第60話
「それにしても洞窟の中なのに明るいんだねぇ!これって緑色に光っているのはエルフ族のイメージカラーってやつ?」
ミーが指摘したように洞窟内はしっかりと奥まで見えるような明るさで保たれていた。松明とかいらないのは親切設計だがリアリティが薄れているなイベント…この視界にチラチラみえるUIが気になる俺としては普段の感じが好きかな。
明らかに人の手が入っているのが見えると没入感が薄れるけど、ゲームプレイヤー全体評価としては分かりやすくして欲しくて要望を出した結果がこれなのかもしれん。
「じゃあ人族は何色なんだろ?楽しみだねぇ。」
「奇抜な色じゃないといいな…」
イナとサイの言う通り、何色なのか気になる。俺としては目に優しい色だと助かるんだが…常時発情していると運営が考えてピンクとか止めてくれよな。
「洞窟だから入り組んでいると思ったのだけど、完全に一本道なのね。迷わなくていいのだけどこんな所で拠点を作ったとしても防衛に不便じゃないかしら?」
その指摘は尤もだ。ポリーが心配していることは俺も考えている。4方から敵が入り込んでくる仕様で中心に拠点、洞窟は一本道で見通しがよく、隊列を組んで進めるほど広い空間。
「ま、普通だったら最終ステージだから防衛を考えない作りになっているのかもな。」
「大丈夫なのかしら…?私としてはボスにやられたとしても気にしないのだけど、各自の初期地点に飛ばされるから合流は大変よ?
それと、あなたからもらった水を先ほど飲んだのだけどなにあれ!?魔力欠乏のダルさが一気に吹っ飛んだわ!」
お、ちゃんと効果があって良かった。ニオから大丈夫と言われていたけど心配だったんだよな。
「俺は攻撃魔法が使えないからサポートに特化なんじゃないか?
初期設定?だと人によって覚えやすいものが違うし。ま、その適正を狂わせて魔法を覚えるのが敵から食らってその魔法を覚えるって事みたいだが。その後は適正が固定されるから複数属性は厳しいだろうね。」
「…私はいつの間にか覚えていたタイプだから知らなかったわ。」
「あーしも早く覚えたい!攻撃魔法は趣味じゃないから身体強化系だと嬉しい!」
「薬師として使えるならなんでも。師匠が言うには属性じゃなく魔力を籠める必要があるって言われた。」
「あはは、皆違うんだね。私は攻撃魔法に憧れるけど治療とか状態異常を治せたらいいかな?もちろんサイの薬も有用だけど緊急時で治せる人がいたほうが良いと思うし。」
魔法についてそれぞれの望みを言い合っていると一際広がった空間にでた。中には湖があり、十字に道が出来ていてその中心の島にはファンタジーでおなじみの生物がいた。
「い、いやぁ…これは流石にあーしも絶望するわ。」
「ありがちな展開。長く険しい戦いだった。」
「みんな諦めるの早いよぉ…」
ポリーの反応がないと思ったら立ったまま気絶をしていた。器用だな…
「とりあえずドラゴンはこちらに反応しないようだし一休みするか。ポリーを横にしなきゃ危ない。というかここ、採取物の反応が多いんだよね…しかも中心だからか各種族のもののさ。人族のに関しては池に反応あるから倒してからじゃないと無理だけど。」
ドラゴン…ドラゴンは小説やファンタジーな歴史上では色によって属性が決められているがこのドラゴンは赤茶でいいのか?羽がないタイプだから地龍なのは俺達のPTからしたら助かる。飛ばれたら弓でしか攻撃出来んからな。
「今はイベント開始してから丁度10時間ってところか。6時間で敵が1段階強くなったってことはあと2時間は猶予がある。ポリーが覚めない事にはどうしようもないから一休みしながら考えよう。」
「か、考えたら倒せるのかな?」
「不安はあるけどあーしは倒せると思う。そもそも本当にレイドで倒す仕様だったら少人数では入場に制限がかかったりイベント開始してからの時間で開くタイプになるっしょ。」
「…ミーの言う事はもっとも。でもこのゲームの運営は鬼畜だからそこが不安。」
チュートリアルの説明だけあってあとは自由に進行だもんな…しかも死にゲー化させたりスキル周りの不親切さを考えると怪しいが…
「敵の脅威度というか生物指数で考えると外の敵に比べ10倍あると仮定して、時間によって指数関数的に強くなるのか比例関数的に伸びるのかじゃない?
2時間経つと現状の倍以上強くなるって考えるとまだまだこいつはヒヨコ同然で見た目とギャップがある成長度の可能性がある。」
「そ、それを考えると2時間経ったら私達だけじゃ厳しいってことだよね。しかも戦っている最中に時間が来たら強くなるという…」
そうなんだよな…倒せるとしてもどの位の時間で倒せるかは攻撃の通り次第だから戦わないと分からない。勝率を上げるためには…
俺は腕を組みながら上を見上げるとそこには青空が広がっていた。んん?
「なあ?なんで洞窟内なのに空が広がっているんだ?時間帯的にもう夜になっててもおかしくないよな?」
「んー?小説だとこういうのってダンジョンってオチだよね!まさか現実で見られるなんて!」
興奮した様子でミーが説明してくれた。
「ミー…ここはゲーム内、現実じゃない。」
サイ、それは言わないお約束だと思うぞ?これならもしかしたら勝率上げられる可能性がでるが俺のスキルの説明をしないといけないな…しかもしてくれるかどうかが重要だ。
「俺のスキルがもうちょいで上がると思うんだが手伝ってもらえるか?多分、勝率が上がると思うんだが…」
「敵を倒すの?ナオヤ君、どんなスキルを上げたいのか聞いても大丈夫?知っていたらお手伝いもしやすいし。」
サイが率先して手伝ってくれるようだ。どんなスキルなのか教えないと手伝うのも難しいもんな。しかし、これを女性に言うのって問題があるんじゃなかろうか?
『私がやってもいいわよ?反映されるか分からないけれど。』
ニオのサイズじゃ俺を膝枕するのは無理だろ?それにイベント中で実験するのはリスクが高いから終わってからだな。
『精霊なんだからサイズなんて自由だけどね。魔力を消費しない楽な姿がデフォルトなのだから、魔力が供給されているなら大丈夫よ?』
そういうことなのか。ま、今回はサイに甘えてみようか。
「えっとな、これは冗談ではなくきちんとあるスキルなんだが…まずは昼寝というスキルで日差しのある外で寝ることにより一時的にステータスが上昇ってのがある。まぁレベルが上がって任意発動や寝る時間の短縮になった。」
「ナオヤにお似合いのスキルだね!でもそれってうちらに手伝えることなくない?」
ミーの言う通りこっちのスキルはそうだな。
「もう1個が膝枕。効果は昼寝と一緒でバフが重複しないから相乗効果が高いな。スキルLvでの追加要素が時間、環境緩和、任意発動ときているから他者に譲渡もあるんじゃないかと思っている。」
俺がそう言うと3人は顔を見合わせて困っていた。俺だって急に膝枕を手伝ってくれって言われたら困惑するわ…俺のトラウマを刺激するし。
え、ハル?あれは幼女というか童女だから。とりあえず寝てしまえれば外部要因はどうとでもなる気がするから平気なはず…?
「あーし的になんでそのスキルも昼寝っていうスキル並みに育っているのか興味あるんだけど!サイがしてあげてたの?」
問われたサイは首を振って否定していた。
「…もしかしてハルさん?」
「え!?あーしらの他に女の子とイチャイチャしてたの!?」
イチャイチャして…ないとは言い切れんな。いつも起きると側にいるし。
「サイの他に仲良い女性がいるんだ。ナオヤ君って意外とモテる?」
いや、モテているのか?ダメなお兄さんの面倒みなきゃっていう妹ポジっぽい気もする。
「ナオヤ君が紹介してくれた人。学び舎の紹介状や薬師の弟子入り先の斡旋もしてくれた子。」
「へぇ…ってことはゲームの中の人なんだ!そこまで仲良くなるってナオヤ凄いじゃん!」
「初日にいい出会いがあったって事だ。ま、とりあえず俺はそこの日向で昼寝する。俺が寝入ってから膝枕を頼む。んで、してくれてから20分経ったら起こしてくれ。」
してくれるか分からないが最悪昼寝だけでもLvが上がればいいからな。そう言い残し、俺は昼寝を開始した。
「…サイ、チャンスじゃん。相手から許可されているんだから悩む必要ないでしょ?」
「う、うん。」
サイはオドオドとしながらナオヤの頭を持ち上げ自身の太ももへ乗せた。
「男子ってこういうの好きって聞くけど見ているだけでもなんか恥ずかしいね。」
「実はイナもやってみたかったりした?ナオヤってあーしらと一緒にいても特別感を持ったりで態度が変わんないし、それでいてぞんざいに扱うわけじゃなく気遣ってくれているし。」
「た、確かに気になる男の子ではあるけど!好きかって言われたら分からないよ…でも、頼まれたら膝枕してあげてもいいかなって思う、かな?」
「恋愛感情か分からないけど皆ナオヤ君が好きってこと?私以外。でも、眠ってから膝枕してと頼むってことは女性が苦手なのは確定。」
「ある意味気絶しているようなものだもんね。ハルちゃんって子ともそうなのかな?」
「見た目である程度絞れそう!」
「ハルさんは子供に見えるけど…私達よりかなり長生きしていると思う。薬師のおばあちゃんが小さい頃に手ほどきしてくれたって言ってたし。」
「ナオヤはロリコンって事?」
「街の小さい子には変な視線を向けないから違うと思う。ただ、震えてはいなかった。」
サイが言った一言で2人はなんとなくどんな女性に振るえているのか分かってきた。
「ナオヤ君は女性的な特徴を持つ人が苦手…?」
「確かにそれならあーしらに言い寄ってこないね。サイは…おめでとう?」
「ありがと?でもこのまま女性が苦手だと妹のようって思われそうだから手伝ってほしい。2人も悪感情持っていないみたいだし。」
「えーと…それは複数で囲むってこと??すっごく背徳的なんだけど!」
「手伝うのは構わないよー!男避けに出来るし!好きになるかは分からないから直接的な事は避けるけど!」」
「それは心配ない。ナオヤ君はそんな事しない。ゲームを始めた当初、半裸みたいな状態だった私を見て欲情より心配してくれて服を渡してくれた。」
「えぇ!?あーしが男だったらガン見するわそれ!」
「ナオヤ君からそういう要求してこないんならありかな?私達の気持ちが定まるだろうし。」
3人はその後どうやってナオヤの苦手意識を無くしていくか話し合いを続けた。その話し合いをポリーは薄目を開けながら聞いていた