第62話
中央の島にはドラゴンの他、外周に太い柱が6本立っている。何かを支えるわけでもなくただそこにある。
俺は柱を叩いたりぐるっと回って観察をしてみた。
「ナオヤ君、どう?何かありそう?」
サイが横から聞いてくるが俺には見当がつかない。ゲームならではの仕組みがあるんじゃないだろうか?
「逆にゲーマーの皆に聞くんだけどボスエリアで意味ありげに立っている柱って何に使う?」
俺が質問を返すと皆がどんどんと今まで経験してきたゲームのギミックというものを教えてくれた。
「あーしはありきたりだけどブレスを防ぐための物と思う。ご丁寧に他の攻撃で倒れないよう外周にあるし。6本という数はタイムアタックじゃない?1本が何分か分からないけど。」
「…パーティーに向かって倒れて来る柱。時間制限じゃなく倒れたら次が復活するタイプ。でも人型じゃないからどう柱を倒すか分からないけどドラゴンも賢い部類だから…」
「ごつごつしてて登る事も出来そうだから安置になるとか?下が全部ダメージ判定のある状態になって逃げる?あ、でもレイドを考えると6本じゃ少ないし広くないや…」
「皆何言っているの?これは倒してドラゴンに大ダメージを与えるタイプじゃない?地形ギミックで天井から岩落としたりもするでしょ。…あら?これ完全に地面にくっついているの?いくらレイドでもこれじゃ倒せないわね。」
4人が別々のギミックを解説しているのだがポンポンと意見がでるのは凄い。それだけゲームに親しんでいるんだな。っと、とりあえずまとめてみるか。
「この状況だとミーが言ったやつが一番確率が高いってことか?サイ、ボスのタゲを取る時に柱を巻き込まない様に注意できる?
一応ブレスを止められないか槍を投げて試すがこの柱があるってことはダメージを食らっても止まらない可能性が出てきた。」
「ん、了解。柱を背に位置を取るけどブレスを盾に向けるのか遠距離に向けるのか分からないから気を付けて。」
俺達はサイと別方向に待機し、初撃を入れるのを見守る。
「ゲームだとこういう時に盾以外の人が攻撃してもめるんだよ?」
なんだそれ?盾以外がタゲ取って他の職の奴は耐えられるのか?
「確かにあるわね。特にアプリゲームに多いわ。あれは盾職とは名ばかりで課金で強い人がタゲを持つことがあるから。」
それって盾職からしたら迷惑すぎない!?強制的にタゲが取れるスキルがあるなら被害は最小に防げるだろうけど気持ちの入り様は全く変わる。準備みたいなのが盾職にだってあるだろうに…
ドラゴンがこちらを向いた瞬間、サイは勢いよく飛び出しドラゴンの顔目掛けて引っ掻いた。
ギィィン…と甲高い音が響いたのを合図にミーがドラゴンの裏側へ回り込み尻尾の付け根を切りつけるとこちらはキンッと鳴った。
「硬いねぇ!でも傷はつけられる!バフ貰ってこれって普通だったらダメージ通らないかも!」
いくら敵のLvが弱いと言ってもそこはドラゴン、生物としての格が高く、それ自体が防御力を上げているんじゃなかろうか。名前持ちが強いみたいに生物自体が最低限持っている強さ、品質というものか。
俺も持っている槍を投げたのだが急にドラゴンが向き直って避けられてしまった。なんでだ?
「ナオヤ君!こいつ脅威になる攻撃に反応してる!私の攻撃も初撃以外なかなか当たらない!」
「なにそれ!?あーしの攻撃は脅威じゃないって!?そのニブチンな感性で後悔しながらやられろ!」
2人とも熱血しているな…さて、どうするか。
イナは無難に胴体へ矢を撃ちこんでいた。ドラゴンは避ける事もしないが矢は身体に突き刺さっていることからダメージは通っているようだ。
ポリーも活躍している。サイに向かって攻撃しようとする手足を植物で一瞬だが拘束することによってサイが避けられる時間を稼いでる。
イナの攻撃から分かるようにダメージが通るから避けるってわけではないみたいだ。となると…ちなみに俺が狙った場所は顔、というよりはブレスを潰せたらいいなと思い首を狙った。狙う部位による脅威度…?
「なぁ、ドラゴンの首って何か特別な部位なのか?ブレスを吐くくらいしか分からないんだが。」
俺がポリーやイナに確認を取ろうと声を掛けた瞬間…
「ブレス!!」
サイが大声で叫び俺達遠距離職は同じ柱の後ろにすぐ隠れた。ドラゴンは顔の向きからしてサイを狙っているようなのでイナと俺は攻撃を仕掛けてみるが何かに弾かれるように足元へ落ちた。
無事、ブレスが来るまでにサイは柱の後ろに隠れたのだがドラゴンはなんとブレスを吐きながら回転をし出した。
「あー、これ…ゲームでよくあるギミックの無敵時間だね。」
「しかも飛ばせないムービー付き、敵に攻撃は通らない、ムービーが終わったら即攻撃を食らうのは定番よね。この時間、攻撃出来ればいいのにブレスをゆっくり回りながら吐いているのが嫌らしいわよね。そういえば…ナオヤ、あなたブレス前に何か言っていたわよね?」
なんでこのイベント中はゲームみたいな要素をふんだんに盛り込んでいるんだ?しかもこのブレスだと柱に隠れなくてもやり過ごせる…が、攻撃は通らないとか。
「いや、首を狙った一撃は回避されているのに胴体に打ち込んでいる攻撃は避ける素振りがないのが不思議で疑問に思ったんだ。」
「ドラゴンの弱点?でも、生物って詠唱やブレスを考えると確かに避けたい部分だと思うけど…」
俺とイナはうーんと悩んでいるとポリーが何を迷う必要があるのよ、と言った。
「ドラゴンと言ったら逆鱗でしょ?よくある創作物だと喉元や背中にあると言われているわ。ナオヤの攻撃が強烈なのも考えると回避行動を優先するんじゃないかしら?」
はっと、俺達は顔を見合わせてなるほどと頷いた。
「そうなると喉を狙って敵をブレさせるよりは他を狙ったほうがいいな。っし、ブレス終わったようだ。いくぞ!」
サイとミーも柱から飛び出し、すでに肉薄していた。
そろそろ戦闘が始まって10分が経とうとしていたが決定打を浴びせられないままである。理由としてはブレスの感覚が2分置きにあるからだ。このブレスのおかげでサイが休めているのというのも皮肉が効いている。ただ、開幕からの時間を考えて皆のいうギミックと捉えるとまだ5回は来ていない。つまり一定のダメージを与えてから始まるもののようだ。
そして区切りの10分、4人が言うにはゲームによって時間制限が決まっており、発狂モードがあるようみたいだが流石にそれはないみたいだ。しかし、行動が追加されてもおかしくないので俺は柱と柱の間に立ち様子を窺う。一応、一番遠い人に向かう攻撃があるかもしれないので遠めにいる。
するとドラゴンがなにやら地団駄を踏んでいるように見えた。そして力を溜めるように前傾姿勢…まずい!
「サイ!抵抗するなよ!?」
俺は叫び、ポリーを救い出したようにサイをつり上げ、脇に抱えながら柱の後ろへ回った。
「ナ、ナオヤ君!?」
「後で理由は言う!タイミング計らせて!」
俺が思った通りドラゴンは突進を仕掛けてきた。ただし、スピードは俺が思った以上に早く、来ると思った瞬間には柱にぶつかっていた。…これをタゲを持っている近接に向かって繰り出すとかやばいだろ!
ドラゴンも柱にぶつかって目を回しているようだがそこに柱が倒れ込んだ。
「ナオヤ、ナイス!チャンスだよ!」
ドラゴンが気絶したことによって攻撃チャンスが生まれたのだ。俺はサイを巻き上げた縄を急いで外し、攻撃に加わった。