのことばかり考えてしまう。
キングズリーから届いたドレスを早く着用したくて浮かれていた。
「アイゼンハワー令嬢」
式が終わりパーティーの準備に一度屋敷に戻る。
あのドレスをついに着用できると思い、焦る気持ちで馬車に乗り込む瞬間。
呼び止めれた。
「……はぁ……なんでしょうか? 」
いい加減、私に関わるのは止めて頂きたい。
以前、『私に話しかけないでください』ってお願いしたの忘れのか?
そもそも、貴方の不貞によって婚約解消したのだから、私に話しかける事は控えるべきではないだろうか?
「この後のパーティーでのエスコート役、俺にさせてもらえないだろうか? 」
下手に出ているつもりなのだろうが、彼にだけ利益がある提案だ。
私には迷惑でしかない。
「お断りいたします」
「もう、エスコート役は決定しているのか? 」
「私にエスコートは必要ありません」
まだ、婚約発表前なのでキングズリーのエスコートは受けられない。
それ以前に、キングズリーは教師としての仕事がある為エスコート役を担えなかった。
私達の婚約が決定した時には、卒業式やパーティーの準備の担当を任されていた。
交代するには理由を話さなければならない。
発表前だが、話しても問題ない。
それでも、キングズリーは教師を全うする事を選んだ。
「一人で入場となれば、良からぬ噂が立つ」
「構いません。貴方には関係のない事です」
「俺のせいだから責任を取らせてほしい」
「不要です。私、貴方と婚約解消になり本当に良かったと思っています」
「強がらなくていい」
「強がりではありません」
「……どうして、素直になってくれないんだっ」
「私は今までになく素直です」
貴方こそ私の言葉を素直に受け取ってほしい。
「シャルロッテ嬢は……俺がどうしてあんなに堂々と不貞の原因となる行動したか考えたことありますか? 」
「ありません。それより、名前を呼ぶのは止めてください。誤解されます」
「……アイゼンハワー令嬢。俺の事、婚約者だと思った事ありますか? 」
そんな事、私に聞かれても知らない。
「んふ、さぁ?」
精一杯誤魔化した。
「やっぱり、本当は俺が婚約者である事を忘れていただろう? 」
「どうでしょう、過去の事はきれいさっぱり忘れました」
記憶喪失なんで。
「過去……俺にとっては今も続いている」
「そうですか。だとしても、私達は婚約解消し終わった関係です。ハッキリ言わせていただきます。過去の私があなたにどんな態度だったとしても、それによって不貞が許されることにはなりません。信頼を裏切ったのはあなたです。今さら関係を見直そうとしたり、私を気に掛けることはおやめください。それは今後のあなたの婚約者になる方に注いでください」
「俺は今でも貴方の婚約者だと思っている」
ここまで言っているのに、何を言っているのこの人。
「私達は正式に婚約を解消したんです。受け入れて……理解してください」
「……俺は諦めるつもりは無い」
言いたいことだけ言って、アンダーソンは去って行った。
「なんで私があんな男の後ろ姿を見送らなきゃいけないの?」
後ろ姿をみてしまっただけでもイラついてしまう。
不愉快になりながら、馬車に乗り込み独り言を呟く。
「諦めるもなにも、終わってんだっつうの。あんなのと婚約解消して本当に良かったぁ。後は先生との婚約発表よね。早くしたいわぁ」