芸術祭
「もうすぐ芸術祭が開催される。絵画・彫刻・工芸・演劇・音楽。どの分野でも構わないが、全員参加となっている」
ホームルームにキングズリー先生からの伝達事項。
「全員参加……芸術祭」
どの分野も私には向いていない。
絵も下手だし手先は不器用。
演劇なんて人前に出るのは苦手だし、楽器なんてリコーダーくらいしか触れてこなった。
頭を抱え芸術祭に悩んでいる姿を教壇から目撃されていたが、それどころではない。
「芸術祭……芸術祭……」
音楽祭とか経験はあるが、それはクラス単位で合唱したくらいで一人で楽器を演奏なんてしたことはない。
「あぁ……どうしよう……」
集団で紛れそうなのは演劇だが、本番セリフが飛んだりしたら私だけの問題ではなくなる。
音楽は今から練習しても間に合わないだろうし、きっと誰かの前で審査されるはず……
「それも無理」
同じ自己責任なら、絵画・彫刻・工芸であれば事前に準備出来る分、余裕がある。
「よしっ、絵を描こう……」
絵を描くにしても、この国の絵画の流行ってなんだろう?
芸術祭に向けて、下調べも必要よね?
確か以前町を見た際マキシーが貴族街には『美術館』があると言っていた。
今度の休みにでも見学に行こう。
「嘘でしょ……」
休日にマキシーと共に美術館にやって来た。
美術館はジャンルや時代別に展示され、最近人気の芸術家の作品なども幅広く展示されている。
最近流行りの絵画までくると見知った顔に気付く。
相手も私だと分かると、気まずい表情を見せる。
彼は女性と一緒に来ていたようで、女性が私に気が付かないうちに立ち去りたいようだ。
だが突然過ぎる男の態度に不審に思った令嬢は、周囲を確認するように振り向き私を見つける。
「フッ」
声は聞こえなかったが、令嬢が私を見て勝ち誇った笑みを向けたように見えた。
「お嬢……様? 」
一連の流れを目撃していたマキシーが心配したように私に声を掛ける。
「何? 」
「……いえ」
彼らが立ち止まって見ていた絵画まで辿りつく。
「何……この絵……」
「こちらは……最近人気急上昇の絵画です」
「これが……」
「……はい」
ただ絵画を見ているだけの私達。
絵画についての質問に答えるマキシーが何故しどろもどろな返答なのかと言うと……
「『夫が愛人と庭園で戯れている姿』をわざわざ絵画に残すなんて……明らかな不貞の証拠でしょ? 」
昨今歴史画や宗教画・神話画が多かった中、愛人との関係を描いたこちらの作品は一気に注目を浴びた。
公開された当初は非難が相次いでいた。
愛人は男に素足を見せつけ、男はその足に釘付け。
彼らを睨みつける妻にも見える女性の姿も……
その絵画を多くの者が批判すると、一部の擁護派が生れる。
「『芸術』に目くじらを立てる方が教養に欠ける」
彼等の言葉が広まると
『芸術に疎い』
『頭が固い』
『寛大さに欠ける』
受け入れない人間の方が、後ろ指を指され始める。
次第に非難していた者は口を閉じ始めた。
芸術祭の為に情報を得ようと来たのだが、要らぬ情報を得てしまう。
「もう……帰ろうか……」
「……はい」
芸術祭の為に『美術館に行きたい』と話せば喜んでいたマキシーも、このような結果に項垂れてしまった。