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急展開

「シャルロッテ・アイゼンハワー公爵令嬢に婚約を申し込みに来ました」


 先触れはあった。

 試験翌日は一日中睡眠を取り、夕食で父から『明日お客様がみえる、同席しなさい』と事前にあった。

 相手やどのような内容かは知らされていなかったので、相手が到着するまで呑気に構えていた。

 試験という難関を終え気が抜けていた。


「シャルロッテ、私は彼が婚約者となることに反対は無い。後はシャルロッテが決めなさい」


「私は……その……」


 あまりの突然の事でどうしたらいいのか分からない。

 何故急に婚約を申し込まれたのか……


「少し、二人で庭を散歩でもするかい? 」


 結論を出せないでいると父に提案される。


「はい」


 私が同意すると、相手も頷き二人で庭を散歩する。

 周囲には私達だけ。

 婚約者不在の人間が二人でいると何が起きるか分からない。

 だけど私だけでなく、父も相手を信頼している。

 なので周囲に見張りを置くような事は無い。


「あの……どうして急に? 」


「以前公爵から話があった。聞いてないか? 」


「聞きました……聞きましたが、もしかして私が公爵令嬢で父の提案を拒絶できずに仕方なく……ですか? 」


「そんなわけあるか。我が家は侯爵で格下だが、断る権利くらいある」


「それなら何故? だって……選び放題じゃないですか? 」


 令嬢達に人気で、婚約を申し込まれるような人。 

 そんな人が、わざわざ悪評だらけで記憶喪失にまでなった公爵令嬢は面倒でしかないのに……


「選び放題だから選んだ」


「……私を? 」


「そうだ」


 ここは怒るべきところなんだろうけど、何故私が選ばれたのかいまいちピンとこない。

 

「あの姿も見ごたえはあるが、今の方が断然いいな」


「えっあっせっせい? 」


 頬に添えられた大きな手。

 男の人の手は知らないけど、指が長くて綺麗。

 彼の手に手を重ね、頭を傾け彼の手を挟む。

 

「もう、あまり無茶はするなよ」


「はい」


「心配したんだからな」


「すみませっ……んっ」


 唇を親指で撫でられる。

 男性に唇に触れられるのも、誰かに唇を撫でられるのも初めて。


「この唇……柔らかかったな」


「……え?」


 それは……どういう意味?

 

「キスしてほしいって可愛く強請ったのはアイゼンハワーの方だろう? 」


「えっ? 私っそんな事……あっ……え? あれは夢じゃ……」


 確かに夢でキングズリーに抱き着いてそんな発言をしたような……

 あれは夢だったのでは? 

 だって、夢じゃなかったら……私……私…… 

 

「ふっ」


「あの時……」


 夢だと思って……

 私は確か、すすすす好きって言ってしまったような……

 それだけでなく、強引に言わせたような気がしなくもなく……

 それから……それから……

 私はキスを強請った気がしなくもなくて……


「どうした? 」


「わわっわわわあ……」


 あれが夢ではなく現実だと受け入れた瞬間、顔が熱くて堪らず腕で顔を隠す。

 私の人生初めてのキス。

 過去も今も、初キッスを経験してしまった。


「告白してくれたのに、俺と婚約したくないのか? 」


 俺?

 いつも先生は、自身の事を『私』って言っていたのに。

 それになんだか、以前までと違い男の表情に見える。


「そんなっ違います。先生が私の事どう思っているのか分からず、私の一方的な感情で婚約を申し込んでは迷惑になると思ったから……そうだっ、先生私の事どう思っているんですか? 教えてください」


「この前、言ったろ? 」


「い、い、い、今、教えてください」


「なら、寝ぼけてない今の状態で俺の事をどう思っているのか教えてくれ」


「わっ私から? 」


「そうだ」


「わっ私は……先生の事……先生の事……」


 私、気が付いた。

 人生で告白した事無い。

 これは試験以上に緊張する。


「ロヴァルト、俺の名前」


 なっ名前?


「ロ……ヴァルト先生?」

 

「ロヴァルト」


「ロヴァルト先生……」


「今は先生じゃなく、ロヴァルトだ」


「ロヴァルト……様?」


「まぁ、それでいいか。続けて」


「……続き。私は……ロヴァルトせ……様の事…………きです……」


「なんだ? 」


 キングズリーはわざとらしく私の口元に顔を近づけ距離を縮める。


「……きです」


 声が震えてしまう。


「聞こえない」


 もう、私の気持ちなんて伝わっているはずなのに。

 言わせようとするキングズリー。


「もうっ好きですっ」


 恥ずかしさを誤魔化す為に、叫んでしまった。


「……俺も」


「……んっ」


 キングズリーの唇が触れていた……

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