一人ぼっちのかくれんぼ、誰も私を見つけない
テレンシオールパーティー当日。
「お嬢様。準備を始めます」
「……よろしくお願いします」
眠い目を擦りつつ、早朝から使用人が気合を入れて準備をする。
彼女達が頑張ってくれるので、私がワガママを言える立場ではない。
彼女達は何時起きだったのだろうか? と余計な事を考えてしまう。
「まずは、髪の毛からね」
私の金髪は仮面を着けても目立ってしまうので、茶色に見える染料を施す。
三人掛かりで染められていく。
「お嬢様、旦那様よりドレスが届いております」
「そう」
頭を動かさず、目だけで確認。
父から届いたワンピースは、白から水色のグラデーションのドレス。
「わぁ、素敵なドレスね」
「はい。きっとお嬢様に良くお似合いになるかと」
ドレスだけでなく、靴も揃えられる。
髪の色が整うと、ドレスに着替え化粧が始まる。
仮面を装着するのだから、そこまで念入りな化粧は必要ないだろうに使用人は完璧主義なよう。
「お嬢様」
準備をしていると、使用人が訪れた。
「何? 」
「門番から報告があり、お客様がお見えだそうです……」
「お客様? 」
そんな約束はして……
嫌な事が頭を過る。
まさか奴じゃないよね?
我が家に来れるはずがない。
「それが……アンダーソン伯爵令息です」
本当に来た。
あいつは何を考えているのか……
よく、我が家に訪れることが出来るわね。
「約束はしていないわ。追い返して」
「畏まりました」
使用人は部屋を出て行く。
「あれに見られないように出発できるかしら? 」
パーティーに参加すると分かったら急いで準備し、私のパートナーになろうとするだろう。
我が家に来るくらいなので、彼もきっとパートナーはいない……いや、キープ令嬢とかいる可能性もある。
平民は衣装を準備するのが困難で欠席なので、ドレスを持参して出迎えるくらいなら彼はしそうだ。
その時、相手が私の事を尋ねたとしても、言いくるめるくらいお手の物だろう。
格上の婚約者に隠すことなく堂々と浮気するくらいなんだから。
そんな男に騙される平民がいるとは思わないが、私には関係のない事。
「裏口から出れば問題ないかと……」
「そうするわ……」
「お嬢様、もしかしてずっとあの令息に付きまとわれていたのですか? 」
「あぁ……うん。再婚約してほしいって付け回されているわ」
「なんとっ、それは旦那様に報告されたのですか? 」
「……してない」
「報告された方が……」
「……う~ん、そうだよね……」
追い掛け回されるのは面倒だが、公爵が動いたらアンダーソン伯爵家が大変な事になりそうで何も言えなかった。
「準備が整いました」
「うん」
鏡に映る私は髪色が変わるだけで大分印象が変わった。
「それとお嬢様、こちらを」
マキシーに手渡されたのは目元が隠れる仮面。
口元だけで判断されてしまえば気付かれてしまう可能性はあるが、今日の私はリップを濃いめで普段しないような髪型である。
今の姿の私がシャルロッテ・アイゼンハワーだと気が付く者は……いないと思いたい。
あれだけ『不参加致します』と宣言していたので、パーティー会場にいるところを見られたくない。
髪色を変えたし、仮面で顔もほぼ見えない。
ドレスに高級仕様はなく、宝石も今回は何一つ装着しない。
誰も私に気が付きませんように……
「ありがとう」
仮面を装着し準備が整う。
「お嬢様。先程来た令息ですが、『お嬢様が本日屋敷から出るつもりは無い』と伝えるとすぐに帰って行きました」
馬車に乗り込み、エイジャックスから報告を受ける。
本当に我が家を訪れるとは思わなかったが、一切粘らず帰って行くのには潔いというか……それなら訪れる必要がなかったように思える。
念の為、裏口から出発したがあの男の姿は無い。
「私の考えすぎだったみたいね」
学園に到着すると既に何台もの馬車が停車し生徒の姿を発見。
アニメなどで見たパーティーとは違い、豪華さを抑えた衣装に安心する。
全員が色を統一しているのがいいのかもしれない。
周囲を確認しながらパーティー会場とは違う方向へ足早に向かう。
学園に通うようになり校舎の大体の見取り図は把握した。
「ついた……」
私は誰にも気づかれないよう自身の教室に身を潜める。
「パーティー……どのくらいで終わるのかな……」