#記念日にショートショートをNo.1『桜色の愛の夢』(Cherry-colored Love Dream)
2018年4月1日(日)エイプリルフール 公開
【URL】
▶︎(https://ncode.syosetu.com/n5763ic/)
▶︎(https://note.com/amioritumugi/n/ncfd3658f9686)
【関連作品】
なし
➖よかった、生きてる。
目が覚めた。自分の身体が見える。手が2本、足が2本。きちんと付いているのを目で確認する。続いて身体を触る。腕、肘、膝、太腿。きちんと付いているのを手で確認する。最後に口、鼻、耳、目、髪と、顔と頭を触れて確認する。
➖よかった、大丈夫。異常はない。
自分自身にどこも変わったところはないとわかり、ほっ、と息を吐く。気持ちを落ち着かせ、頭の中を整理して考える。
➖どうして、こうなったんだっけ?
見渡す限りまわりには白い壁が広がっている。上は天井、私が現在座っている下は床。一面白い世界で、正方形の箱のような部屋にいるみたいだ。記憶の糸を探るが、白く靄のように霞んで何も視えない。何も思い出せない。とりあえず出口を探そう、と思って立ち上がる。見た感じ扉のようなものは無いが、手で触れば出っ張りとか、何か手掛かりが見つかるかもしれない。近くの壁に手を当てる。すると、突然壁が透明になり、桜の花びらが流れはじめた。壁がスクリーンに変わったようだ。気が付けば、他の壁も天井も床も、そこにあった白い壁は消え、全部がスクリーンに変わっている。それが、自分の脳内に流れる映像だと、私にはなぜかわかった。スクリーンが桜の花びらが舞い散る並木道と、そこを歩いている三人の制服を着た学生の後ろ姿を映し出す。一人は男子生徒で、ポニーテールの女子生徒と同じくらいの身長で、残る一人は他の二人よりも頭一つ分ほど低いショートカットの女子生徒だ。真ん中のショートカットの女子生徒が振り返り、顔が見える。ドキン、と心臓が跳ねる。
➖この子、わたしだ……。
スクリーンの中の私が、風に舞う桜の花びらをキャッチしようとしている。手を伸ばして1枚、少し前につんのめって2枚、しゃがみ込んだ体勢で3枚目に手を伸ばし……。桜の花びらは私の指の少し先を、静かに地面に落ちる。悔しそうな表情をする私。それを見て私と同じ悔しげな表情のポニーテールの女子生徒と、少し悲しげに微笑む男子生徒。スクリーン上の彼らの表情に、なぜかわくわくするような、どこか懐かしいような気持ちが私の心の中を舞う。とりわけ男子生徒の表情に、強いシンパシーを感じる。懐かしいだけでなく、抑えきれない愛おしさが心の中に溢れる。
➖私は、彼らを知っている……。
知っているだけじゃない、とても親しい、仲の良い関係……。特に少し悲しげな表情の彼は、切りたくても切り離せないほどに強烈な鎖で結ばれている……。
ガツン、と、画面が割れた。亀裂が、二人と私の間に走る。同時に、桜の風景を映し出していた映像が停止する。
すべてが、消える。
➖待って、行かないで!
手を伸ばす。だんだんと靄のように消えていく映像に手を伸ばす。するりと指の隙間から靄が抜け出る。届かない。必死で空に手を伸ばす。届かない。空しく、手が空を掴む。靄が、空気に溶けるように、消えた。
カラン、と、また白くなった床に、靄のベールからほどけるようにガラスの破片が落ちた。手を伸ばして、破片を手に取る。キラリ、と、破片が光り、スクリーンにいた男子生徒を映し出す。
➖よかった、逢えた……。
と思った瞬間、ピキーンと細く甲高い音が鼓膜に響き、破片が真っ二つに割れた。割れ目から赤い血が流れる。
ひっっ!と声にならない息が漏れ、思わず破片を取り落す。瞬間、破片から濁流のように真っ赤な血が溢れ出し、床に流れる。
➖きゃあああああああああああ!!!
絶叫が、部屋に響き渡る。反響し、幾重にも絶叫が私を取り巻く。白い部屋を、真っ赤な血が染めていく。私を追い立てるように、津波のように、血が私に迫る。あまりの恐怖に、体が硬直する。なんとか後ずさりして、壁まで後退する。しかしそれも空しく、血が私の体を亡霊のように這い上る。
➖あああああああああああああ!!!
目が覚めた。ベッドサイドの目覚まし時計を見る。朝6時30分。ふわああ、とあくびをする。うーん、と伸びをする。
➖よかった、結人くんに逢えて。
➖えっ?
一瞬よぎった感情に、首を傾げる。
いまの名前、誰だっけ?
【登場人物】
○雪見 しおり(ゆきみ しおり/Shiori Yukimi)
*スクリーン上にのみ登場
●高村 結人(たかむら ゆいと/Yuito Takamura)
○蓮見 舞緒(はすみ まお/Mao Hasumi)
【バックグラウンドイメージ】
【補足】
◎小説『世界で一番の愛を君に』との関連性について
直接の関係はありませんが、以前こちら(「小説家になろう」)で公開していた小説『世界で一番の愛を君に』の原点的立ち位置のお話です。
【原案誕生時期】
公開時