03 詩音、街に着く!
希望が見えない...
なぜ初っ端から絶望に染まっているのかというと...
「街に着かなーい!!!!」
そう、数時間延々と砂利道を歩いても一向に街に着きそうにないこの現状に絶望しているのだ。日が暮れるまでに着きそうにもないなら最悪の場合、野宿も考える必要が出てくる。
野宿はいやだなぁ...
そう思いつつも今は歩くしかない。はぁ...
溜息をつきながらとぼとぼと歩いていたら...
カラカラカラカラ...
遠くから何か音が聞こえてくる。何だろう?どうやら音の正体は後ろから近づいてきているみたいだ。後ろを振り返ってみると...
「おーい!おーい!」
荷馬車に乗っている気の良さそうな御者のおっちゃんが話しかけてきた。そして私の横に馬車を止めた。
「嬢ちゃん大丈夫か?」
話しかけてきた御者のおっちゃんは私のことを心配に思っているのかな?
「いや~全然大丈夫じゃないです...」
「じゃあ乗ってけ!なあ~に遠慮はいらんよ!」
これは思ってもいなかった!めっちゃめちゃ助かる!
「いやぁ、ありがとうございます!おかげで助かりました!」
「じゃあ出発するぞ~」
おっちゃんの陽気な号令で出発した私たち。運よく出会えた荷馬車に乗れたおかげで最悪の事態は回避することができた。もし出会えなかったら野宿でもしてたのかな...
「のどかだなぁ」
小一時間ほど揺れる荷馬車の上から無限に広がる平原とその先にある地平線を眺めながらそんなことを呟いた。
「ここらはずっと平原が広がってるからね~」
「ほえ~、この景色がずっと続いてるんだ~」
素っ頓狂な声を出したらおっちゃんはちょっとびっくりしたような表情で聞いてきた。
「そんなにこの景色が珍しいのかい?」
「ええまあ...」
「平原が珍しいなんていったいどんな所に住んでたんだい?」
アスファルトとコンクリートと高層ビルに囲まれてた所なんて言えないよな~
「あすふぁると?こんくりいと?」
あっ、心の声が漏れてた...
「いえいえ!なんでもないですー!あははー」
ご、誤魔化せただろうか...?地球での暮らしの説明が求められたら流石に答えられないからなぁ...不安だ...
そんな話をしてたら今度はおっちゃんが話しかけてきた。
「そういえば嬢ちゃんはアーガルドに向かってるのか?」
「アーガルド?」
この先の街の名前かな?何も知らない状態で行くのは不安だから念のために聞いておこう。
「どんなところなんですか?」
「知らないのか?そこそこ大きな街なんだがな。物流の要衝の一つで交易によって栄えてて、俺たち行商人にとっちゃ仕事がはかどる最高の場所さね。」
ほほう。詳しいところまでは分からないけど物流の要衝ならアーガルドって街は思っていたよりもかなり発展してそうな感じがする。
それならさっき作ったナイフも売れるか...あ。
なにか思い出したらしい。
「そうだ、ちょっと聞きたいことあるんですけど。」
「ん?なんだい?」
「このナイフなんだけど...」
詩音はばれないようにアイテムボックスからさっき作ったナイフを取り出した。
「これは...ナイフかい?変わった形をしてるようだけど...」
そう、さっき作ったこのナイフが売れないか聞きたいのだ。
「私が作ったナイフなんですけど...売れると思いますか?」
おっちゃんはナイフを手に取っていじくりまわしている。刃先を触ったりグリップを何度も握ったり重心を確かめたりいろいろ見ているようだ。
「このナイフ、とても切れ味が鋭いね。かなりの高額で売れるはずだよ。というか買わせてくれ!」
おおっ、思った以上に反応が良い!
「お、おいくらぐらいになりますか...?」
恐る恐る買い取り額を聞いてみる。
「そうだなぁ~。この切れ味で金貨1枚、厚めの刃による耐久性で銀貨2枚、この形の物珍しさで銀貨15枚の金貨1枚銀貨17枚ってところかな。」
おっちゃんはナイフを褒めながら買い取り額を提示してくれた。
金貨1枚と銀貨17枚か...
それってどれぐらいの価値なんだろう?
至極まっとうな疑問である。だって地球で住んでいた人にとって異世界の通貨価値なんて知らないんだから。
まあ金貨と呼ばれてるぐらいだし少なくとも1万円以上の価値はあると想定しよう。ならば提示された金額は悪くないのでは?
それに今は手持ちすらない。アーガルドで売れるかすらも分からないし...まあまた作ればいいよね!
「分かりました。お売りします!」
「おおっ!即決して頂けるとはありがたい!」
私はナイフを差し出しおっちゃんは数えたお金を小袋に入れて手渡してくる。一応数え間違いがないか私も確認する。
うん。金貨っぽい硬貨1枚と銀貨っぽい硬貨17枚がきっちり納められていた。
受け取った小袋をポケットにしまうふりをしてアイテムボックスへ収納した。
これで少なくとも数日はお金に融通が利く状態になったはず。ならまず街に着いたら宿取らないとなぁ~と考えていたところでふと将来の収入についてどうしようかと不安が出てきた。
「そういえばおっちゃんはどんな仕事してるの?」
収入の不安からなんとなくおっちゃんの仕事を聞いてみた。
「まあ見ての通り行商してるな。」
「商品ってどんなものを取り扱ってるの?」
「時期によって変わるけどいろいろ扱ってるよ~」
陽気に言いながらおっちゃんはあごに手を当てて空を見上げている。頭の中で扱ってる商品をリストアップしているのだろうか?
「う~ん、春は農具とか種とか売って夏は虫除け薬で秋は小麦とかの収穫物、冬は薪や油とか、季節によって売れる商売をしてるよ」
季節によって扱う品が変わるのは地球でも異世界でも同じなんだね。もし商売に手を出すことがあればこの話は参考になると思うからしっかり覚えておこう。
「嬢ちゃんは商売とかしたいのかい?」
おっちゃんにそう聞かれた。
「今のところは特に考えてないけれどそのうちもしかしたらやるかもしれないかな~って」
「いやいや~嬢ちゃんには難しいと思うよ~?」
おっちゃんは冗談めいた口調でそう言ってきた。
「あはは~...」
私は愛想笑いを浮かべながらこれからの収入はどうしようか、何か物をチートで作って店か商人に売るか...
そんなことを考えていたらまたおっちゃんに話しかけられた。
「そろそろアーガルドに着くぞ~」
そう言われて正面を見る。
遠目から見ても分かるとても大きな城門がそびえ立っている。
「これがアーガルドかぁ...」
今まで国外に出たこともなかった私はTHE異世界というベージュ色のレンガで作られた西洋風の佇まいの大きな城門に圧巻されて、感嘆の声が漏れた。
そして荷馬車は門の前に着くと停止した。
「通行料のお支払いか許可証の提示をお願いします。同乗者の方もお願いします。」
門の守衛さんがそう言ってきた。
あ、そうじゃん。通行料って異世界モノでよくある税金じゃん!いくらかかるんだろう...
あまり高くなければいいな...
「これをどうぞ」
おっちゃんは懐から許可証らしき小さなカードを取り出して守衛さんに見せた。
「...商業ギルドの許可証ですね。同乗者の方は...」
どうやら許可証とやらがあれば通行料は掛からないみたいだ。でも私は何も持ってない。守衛さんにいくらかかるのか聞いてみる。
「通行料はおいくらですか?私は許可証は持っていないので」
「通行料は銀貨1枚です。」
守衛さんはそう答えてくれた。
銀貨1枚ならちょうどさっきナイフを売ったお金があるから余裕で払うことができる。
小袋から銀色に輝く1枚の硬貨を取り出して守衛さんに渡す。
「銀貨1枚ちょうどですね。どうぞお通りください。」
そう言って守衛さんは荷馬車のおっちゃんとその荷馬車に乗っている私を門へ通す。
いよいよ異世界の街に入るんだ。どんな街並みなんだろう?どんな世界が広がっているんだろう!ワクワクとドキドキが止まらない!
「よーし頑張るぞー!!!」
決意を胸に詩音は異世界の街へ初めての一歩を踏み出した。
『モノづくりチートで異世界スロー?ライフ!』を読んでいただきありがとうございます。
この小説は書き溜めしておらず、作者は文章を書くのがとても苦手なので更新はとてもゆっくりになると思います。
極力一か月に1話以上更新できるようには頑張りますがなかなか投稿されない時は「あ~忙しいのかな?頑張っているんだろうな~」って思ってもらえると幸いです。
この作品がどれほど読まれるかはあまり自信はありませんが頑張りますので応援よろしくお願いします!