試験
「芸術祭も終わり、もうすぐ試験だ。この時期の試験が何を意味するかは各々理解しているだろう。確り準備しておくように」
三年の試験は卒業に関わってくる。
平民は就職、令息は当主としての資質、令嬢は婚約に影響。
「……試験」
この世界にも試験があるのは予想出来ていた。
日々の勉強も真面目に受けている。
だが、私には懸念事項がある。
私が転生する前の記憶はない。
記憶喪失前の問題が出た場合、私には答えられない。
試験範囲が公表され確認すると、私の知らない部分が少しあった。
「試験、大丈夫そうなのか? 」
私を心配してくれる数少ない人物。
「キングスリー先生……正直、記憶にない部分も範囲にあるので不安ではあります」
「先生方に話して補講してもらうか? 」
「いえ、そこまでしてもらう訳にはいきません。それに……過去の私って先生方にどの様に思われておりました? 」
授業を受けていると、先生方の私を見る目が気になっていた。
「過去のアイゼンハワーは……周囲を気にしない、自分を持った人間だったな」
「取り繕わなくて結構ですよ、正直にどうぞ」
「教師さえ気にすることのない公爵令嬢だったな」
「先生方の私への評価は? 」
「授業態度は問題なし、成績は平均、生活態度は……問題ないとは言えなかったな」
「例えばどんなことですか? 」
「気分屋で自主休校が多く、時間という概念がない。嗅覚が鋭いのか教師から何かを任されると予感すると気配を消す。課題は他生徒に代わりにさせ金で買収、芸術祭などの作品は独創的で凡人には理解できない」
「……なんだかすごい人だったんですね」
「あぁ。手の付けようがない、信念の強い生徒だった」
「厄介な生徒だったという事ですね」
「……あぁ」
認めちゃった。
自主休校に時間の概念がないねぇ……んん?
それって……ズル休みに遅刻?
気配を消すは……かくれんぼ?
お金で買収ってパンの事?
凡人には理解できない程の作品って、私の絵画も……
それって……今の私とやってる事、変わらないですよね?
転生する前と後の私って根本的には同じ人間ってこと?
「……勉強は自力でします」
「無理するなよ。分かる範囲であれば私が教えてやる」
「ありがとうございます」
授業の範囲は、徹底的に頭に叩き込み記憶にない部分は自分なりに勉強した。
だが、その部分を理解するには更に前の部分を理解しなければならず、次第に三年の教科書では難しくなり二年の教科書を取り寄せる。
そうしていくうちに、一年の教科書に辿り着いてしまった。
そこから今の範囲の試験に追いつくのか不安になり、徐々に睡眠時間は削られていく。
「お嬢様、無理なさらない方が……」
私を一番近くで見てきたマキシーが心配する。
「大丈夫、試験の期間だけだから」
試験さえ終われば今のように深夜まで勉強する事はない。
「試験勉強を頑張っていると聞いた。記憶が戻らないからって、無理するんじゃないぞ」
マキシーから報告があったのか父にも心配をされてしまった。
「大丈夫です」
試験日が近づくにつれ私の睡眠時間は更に減少。
ついに試験前日はゼロになった。