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「アイゼンハワー令嬢、私と婚約して頂けないだろうか? 」


 まるで異世界コミックの中にいるような世界。

 綺麗な服を着た男女。

 何かのパーティーのよう。

 参加している全員に聞こえるような声で男は婚約を宣言する。

 何故か彼の表情が見えない。

 その場に居合わせた人達は、婚約宣言を受けた女性の返事を我が事のように見守る。

 これは最近見たコミックのクライマックスシーンに似ていた。

 卒業パーティーで婚約を宣言する場面。

 断罪する話もあるが、今回は幸せな話のようだ。

 二人にどんなことがあったのか想像も出来ないが、幸せになって欲しいと願いながら女性の返答を待つ……


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「……んんっんん……うわっ夢? あの続き気になるぅ~あの二人どうなるの?……んぇ? ここは……どこ? 」

 

 普段夢など起きたら忘れてしまうのに、今日は少しだけ覚えていた。

 だがそれよりも、見知らぬ部屋に寝かされている現実に驚く。


「これも……夢? 」


 とてもリアルな夢。

 起き上がり部屋を歩き回るも現実としか思えない。


「……え?」


 鏡の前に立ち止まれば、私の記憶とは違う私が鏡に映る。

 私は今、別人になった夢を見ているに違いない。


「あはっ、最っ高」


 アニメで見たことのある話を夢で体験している。

 物語のように異世界に転生して、『私だったら~』と空想していた。

 別人になって好き勝手するのが私の夢。

 だって……

 私の人生はずっと平凡だったから。

 何故平凡なのか理由は知っている。


「小心者」


 私を知らない人は、私の事を『優しい』と言う。

 だけど、本当の私は優しくなんかない。

 空気を読んで拾い物をしたり、休んだ人の代わりに自主的に掃除を手伝ったりと小物感満載の人生。

 それらは全て、小心者の弱い心からの行動。

 本心から誰かの為になんて動いたことはない。

 そんな風に動いてしまう自分が大嫌いだった。

 周囲が私を『頼めばやってくれる、都合のいい存在』と思っているのを知っている。

 

「すごい綺麗……」


 過去の私を忘れさせてくれるような見た目。

 この姿は私の理想を映しているのだろう。

 輝く綺麗な金髪に、瞳も金色。

 外国人になった気分。

 凹凸の少なかった過去の顔とは似ても似つかない。

 目鼻立ちのはっきりした顔立ち。

 猫のような瞳が印象的で、気の強そうな雰囲気が私の好み。

 それになんて言っても……


「スタイルが良すぎる」


 平均より幼い体形だった私なので、大人の女性の体形に嬉しさと恥ずかしさと困惑がある。

 何度も鏡の前で全身を隈なくチェックしてしまう。

 どこを確認しても完璧、欠点の付けようがない。

 

「これが現実だったらいいのに……」


 いつまでも鏡の前で全身を確認していた。


「お嬢様っ、目を覚まされたのですね。もう、立ち歩いても大丈夫なんですか? 念の為こちらにお座りください」


 突然合図もなく部屋に現れた人物は、普段の生活で目にすることの少ないメイドの恰好をしている。


「だっ誰? 」


「お嬢様」


 女性は私に近付く。


「もう起きられて大丈夫なのですか? 」


 女性は心配そうに私を見つめる。


「だ……い丈夫? 」


 女性の質問に答えたというより、繰り返したに過ぎない。


「……まだ、体調が戻られないのですね。もう少しお休みください。私は旦那様に報告をしてまいります」


 理解が追い付かないまま、慌てた様子の女性を見送る。


「これは……夢……なんだよね? 」


 先程の人と会話した事で、現実のように思えてならない。

 物に触れた感覚も違和感などない。

 疑問に思っていると、先程の使用人と男性二人が現れる。

 使用人が『旦那様』を呼びに行くと言ったので、二人のうちどちらかが『父』という役なのだろう。


「お嬢様。ご気分はいかかですか? 」


 現れた二人のうちの老紳士が優しく尋ねる。

 話し方からして、父という関係性でないことを感じる。

 質問の内容からして『医者』ではないかと推測。


「体調はどうですか? 」


「……あっと……大……丈夫で……す」


「事故に遭った時の記憶はありますか? 」


「……事故? わかりません」


 これは夢の中の設定……なんだよね?


「ではご自身の名前は分かりますか? 」


 これは過去の私の名前を言えばいいの?

 それともゲームの設定のように、決められた名前があるの?


「……分かりません」


 私が自分の名前が分からないと話すと三人は驚愕する。

 

「では、こちらの方はお分かりになりますか? 」


 医師が示す人物は『父』という役だろう……


「……分……かりません」


 予想は出来ても、怖くて『分かりません』としか言えなった。


「シャルロッテ、私が分からないのか? 」


 後方で心配そうに見つめていた男性が近寄り私に尋ねる。

 距離が近いと感じつつも、拒絶の反応が出来なかった。


「す……みませんが、分かりません。おぉ父さん? ……ですか? 」


 私の返答に三人が再び硬直する。


「シャルロッテ……」


 私の言葉に『信じられない』『悲しい』『どうして』と言った感情が男性から伝わる。

 動揺を見せていた医師だが、冷静に診察に戻る。


「体調の方は問題ないようですね」


 体調の方は……

 記憶の方は個人差があると言われ医師は去って行く。 


「シャルロッテ……」


 残された男性と使用人……そして私。

 困惑と言う沈黙が部屋を支配する。

 私は今、どういう状況ですか?

 誰か、教えてください。

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