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悪い事したい・その七……ふざけているようで本気の作品

 キャンパスをと向き合う事、数時間。

 

「何も描けない」


 何を描いていいのかすら分からない。


「もう、風景でいいよね……」


 学園の美術室から見える風景を描く。

 美術室から見えるのは中庭。

 生徒が数名確認できる。

 初めは景色を忠実に描く事を理想としていたのに、次第に自身の画力のなさにぼやけていく。

 

「……私ってこんなにも下手だったの? 」


 次第に訂正も出来ない程おかしなことになっていく……

 筆を持つ手が震え、キャンパスにも伝わって行く。


「どうしよう……震えが止まらない……」


 震える手で描いているので、絵がもう取り返しのつかないことになり始めた。


「……こ、こ、こ、これ、どうしよう……ちょ……ちょっと、休憩しよう、休憩……」


 筆を置き少し休憩しようと立ち上がる。


「ん? あっ……ギィヤッ……う……嘘っ……嘘でしょ……」


 イーゼルの端に制服が引っかかりキャンバスが倒れてしまった。


「うわぁ……やっちまった……」


 恐る恐る持ち上げると、ぼやけた絵が更にぼやけてしまった。

 

「こうなったら……」


 絵具を筆に染み込ませ飛び散らかす。

 良く見れば見えるような気がするが、決してはっきりとは見えない。

 そんな仕上がりになった。

 

「これでいっか……」


 何とか私の作品が完成。

 期日内に提出することが出来た。

 漸く悩みの種から解放され平穏に過ごす。

 その間、絵画の出来なんてすぐに忘れてやった。


「アイゼンハワーッ」


 緊急なのか、険しい表情でキングズリーに呼び止められる。


「はい。どうしたんですか、そんなに慌てて」


「少し話がある」


 押し殺したような声。

 何が重大な事のよう。


「はい」


 キングズリーの後を追うと、先日提出した作品が飾られている。


「これはなんだ? 」


「これ? 芸術祭の作品です」


「そうではなく、この絵についてだ」


 やばっ。

 もしかして、こんなぐちゃ……混沌とした絵は受け入れられないのだろうか?

 芸術は『独創的』が許されると思っていたが、意味をはき違えていたのかもしれない。

 どうにかして、それらしい理由を……


「えっと……これは……その……私の、頭の中を……表現しました……」


 記憶喪失と言うのが今ほど役に立ったことは無い。

 ないのだが……誤魔化しきれていないか?

 やっぱりこの絵は無謀だったか……

 だが、何度描いても同じ物しか出来ないだろう……


「あっ……そういう事か……」


 私の咄嗟の言い訳にキングズリーはもう一度絵を確認し納得。

 心の中では『ごめんなさい、嘘です。キャンバスをひっくり返してしまいこんな仕上がりになりました』と必死に謝罪。

 

「……これ……描き直した方がいいですか? 」


 私にとっては渾身の作品だったのだが、受け入れられないのであれば仕方がない。

 どうにかして、まともな絵を……


「いや。この作品には賛否両論はあると思うが、このままでいこう。展示した時にどの作品も否定的な言葉を受けるが、私はこの作品を気に入った」


 賛否両論……

 先生も否の方で私を呼び出したのかな?

 だけど、私が記憶喪失という事で同情してしまった?


「……ありがとうございます」


「話はそれだけだ」


「はい」


 もしかしたらキングズリーは、私がふざけて描いたと思い確認に来たのかもしれない。

 

「これでも本気だったんですけどね……」


 もう一度自身の絵と向き合った。


 本日の一言日記。

 下手過ぎる本気の作品には誰も何も言えない。

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