パーティーの事を考えると疲れる
「アイゼンハワー公爵令嬢、よろしいかしら? 」
久しぶりに生徒に声を掛けられる。
相手の名前は分からない。
「はい、なんでしょう? 」
「小耳に挟んだのだけど、キングズリー先生にハンカチを贈ったというのは本当かしら? 」
「贈った? 何のことです? 」
「……剣術大会でアイゼンハワー嬢がキングズリー先生にハンカチを贈るのを目撃したという方がいましたの。その方を疑っているわけではないのだけど、見間違いの可能性もあるでしょう? 間違っていたらあなたに申し訳なくて」
「噂の確認されるなんて、正義感溢れる方なんですね。ですが確認して頂き感謝します。私は誰にもハンカチを贈ってはいません。失くしてしまいましたから……もしかしたら私のハンカチをキングズリー先生が拾ってくださったのかもしれませんね。諦めていたのですが、確認してみます」
贈ってはいない。
手当に使用しただけ。
キングズリーが私のハンカチを手にしていても、問題ないような理由を提示しておいた。
「まぁ、そうだったの? 落とし物をキングズリー先生が……噂は訂正しておくわね」
「ありがとうございます」
最近、私の名前を口にしている生徒が多いのには気が付いていた。
相手がキングズリーだったりアンダーソンだったり顔も知らない人だったりと、正確な内容が掴めなかった。
だが、これで少しは解決できたのではないだろうか?
満足したのか、令嬢達は去って行く。
「私のハンカチの行方なんてどうでもいいじゃない? 」
キングズリーに興味があるなら本人に当たって砕ければいいし、アンダーソンは婚約解消し恋人とも別れたので今はフリー。
パートナーに誘うのに私を気にすることは無い。
自由にしたらいい。
「アイゼンハワー嬢」
振り向くのが嫌な人物に声を掛けられてしまった。
通ってくる雰囲気に逃げ切れないと身構える。
「アイゼンハワー嬢……剣術大会の試合見てくれたか? 」
剣術大会が終わり、男子生徒は一気にハンカチ争奪戦に挑み始める。
「いえ、観ておりません」
「そうか……三回戦まで通過したんだ。ブロックの優勝は逃してしまったが、令嬢が見てくれていると頑張れた」
「観ていません」
「そうだね。だけど、観てくれていると思っているだけで、実力を出せたと思っている。アイゼンハワー令嬢が俺に力をくれた」
「勘違いですよ」
「絶対に認めないんだな。それより、ハンカチの話なんだが……」
「別の令嬢から受け取っては如何です? 」
「アイゼンハワー嬢から貰いたい」
「ありません」
「キングズリー先生が拾ったって聞いたけど? 」
噂の訂正が、ここに影響するとは……
「汚れていたので、廃棄しました。誰かに贈れるような状態ではなかったので」
既にハンカチはこの世に無いと教えた。
これで諦めるだろう。
「そうか、なら誰にも贈ってないってことだよな? なら俺とテレンシオールパーティーを一緒に行かないか? 」
「行きません。何故私が婚約解消した貴方と一緒に参加しなければならないんですか? 」
「俺が令嬢をエスコートしたいんだ」
「私は貴方のエスコートなど受けたくありません」
「でも、パーティーにパートナーは必要だろう? 誰も君を誘ってないと聞く」
「パーティーに参加する者はパートナーが必要でしょうけど、私にはパートナーは必要ありません」
「一人で参加するつもりなのか? 」
「いえ、参加するつもりがないんです」
「参加……しないのか? なら、その日は予定がないってことだよな? なら、俺に時間をくれないか? 」
「お断りいたします。はっきり言わせてもらいますが、私がアンダーソン伯爵令息と再婚約する事はありません。このような話は二度としないで。それでは、ごきげんよう」
しつこすぎる。
きっと、公爵家との繋がりが切れたのが相当な痛手で必死なんだろうが、手遅れだというのを認めて私とは一切関係のない人生を歩んでほしい。
「私を巻き込まないでほしい……テレンシオールパーティーの日、本当に公爵家に訪れたりしないよね? 」
あの様子だと、我が家に突撃してきそうで怖い。
テレンシオールパーティーを出席するにはこれからパートナーが必要となり相手を探すのに苦労しそうだが、欠席すればあの男が屋敷まで現れそうで精神的に疲れそう。
「あの男が現れても私に取り次がないでって言っておかないと」