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悪い事したい・その三……広いお家といえば本気のかくれんぼ

 確かにお父さんに、お小遣いを願いました。

 いくら欲しいとは言っておりませんが、参加してくれる皆が本気になってくれるくらいのと祈りました。

 それがどうでしょう……


「こちら旦那様からお預かりした金貨でございます。『足りないようならお店には公爵家の名前を出し、請求書を送るように。金額など気にする必要はない』それと『町に行く時は、必ず護衛騎士を付ける事』とのことです」


 ……言葉の意味は分かる。

 理解はできていると思う。

 だけど……

 そんな事言う人、本当にいるの? 

 そんなことを言われて育つ人、本当にいるんだね……

 なんか……

 なんだろうな、この気持ち……

 

「ふぅぅぅううううううう……よしっ」


 一度深呼吸して気持ちを整える。

 娘を溺愛している人物がどのくらいの金貨を準備したのか確認をする。

 革袋の中の金貨の枚数を調べる。

 四十九……五十。

 ピッタリ五十枚。


「ねぇ、マキシー公爵家に仕える使用人って何人くらいいるのかな? 」


「執事、使用人、騎士、料理人、庭師と厩務員(きゅうむいん)さらに彼らの見習いを合わせますと……二百名はおりますね」


「に、に、二百っ?」


「正確には、それ以上かと」


「それ以上……」


 転生ものでふんわりとした知識しかなく、使用人も多いんだろうなぁ……

 くらいにしか思っていなかったけど、二百という人数には驚いた。

 

「どうされました?」


「あっ……えっと……厩務員って何? 」


「馬の世話を担当している者です」


「おおっ、馬の世話する人」


 馬……いるんだ……そうだよね……よく聞くよ。

 移動は馬車の世界だもんね。

 それより、金貨の枚数と公爵家に仕えている人の数があっていない。

 どうしよう……


「どうかなさいました? 」


「ううん……今回は料理人と騎士と庭師と厩務員はお休みかな……」


「お嬢様? 」


「マキシー、執事と使用人と見習いを玄関ホールに集めてもらっていい? 」


「……全員でしょうか? 」


「手の空いている使用人……かな……それと屋敷の見取り図も欲しいなっ」


「畏まりました」


 お金持ち令嬢のワガママという事で、不安な面持ちで玄関ホールに集まっている。


「四十ニ……四十三……四十四人か……」


 金貨は五十枚なので、ギリギリ間に合った。

 私は地図を持って皆と対面。


「それでは皆さん、これから本気のかくれんぼをして頂きます」


 私の突拍子もない発言に皆、唖然としている。


「……えっと……ご存じの方もいるかと思いますが、私は記憶が……曖昧で屋敷の事も皆さんの事もわかりません」


「えっ? そうなのか? 」


 記憶喪失の事を話すと、彼らの反応からして私の状態を知らない者がほとんどだった。


「ですので、かくれんぼしながら場所と皆さんを覚えていきたいと思っております……」


 彼らの反応を窺いながら話を進めるも、そんな事に協力するの? というように見えなくもない反応。

 彼らが本気になってくれるようある提案をする。


「時間内に私が発見することが出来ず、最後まで逃げ切った人には金貨一枚差し上げます」


「金貨……一枚……」


 賞金が出ると話せば、彼らの目が変わった。


「ルールとして制限時間は一時間、隠れ場所は本館のみ。本館も執務室と宝物庫、私の部屋以外の建物内。天井裏など、脚立を必要とするところは今回はなしという条件です。参加者は一度隠れた場所から移動する事は禁止、発見された者は私に名前を宣言し勝敗が決まるまで玄関ホールに待機。そして時間過ぎても発見されなかった者には賞金、金貨一枚。もし、逃げ切ったのが一人だった場合、その方が金貨総取りとなります」


「総……取り? 総取りってどういう意味でしょうか? 」


 一人が手を挙げて質問する。

 彼は意味が理解できないのではなく、自身が理解してるのと私の発言が合っているのか確認したい様子。

 

「総取りとは、この場にいる者が受け取るはずだった金貨を独り占めできるということです。今回参加しているのは四十四名ですので、金貨四十四枚が賞金となります」


「金貨……四十四枚……」


 思わぬ臨時収入を手に入れることが出来ると聞き、緊張感が張り詰める。


「それで……皆さん、かくれんぼに参加して頂けますでしょうか? 」


「「「「「「「「もちろんですっ」」」」」」」」


 こんな遊びに参加してくれるのか不安ではあったが、全員参加してくれるようで良かった。

 

「では皆さん。私は一度自室で待機いたしますので、隠れてください。開始は三十分後です」


「「「「「「「「はい」」」」」」」


 宣言通り私は自室に戻る。


「……マキシー? どうして一緒にいるの? 」


「私はお嬢様の専属侍女ですから? 」


「マキシーも参加して」


「……ですが、お嬢様の傍を離れるわけには……」


「建物内から出る事はしないし、皆が私に集中していると思うから平気よ」


「ですが……」


「マキシーも参加してほしいの。私を誰よりも知るマキシーなら、私が見落としがちな場所に隠れるでしょ? 私はマキシーこそ見つけたいのっ」


「……分かりました」


「うん。早く隠れて」


 マキシーも隠れることに納得し、私は部屋に一人となる。

 時間が来るまで地図を眺め、どんなところに隠れるのか予想を立てる。

  

「大体、ベッドの下、カーテンの裏、テーブルクロスの下は定番よね。クローゼットの中に棚の中、あと大人が隠れられそうな場所は……あっそろそろ時間ね」


 大きな屋敷を使って大人の本気のかくれんぼが始まった。

 自室の部屋の隣から捜索を開始する。

 一部屋一部屋丁寧に。

 やはりと言うか、定番の場所に隠れるのが多数。

 部屋の位置と隠れていた人間の名前を記入する。


「ふぅ……半分調べたところで、残りの人数も半数ね」


 突然のかくれんぼに事前準備は出来ないので、多くの者を呆気なく発見する。

 確認を終えた部屋はその証拠に扉は閉めないでおいた。

 そうしておけば、確認した部屋だと分かりやすい。

 屋敷を一巡するとほとんどの者を発見することが出来た。


「やっぱり、マキシーは簡単じゃないか……それに後、二人……」


 手早く丁寧に探したが、広さがあるので時間がない。

 すべての部屋は扉が開いている。

 探し忘れは無い。

 焦ってはいけないと思うも、全ての部屋を再度確認は出来ないので当たりを付けて探すしかない。

 隠れやすそうな場所……


「あそこは、探した……あっちも、いない……隠れられそうな場所は探したのに……」


 ゴーンゴーン


「終わった……」


 玄関ホールに到着し、隠れていた人間達が返ってくる。


「逃げ切ったのは……アーノルズ・フォックス、マキシー、それにティールズ」


 アーノルズ・フォックスは長年オーガスクレメンに仕える執事。

 屋敷の事は隅々まで把握しいざという時の隠れ場まで知っている。

 だが、今回はその場所は使用せず、人が見落としがちな場所に隠れていた。

 二人目、マキシー。

 やはりというか、マキシーは私が見落とすであろう場所にいた。

 どこかと言うと、私の自室の隣の部屋の扉の裏。

 過去の私を知り尽くしているとはいえ、今の私の行動まで把握しているのかと思うと怖い。

 それとも過去の私と今の私は似たような人物なんだろうか?

 三人目、まさかの新人君。

 彼はどこに隠れていたのかと言うと、隠れていなかった。

 発見された者が待機する玄関ホールに初めから堂々と姿を見せていた。


「どうしてかくれなかったの?」


「僕は新人で、どこが執務室でお嬢様の部屋なのか分からず、ここにずっといました」


「あぁ……」


 ルール説明の際に入室してはいけない部屋を提示した。

 新人の彼はどの部屋が入室してはいけないのか分からず、隠れなかった。

 それが、今回勝利した。


「賞金は三人に分配、本日のかくれんぼを終了。協力してくれて、ありがとう」


 屋敷の見取り図は大体把握したし、使用人達の顔と名前も……

 特に逃げ切った三人は忘れることは無い。

 その後、参加できなかった使用人から質問を受けた。


「かくれんぼ大会、二回目はいつ開催されるのでしょうか?」


 参加できなかった者は悔しかったらしい。

 逃げ切れば金貨一枚は確実に貰えたのだから、それは悔しいだろう。


「近いうちにしようかな……」


「絶対ですよ、その時は必ず参加いたしますからっ」


「わ……分かったわ」


 かくれんぼは使用人の顔と名前を覚える為だが、彼女の顔は既に覚えた。


 本日の一言日記。

 大人の本気のかくれんぼ……本気で悔しかった。

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