領地に到着しました
数日移動し、漸く父が治めるという領地に到着した。
他の領地は知らないので比べることは出来ないが、今のところ領地内が殺伐としていたり貴族を目の敵にしているようには感じなかった。
父が領地に招待するくらいだから、安定はしているのだろう。
「シャルロッテ、私は仕事があるから一緒にいてやれないが何かあれば執事に言いなさい」
「はい」
領地到着した当日は何かをする気力はなかったが、二日目になれば違う。
私も父の邪魔をしたくないので、大人しく過ごす気持ちはある。
それも暇はどうしようもない。
「町を散策してもいいのかな? 」
「護衛騎士と共にでしたら、旦那様からの許可も頂けると思います」
「そっか、なら町を見てみたい」
「畏まりました、準備いたします」
マキシーはすぐに父の許可を取り、お土産の金貨まで手にしていた。
平民に見える衣服が用意され、領地に滞在している騎士にも話を通し護衛が決定する。
準備が整うと町にでる。
王都とは違う街並みに気持ちが高まり、注意力散漫になってしまう。
色んなものに興味があり目を奪われる私の危うさに、騎士が後方で目を光らせていた。
「お嬢様、少々落ち着かれた方がよろしいかと」
ついにはマキシーに窘められてしまった。
「……はい」
幼い子供のような私の反応に騎士は首を傾げる。
今回私の護衛を務めるアイゼンハワー公爵領の騎士エイジャックス。
腕を見込まれ今回抜擢された。
領地の者は私が記憶喪失だというのを聞かされていない。
なので、私の印象は過去のシャルロッテ・アイゼンハワーのまま。
「マキシー、あれは何? あっちは? 」
先程注意を受けたばかりだというのに、再び町の雰囲気に翻弄されてしまっていた。
「……お嬢様、あちらのカフェでお休みになられてはどうですか? 」
「カフェ? いいねぇ。行こう、行こうっ」
マキシーの提案を受け入れる私に、エイジャックスが後方で安堵してることに気が付いていなかった。
私の危うさを心配してマキシーが動いたのだ。
二人の心配も私は気が付かず、父が治める領地は私が思っていたより繁栄しているんだなぁ~と能天気な感想を抱く。
「領地に住むのも悪くないねっ」
「えっ? 」
私の発言に驚いたのはエイジャックス。
「どうかした? 」
「……いえ、以前訪れた際にお嬢様は『何もないところ、早く王都に戻りたい』と仰っておりましたので」
「そうだったの? まぁ、あの頃は領地の良さが分からなかったのね。今は素敵な場所だって気付いたわ」
なんの知識もなく神社・仏閣を訪れても分からないが、知識を得た時その凄さが分かる。
シャルロッテは領地の知識がなく、ただ単純に王都と比べてしまったのだろう。
領地では、パーティーやお茶会に招待されることは無い。
王都のカフェは華やかで洗練された店内、娯楽も最先端なので領地で同じ体験を望んでも難しいだろう。
騎士は小声で『昨年の事ですが……』と呟いたが、聞こえない事にした。
人は突然その物の良さに気が付くものだから……
そう、突然目覚めるのよ。
領地を充分堪能し、満足して屋敷に戻る。