残りの長期休暇
あれからテオバルドが来店するのか半信半疑ではあった。
社交辞令で『また』と言ったのだと思っていたが、彼は本当に訪れた。
「自意識過剰だ。お店の味が好きなら私なんて関係ないよね」
そう言い聞かせ、働く。
テオバルドは以前と変わらない頻度でやって来ては挨拶し食事をする。
キングズリーは私に興味なく、食事を終えればいつの間にか去っている。
「なぁ、シャーリン。休みは何してんの? 俺と一緒に出掛けない? 」
……リアムだけが来店の頻度を増し、強引さを増していく。
その姿が日常になってしまったのか、常連客はリアムを応援する者が現れる。
周囲の挑発に鋭い視線を送り相手を威圧しているのが、我が公爵家の騎士だと判断出来た。
私が公爵令嬢と知られないよう、過剰に反応しないように騎士には伝えてある。
なので、リアムへは自分で撃退したいと考えている。
「休みは休みたいと思っていますので」
「なら、仕事上がりは? 」
「疲れているので、直ぐにや……家に戻ります。姉と一緒に」
「そんなんじゃ詰まんないだろう? 俺が色んなところ案内してやるよ」
「結構です」
「彼氏でもできた? 」
「さぁ……どうでしょう」
勢いで『いませんっ』と答えようかと思ったが、それの方が面倒になりそうだったので誤魔化した。
「シャーリン、こっち手伝っておくれ」
「はい」
女店主に呼ばれると、リアムも諦めて退散する。
この人さえいなければ、良い職場なんだけどな……
店主やマキシー、エイジャックスにテオバルドもリアムの強引さを引きはがしてくれる。
最近では、常連客もしつこいと判断するとリアムを制してくれる。
そのせいか、注文のやり取りしかしなかったお客さんとも会話が増えた。
それも今日で最後。
長期休暇も残り僅か。
数日後には王都の屋敷に戻るので準備だったり、最後にもう一度町を見たいと思っていた。
「ご苦労さん。今日で終わりだと思うと寂しいね」
「はい。皆さんには最後まで良くしていただきました」
「これ給料だよ」
「はい、ありがとうございます」
店主に別れを告げ、マキシーとエイジャックスの三人で屋敷に戻る。
夕食の時間。
父に無事バイトをやり遂げたことを報告すると、涙ぐみながら褒めてくれた。
「よくやったな」
「はい。明日は最後に領地を観光したいと思います」
「あぁ、気を付けるんだぞ」
「はいっ」