わるいことしたい……主役を奪われた
剣術大会当日。
男子生徒は気合が入っている。
ハンカチの予定がない者も、ハンカチの予定がある者も今日でひっくり変える可能性があるから。
私と言えば……
「試合、全部見なきゃいけないの? 」
既に帰りたい。
誰が勝とうが負けようが興味ない。
男子生徒の顔も分からない。
唯一分かる男子生徒にはハンカチを贈りたくない。
武器を持って戦う試合を見慣れていない私は、二・三試合で席を離れた。
予選は私だけでなく、女子生徒もあまり熱心に見ている様子はない。
女子生徒の関心は一つ。
能力のある男性。
間違っても一時予選敗退者にハンカチを贈らないようにと気を付けるくらいだ。
トーナメント結果は学園側は張り出しなどしないが、どこかの親切な人物が校内新聞などで詳細を記してくれる。
なので、熱心に一次予選を見る者は少ない。
「お金持ちだなぁ……」
学園内にカフェテリアが存在するなんて私は知らない。
令嬢達はそこで優雅に談話中。
結果を都度教えてくれる心優しい友人をお持ちのようで、速報を聞いて対応している。
その場に溶け込めず、一人カフェテリアを離れる。
『一回戦、君の応援で勝てた』
『そんな私なんて……』
『次も応援してくれ』
『もちろんっ。頑張ってくださいロドリゲス様っ』
至るところで青春が行われている。
誰もいないところを選んでいるのだが、私が選ぶようなところには既に先客がいたり誰かが訪れたりするので落ち着ない。
『あなたの声援で勝つことが出来ました。二回戦もあなたの為に勝ちます』
『はい、応援してますね。フェイダン様っ』
またか……と思っていたが、彼ら二人から視線を逸らす事が出来なかった。
それから各々戻って行く。
私がいなくても試合は行われ、二回戦が始まっていた。
『ロドリゲス様……試合……すごかったです……怪我……とかはありませんか? 』
『心配してくれてありがとう……大丈夫だ……申し訳ない……負……けてしまった』
『いえ……すごかったです』
『こんな不甲斐ない奴で……』
先程の彼は二回戦で負けてしまったようだ。
彼らがこれからどうなるのかは見ないでおこう……
その場を離れ、もう誰もいないだろうと競技場の裏へ移動。
「ここは……誰もいない」
やっと静かになった……
『……まさか、二回戦負けとは……はぁ……どうしよう……』
女性の独り言が聞こえ、身を潜めた。
『エイミー嬢……』
『フェイダン様っ』
私が選んだ場所は、再び恋人達の待ち合わせ場所だった。
『……応援してくれたのに、こんな結果で申し訳ない』
『いえ、試合すごかったです。怪我はされませんでしたか? 』
『怪我はしてない、ありがとう』
男性は二回戦で負けてしまったようだ。
負けを報告される女性も気まずいだろうに……
見てはいけないと背を向けていたが、つい振り向いてしまった。
確かめたかったのかもしれない……
あれは私の思い違いだと……
「……勘違いじゃなかった」
私が見たのは……
『おいっ、何故フェイダンといる? 』
先ほど立ち去ったロドリゲスが戻ってきた。
『ロッドリゲス様っ? 』
慌てたようすで振り返る女性。
『ロドリゲス、どうした? 』
フェイダンという男性とロドリゲスという男性は知り合いらしい。
『エイミー嬢、説明を願おうか? 』
ロドリゲスは女性に詰め寄る。
『これは、その……』
『エイミー嬢? ロドリゲスと知り合いなのか? 』
フェイダンだけは状況が掴めていない。
「これは…修羅場ね」
状況を把握するとロドリゲスとフェイダンはエミリー嬢の為に試合に挑む。
エイミー嬢は剣術大会で優秀な成績を残す男性に目を付け、粉を掛けていた。
「一人だけではなかったってことね」
多くの男性に声を掛けていれば、一人くらいい結果を残す人はいるだろう……
エイミー嬢の誤算は、男性二人が知り合いだった事。
それと二人が二回戦負けしたという事。
私から言えることは……
「どうしてそんな身近な二人に声を掛けるのよ。リサーチ不足でしょ」
次第に男性二人はヒートアップしていき、競技場でもないのに剣を構える。
まさかこれって、勝った方が『そいつは俺の女だっ』って、やつ?
「試合より興奮するじゃない」
一人の女性を巡って決闘なんて漫画みたい。
どうなるのか遠くから、安全な場所で傍観者に徹する。