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幸せになるのは私よ、と疑わなかった女視点

 〈エヴァリーン・マルティネス〉


 あの女が学園で婚約解消を宣言したのには笑えた。

 人目がある場所で婚約解消を宣言してしまえば取り返しがつかなくなることも分からない女だったとは……

 

「昔から短絡的というか、だから彼も私といる事を選んだのよ」


 婚約解消となりすぐに私と婚約したらあの女はどんな反応をするのか楽しみで仕方がない。

 彼に目を付けたのは私の方が先だった。

 母の知り合いのお茶会に参加した時、天使のような彼に出会った。

 私の一目惚れと言っても過言ではなかった。

 長い睫毛にぱっちりとした目、透明感のある肌に光に当たると輝いて見える髪。

 私だけでなく、数人の令嬢も彼の外見に目を奪われる。

 だが、伯爵令息に興味のない令嬢もその場には存在していた。

 私は状況を客観的に見て、特別感を演出する。

 

「私は誰よりも可愛いから、選ばれるのは私ねっ」


 見た目には自信がある。 

 どのお茶会でも私の周りには男の子が集まり、女の子からは羨望の眼差しが集まる。

 その光景が私に自信をくれる。

 

「貴方が私の婚約者よ」


 彼とは良好な関係を築き、私の両親が話を持ち掛けているのを知らずに愚かな令嬢が彼に婚約を申し込んでいた。

 私を好きな彼なら断ると確信していた。


「……え? ジャイルズ様が……婚約? 相手は公爵令嬢? 」


 格上の人の婚約宣言を受け拒否できなかったと後から知った。


「シャルロッテ・アイゼンハワー」


 私のジャイルズを奪った女。

 それから私の婚約者探しが再び始まる。

 私は伯爵家の一人娘。

 婿を必要としている側なので、婚約の決定権は私にある。


「どの男もジャイルズのように美しくないわ……あの女が邪魔をしなければ……私のを奪うなんて……絶対に許さないんだから」


 婚約者が決まらないまま、学園に入学。

 ジャイルズも入学していると思うと自然と彼の姿を探していた。

 子供の頃の彼しか知らなかったが、きっと美しく成長しているに違いない。


「ジャイルズ。お前も大変だなぁ、あの婚約者」


 ジャイルズ? 

 彼の名前を聞き周囲を見渡す。

 

「(どこにいるの? )……ジャイルズ? 」


「……エヴァリーン? 」


「えっ? 」


 振り向いた彼はあの頃の面影はあるものの、私が一目ぼれした美しさは鳴りを潜めてしまった。

 長い睫毛や瞳は変わらずだが、輝く髪はただの茶色に天使の表情は年相応の青年に……

 それなりに素敵だと思う。

 ただ、あの頃の美しさは無かった。

 それから会話するようになると、彼が私に気があるのがすぐにわかった。

 

「婚約者とはどうなの? 」


「あれのワガママにはうんざりだよ」

 

 彼の口から聞く婚約者の話は否定的な内容ばかり。

 彼が私に癒しを求めているのはすぐに気が付いた。

 なので私は彼の願いを叶えてあげることにした。

 

「私が味わった悔しさをあの女も受けるべきよ」


 二人を婚約解消させようとは思っていない。

 彼が公爵となった時、あの女より私に貢がせたかった。

 

「シャルロッテ・アイゼンハワーが婚約解消を宣言したぞ」


 突然の報せが学園を駆け巡った。

 その噂が広まると、皆が私を確認する。

 私とジャイルズの関係を知らない者はいない。

 自然と周囲はジャイルズが私の為に婚約解消を望んだのだと邪推する。

 だけど、それは正しい。

 私が婚約解消を唆したことは一度もない。


「早く婚約を申し込みなさいよ。婚約解消して直ぐに私と婚約したらあの女どんな顔するのかしら? 」


 そんなことを考えていると自然と表情が緩んでしまう。

 彼からの婚約の打診を待っていると、公爵から連絡があった。

  

「慰謝料請求? 」


 公爵家へ両親ともに訪ねる。

 何故呼ばれたのか分からないが、公爵から『ジャイルズとの関係を聞きたい』というので正直に答えた。

 両親は初めて私と彼の関係を知ったようで驚いていた。

 その後、両親は何度も頭を下げ謝罪していた。

 何故そんな事をするのか理解できなかった。

 彼を繋ぎ留められなかったのは彼女。

 浮気をしていたのは彼。

 私は誰とも婚約していないので悪くない。

 

「なんで我が家が慰謝料を払わなければならないんですか? 」


 私の質問に両親は唖然としていた。


「何故こうなったのか理解できるまで学園に通う必要はない」


 父から休学するように言いつけられた。


「芸術祭が近いのに休学なんてしたら、私の舞台はどうなってしまうの? 」


 部屋から出ることも許されなかったので、いつ復帰してもいいように演劇の練習を一人でしていた。

 それなのに……

 努力していたのに、芸術祭直前になっても復帰は認められず結局芸術祭に参加できなかった。


「お父様もお母様も、どうしてわかってくれないの? 」


 ジャイルズからの婚約の打診が届くまで私から連絡はしないと決めていたのに、いつまでたっても打診が来ないので仕方なく手紙を送った。

 彼が鈍感と言うか、察しの良い人間ではないのでこちらから手を差し伸べてあげないといけない。

 

「返事は届いた?」


 毎日使用人に返事が届いていないのか確認する。


「いえ、届いておりません」


「ねぇ、返事は?」


「今日も手紙は届いておりません」


「返事はいつなの? 」


 いつまで経っても彼からの返事は来ない。


「……お嬢様。手紙は届けておりません」


 私が手紙を預けた使用人が白状する。

 

「どうして届けていないのよっ。今すぐ届けに行きなさい」


「旦那様の指示です」


「どうしてそんなことを? 」


「私は旦那様の指示としか……」


 何故父がそんなことをするのか理解できない。

 彼との手紙のやり取りは今回が初めてではない、それなのに突然どうして?

 

「エヴァリーン、試験が近いから学園復帰を許可する。だが、アンダーソン伯爵令息には近づくな」


「どうしてですか?」


「まだ分からないのか」


「彼はあの人との婚約解消を望んでいたし、私との婚約を望んでいます。私達は何も悪い事していないわ」


「婚約者のいる令息に近付き婚約解消の原因となった事を悪い事とは思わないのか? 」


「二人の仲は良好ではありませんでしたし、彼が私を選ぶのは当然です」


「婚約者の関係に他人が口を出す事ではないんだ。お前のした事はアイゼンハワー公爵家を敵に回したんだ」


「そんなっ、私達の関係に親が出てくるなんて……だから彼に嫌われるのよ」


 すぐに爵位を持ち出すなんて、自分に自信がない証拠じゃない。

 公爵家に生まれたのは偶然に過ぎないのに……


「ふざけるなっ。婚約は家同士の繋がりでもあるんだ、公爵が抗議するのは当然の事だ。いいかアンダーソン伯爵令息に二度と近付くなっ、話しかけるなっ、それが守れないようなら学園に復帰する必要はない。すぐにでも結婚させる。お前の意思を聞くつもりもない。分かったら部屋に戻りなさい」


 納得できないまま執務室を追い出されてしまった。

 私がジャイルズと距離を置くとしても、彼が私に近付いてしまったら仕方がないと思う。

 

「だって、彼は私の事が好きなんだから」

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