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半分冗談ですが、半分本気です

 屋敷に到着。


「お父様と話したいことがあるの」


「旦那様ですか? お伝えしてきます」


 家族と会話するにも事前に許可が必要なのは、貴族は面倒だ。


「お嬢様。旦那様がお会いになるそうです」


 父のいる執務室へ向かう。


「お父様……」


「入りなさい」


「はい」


「どうしたんだ?」


 仕事中にも拘らず手を止め、私に視線を向けてくれる。


「私の婚約についてなのですが……」


「おぉ。アンダーソン伯爵とは話が付いているから心配はいらないぞ」


「……その事なんですが、アンダーソン伯爵令息との婚約を解消する事は出来ませんか?」


「解消? どうしてだ? 何をされたんだ? 私に話してみなさい」


 娘溺愛の父。

 私としては奴の浮気など全てを話してしまいたいが、約束してしまった手前なんて説明したらいいのか悩み中。


「……分かった。婚約解消を望むんだな?」


 何を分かったのか私には分からないが、婚約解消できるのならそれでいい。


「はい、よろしくお願いします」


 私が何も話さなかった事で、娘溺愛の父も何もしない……

 なんて事はなくアンダーソン伯爵と令息二人を呼び付け、何故私が婚約解消を望むような結果になったのかを懇切丁寧に時間を掛けて聞き出していた。


「公爵様、シャルロッテは何か誤解しているようなんです」


「誤解? 何のことだ?」


「それは……」


 ジャイルズは口を閉ざしてしまった。


「本当の事を話した方が良いんじゃないのか? 」


「……本当の事……ですか? 私は先程から、本当の事を……」


「娘が何も言わないからと、私が知らないとでも思っているのか?」


 普段笑顔を絶やさない優しい人の凄みは迫力がある。

 知らない公爵の表情にジャイルズは震えあがる。


「こ……公爵様……それは……」


「私は娘の幸せを第一に考えている。その娘が必要ないと判断すれば、私はその願いを叶えるだけだ。その理由が相手にあれば私は容赦しないぞ」


「あっ……あっ……申し訳ありません」


「ジャイルズ?」


 謝罪を口にするジャイルズに伯爵が異変を感じる。


「あの……………リーンとは……最近親しく……」


「ジャイルズ。私は娘から婚約解消の提案がある前から君の状況を把握しているぞ」


 その言葉で諦めたようにジャイルズは恋人の存在を嘘偽りなく明かす。

 アンダーソン伯爵は『息子の不貞は若気の至り』だと発言し、婚約続行を願うも解消が覆ることは無かった。

 ジャイルズの方は、潔かった。

 事前に『公爵は元から自身を望まず、別の人間を考えていた』という事を教えていたので悪あがきをしなかった。


「シャルロッテ、婚約解消が決定した。慰謝料は好きに使うといい」


 両家からの慰謝料は全額私が使用して良いと渡された。

 話題の彼らは当分学園を休むことになった。

 ちなみに、両家とはアンダーソン伯爵家と恋人のマルティネス伯爵家。

 彼らとは、ジャイルズ・アンダーソンとエヴァリーン・マルティネスの事。


「アイゼンハワー、少しいいか? 」


「はい」


 婚約解消した私を腫れ物のように扱う人達の中、キングズリーに呼び止められる。


「どうだ? 芸術祭の方は順調か? 」


「……何とか、今日から作業に入ろうと思っています」


 ……本当は何も決まっていない。

 美術館では何か閃かないかと期待したが、別の事に気を取られて何もアイデアが生れなかった。

 色々考えたいのに、様々なところから邪魔が入る。


「……大丈夫なのか? 」


「まぁ、何とか期日までに何かしら提出したいと思います」


「いや……そちらもだが……」


「あっ、記憶の方ですか? まだ、何も。今は無理に思い出そうとはしていません」


「それもなんだが……」

 

 私が他にキングズリーに心配されるような事ってあったか?


「他ですか? 」


「……婚約……解消したと聞いた」


「あっそれですか。はい、しましたね」


 その事か。

 その日のうちに拡散されていたので、教師の耳にも入ったらしい。


「……無理する事はないんだぞ? 」


 もしかしたら、私が婚約解消され落ち込んでいると思って声を掛けてくれたのだろうか?


「無理はしていません、あの人との婚約を継続している方が苦痛でした。一つ、悩み事から解放されました」


「……そうか」


「先生は心配してくれているんですか? 」


「当たり前だ。忘れているのかもしれないが、令嬢が婚約解消するのはかなりの痛手となる。傷物令嬢とされ、次の婚約が決まり難いどころが酷い人物に嫁がされることもある」


「では、先生が婚約者になってくれますか? 」


「何故そうなる? 」


「先生って結婚されているんですか? 」


「結婚はしていない」


「婚約者は? 」


「いない」


「なら丁度いいですね。どうです私なんて? 」


「そのくらい冗談が言えるなら大丈夫そうだな。芸術祭楽しみにしている」


 キングズリーは振り向くことなく去って行った。


「……行っちゃった」


 キングズリーへの婚約の打診は、半分冗談だったが半分本気……


「冗談めかしじゃなきゃ言えないことってあるのに……」


 この手の冗談は私には似合わないらしい。

 言って後悔した。

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