私のやりたいこと……悪い事
私という人物がどんな人間なのか。
使用人の話と部屋の内装からお金持ちなんだろうと推測できる。
見栄で豪華な内装にしている可能性もあるが、そこは考えないようにしよう。
今はこの見た目と偽物のお金持ちを満喫しようと思う。
使用人と話していると、次第に自分の立場を受け入れていく。
「私は……死んだんだ……」
徐々にあの時の記憶が鮮明になって行く。
過去の私はつまらない人間だった。
学校に登校して、授業を受けて、帰宅する。
私は部活に入部はしていないし、校則に決められているバイト禁止も守っている。
周囲は隠れてバイトしているけど……私はしていなかった。
というより、校則を理由に面倒だからしていないだけ。
受験に失敗して遠い学校に通っていたので、朝は早く帰りが遅いのでバイトしている余裕がなかった。
なので家と学校の往復。
何の変わり映えもない日常。
いつものように慣れた道で家に帰る。
滅多に車の通らない道路でも、必ず信号は守った。
守っていたのに……
私は車に撥ねられた。
「私に似合いの終わり方……ハハッ」
自身の人生を振り返れば、つい笑ってしまう。
元々自らの意思で生きていたのか分からない人生。
世間に流され……常識に縛られ……規則に囲われ……
私はよく『真面目』と言われるが本当は違う。
教師に怒られるのが嫌。
後始末をするのも面倒だから無遅刻・無欠席・無早退。
委員会の委員長をしたのは、誰もやりたがらず教師に指名されたから。
いざという時の誰かの代行で仕事を頼まれた時も『信頼されている』からだと勘違いした事は無い。
同級生にも。『バイトで居残り出来ないから交代して。今度、言ってくれたら交代するから』と言われ交代するも、私が交代してもらったことは無い。
「頼みやすく、断らない、都合のいい人間」
それが私への周囲の評価。
『してはいけない事』でも『やりたいことをする人』に憧れを抱いていた。
私は周囲からの勝手な評価さえ裏切ることが出来ない、小心者。
過去を受け入れ、新しい自分を確認すると私の転生は幸運と言える。
「お金持ちで……父親に溺愛されている。性格に難ありの令嬢に転生なんて……私の理想そのもの……」
性格に難ありの令嬢に転生する事に不安を抱く者もいるだろう。
だけど、私は嬉しくてたまらない。
それにお金持ちで父から溺愛だなんて……
「それって……怖いものなしってことだよね? 」
元々悪い噂しかない令嬢であれば、評価など気にせず私が今まで出来なかった『悪い事』が出来る。
そう思うと嬉しくて堪らない。
それが『肩書がなければ何もできない小心者』と嫌われるような人間だったとしても私はそれでいい。
「私はこれから、やりたい事を経験するんだっ」