第65話
仮眠を取り、表に出てみると4人が雑魚寝している状態だった。せっかく個室があるのに使わないなんてもったいないなと思ったが、ダンジョン作成の相談をしていて寝落ちってことか?
とりあえず起こさない様にダンジョンをどのように作ったのか見てみよう。
なるほど、向こう側に小部屋を作って戦うのか。それと敵が生まれる空間を罠で解除、通路を通って落下ダメージを与えて中から出て来ると。
敵が生成される空間の広さによって数が変わるのか確認できれば転移陣で魔物部屋に行くのもありかと思うが…とりあえず現在の状況は…10m×10mの広さで25体しかいないという事は広さに大して限界が決まっているっぽいね。敵が並んで待機しているとか満員電車のようにミチミチ状態を想像して笑ってしまった。
高さは関係なさそうだけど、敵の階位が上がっていくと巨大化する傾向や敵に対して高さが足りないと湧かない可能性もあるから高いほうがいいか。それに、敵が巨大化していくってことは数も減るか…今はもうちょい広げて敵の数を増やして稼ぐってのが出来そうだ。
確認が終わると3人が身動ぎして起き出してきた。タイミング的に起きていた可能性もあるんだが、もしや手をだすか試されていた?と邪推をしてしまう。女って分からない事が多いからなぁ…相手の気持ちを確かめるために男と遊びに行ったりするし。俺はそれをされたせいで女性恐怖症になったからな。
「おはよう。予定としてイナが料理、サイと俺が採取、ミーが敵を倒すだよな?ポリーは…頑張ったようだしまだ寝させといていいか。一応メモを置いておこう。それと…敵が切り替わっている時間だし念のため4人で敵を見に行こう。大丈夫そうならミーだけ残ってかな?」
「「「異議なし!」」」
「あ、イナ。一応ダンジョンのポイント覚えといてもらえるか?俺達がダンジョンマスターで、イベントモンスターは侵入者扱いになるならポイントが貯まると思うんだ。」
「分かった覚えておくね。」
俺達は小部屋に入りモンスターの部屋を解放する罠を起動した。それなりに距離があるからここへたどり着くまでに時間がかかる。
「あー…モンスターが通路に行った途端、追加で敵が復活しているな。一応動き出すまでに猶予があるから自分で何体討伐したいかで扉を閉めるといいかも。とりあえず今回は閉めておくからミーは気をつけろよ?」
「そんな水の元栓閉め忘れしないって!…何度かしたことあるけど。」
「…復活場所はこの拠点になっているから平気だが魔物が溢れて崩壊はさせるなよ?」
魔物は満身創痍の状態で部屋に現れ、すぐにこちらへ突撃してきた。上手く湧かせることが出来たのか魔物の種類は4種いる。魔族のはスケルトンからツギハギで筋肉隆々のフランケンシュタインっぽいやつ。他には虎、山賊?、マンイーターってやつか?連携されたら困るバリエーションだった。
しかし相手の連携はなく俺達はドラゴンを経験したことでお互いの動きを理解しあい、簡単に倒すことが出来た。
「あーし1人だとちょうどいい訓練になる難易度かな。でも、体力を減らしていない状態だと結構やっかいかも?」
「確かにな。種族の特徴を持っている敵が相手で4種、しかも数がそれなりにって考えると通常状態だと厳しくなりそうだ。」
「…やることしたらなるべく戦闘に参加する。足手まといになりたくないし。」
「私も料理作り終わったら参加するね。一緒に強くなろ!」
俺とイナ、サイはその場から離れて各自のやりたい場所へ向かっていく。サイが欲しい素材は薬の原料となる薬草なのだが、ドラゴンがいる場所だったからなのかやけに魔力が豊富に含まれている。俺としては探しやすいが…サイは魔力は分からないが存在感が違うと言っていた。
「手伝ってくれてありがと。私だけではこんなに効率良く採取できなかった。」
「そりゃ良かった。サイも魔力に関して覚えても良さそうだが…薬師の師匠がどう考えているかだな。分からないからこそ見た目、群生場所を学習、採れる量が少ないから調合に慎重になるとか。」
「ん、私もそう考えている。指導法としては十分満足。」
こういうサイの性格に好感が持てる。普通、羨ましがったり教えて欲しいって言ったりずるいって思うだろうが、指導の意図を理解し実践しているからすごいと思う。
口数は少なくてクールな印象を受ける彼女だが仲間思いで情に厚いから俺も信用している。女性的な特徴が顕著じゃないからかもしれんが…たまにドキッとするから心臓に悪い。
俺達が拠点に戻るとイナが竈で料理を作っていた。
「なかなか苦労しているようだな。」
「あ、おかえり!さすがに現代にあるような調理場じゃないからね…時間かかるけど腕によりをかけて作るね!あ、それとポイントの確認をしたんだけど増えてたよー。これでダンジョン内を色々と弄れるね。」
「お、それは嬉しい誤算だ。ただイベント設備であるこういう拠点の拡張はイベント素材採取か敵討伐だからな…」
「確かにそうよね…あと、掲示板で確認したんだけど島の外周がどんどんなくなっていくんだって。そのうち中央のここにたどり着くかも?」
どういう風に真ん中へ人を進ませるかと思ったがそう来たか。敵の大群が相手で最初は中央に来ることが出来ずに、余儀なく中央へ行かせるという事だな。
「…リングの縮小?」
「サイも思ったんだ?私も見てて思ったよ。すぐ中央に来ると思ったんだけど皆は外周に留まる事にしたみたい。」
「後方の危険がないからか。」
「うん、その考えみたいだね。でも毎回拠点を建てて素材を消化、アップグレード不足で大変になるよね。」
このイベントは最終的にイベントポイントで順位がつけられる。拠点のアップグレード具合、種族人数、敵の討伐数の総合なのだが拠点にもレベルがあり中央に行くほど高い。ちなみに拠点を建ててからの維持時間も実はポイントに反映されている。
「まぁ…中央に来ても1段階アップしただけでドラゴンがかなり強くなっているからな…俺達はのんびりしよう。」
「私は匂いが籠るから外で調合する。ナオヤ君はどうするの?」
「俺は料理が出来るまでせっかくだから寝ていようかな。」
サイは意を決した顔をして俺に言った。
「そ、それなら私が作業している時に膝枕をする?」
「あー…俺としては助かるんだが流石に作業の邪魔にならないか?ずっと座ったままってわけにもいかないだろ?」
「大丈夫。うん、大丈夫!…作業を横ですればいいよね?力を入れる箇所はすり潰す所だけだし。」
「ならお言葉に甘えようかな。疲れたら何時でも起こしてくれ。」
そう言い、俺達は外へ出てサイが太ももをポンポンと叩いたのを合図にして俺は寝転がった。サイはどういう意図で膝枕をしてくれているんだろうか?いざというときの能力アップ?ハルがいない状況だから?
好きでもない男にする性格ではないだろうから信頼した仲間だからって線がきっと濃厚だな!
俺はサイが薬草をゴリゴリとリズム良くすり潰す音を聞きながら深く眠りについた。
「ふぅ…これで後は煮込めば大丈夫。まだまだ作業に慣れなくて時間かかる…」
作業に集中してて意識する事が出来ていなかったナオヤ君を確認したが落とすことなく作業を終える事が出来たようだ。ある意味トレーニングになったと思い私はクスりと笑った。
せっかくなのでナオヤ君の髪を撫でたり上から顔をのぞき込んだり楽しませてもらっていると不意に煮込んでいた液体が光り出した。
光が止むとそこには完成された色にまで煮込まれていたのだがこれはいったい…
「さ、サイ!ねね!なんか急に鍋が光ったと思ったら今から煮込み始める料理が完成してたんだけど!?」
「私も薬の完成までまだ時間が掛かるはずなのにすぐ完成した。」
でもなんとなく原因は分かった気がする。私がナオヤ君の顔を見た事でイナもなんとなく察したのか「そう言うのも覚えるんだ」と言って笑っていた。