第59話
各自やる事が決まった後は敵を殲滅するまでに時間はかからなかった。今回のスケルトンは魔族側で出て来る敵なのにエルフ側にいたという事は、俺達が魔族側で休憩していたからそこを円の中心としてエルフ側でも発生したということだよな?
そうなると…最低でも一人ずつ区域を分かれて待っていれば混成部隊が俺達に向かってくるって事になる。そしてこの重要性はドロップからしてもおいしい。なぜなら…
「うん、スケルトンは魔族側の敵だから低確率ながら塩や鉱石もドロップしているな。」
俺がつぶやいた言葉にサイが反応した。
「…敵が倒せるなら採取せずとも拠点の拡張ができる?」
「いやいや無理っしょ?初期拠点の連中でも足らなかった数なんだし落ちるといっても低確率だと…」
「でも、ゼロよりはいいってことだよね?入手手段が増えるのは助かるよー…」
俺達が話し合っているのを不思議に思ったのかエルフ少女が聞いてきた。
「あなた達、知り合いなの?」
サイ、イナ、ミーと俺はロット数から考えると珍しい事であるのを思い出した。
「俺と、こちらのイナが第一陣でリアルでも知っている関係。んでミーは第2陣が当たってサイが俺の招待枠。全員知り合いだな。」
「知り合いなのにバラバラの種族って面倒じゃない?パーティー組んでいたほうが人が寄ってこなくていいと思うのだけど。」
「…情報交換も考えると別種族はおかしく無い。それぞれでやりたいことが違うのもあったけど。」
サイがそう言うと、エルフ少女がそれもそうかと呟いた。
「んで、エルフ少女はこの後どうするんだ?拠点まで戻るなら今がチャンスだが。」
「拠点に戻っても面倒な奴らに付きまとわれるから出来ればあなた達と行動させてもらえない?」
断る理由もないので全員賛同した。というか、俺達にとってはメリットしかないもんな…エルフの特産品が入手可能になるし…他の区域に行って敵を倒してもメンバーに対象種族がいないと手に入らない可能性も否定できん。
ちなみに、エルフ少女の名前はポリーというらしい。
「とりあえずこれからの方針を確認するか。
まず中央の拠点確保の為に洞窟探し。現在進行形で敵が洞窟から出てきたのを確認できたから向かおう。
次、拠点ボスの討伐。戦闘慣れしている前衛2人+魔法使い、支援組2人でバランスも悪くないので消耗していなければいけると思われる。
最後に拠点作成。ここまででなにか質問ある?」
俺は周りを見渡してポリーが聞きたそうにしていた。まぁ他の3人は学校でも意見交換しているから問題ないか。
「拠点って種族事に与えられている最初のだけじゃないの?あとボスがいるって何で分かるの?それと…私、結構魔力消費しちゃったから足手まといになるわよ?」
「まぁそのあたり気になるよな。拠点は各区画に複数存在していて、番人としてボスっぽい気配がある。これは気配察知の広いやつで確認したと思ってくれ。魔力の回復手段は何があるか知っているか?」
俺が聞き直すとポリーはきょとんとして答えた。
「えっ自然回復だけじゃないの?」
「それもあるが、魔力を含むものを食べたら少量回復する。」
「MPポーションみたいなやつってことね!あーしもはやく魔法覚えてみたい!」
俺はニオに頼んで空中に水を作ってもらい、小瓶に入れてもらい封をした。これ1本でどのくらい回復するのやら…
『1本で全快するわよ?あの子、まだ最大容量が大きくないでしょ?』
そうなのか?いや、そうだとしてもHPポーションとかを見ていると変換の際にロスが生じて回復量が落ちるんじゃないのか?
『あれは触媒として色々混ぜているからね。まぁ混ぜなければロスがなくなるのかといったら違うのだけども…この水は私が作り出したんだからロスなんてないわよ?ナオヤの魔力100%ってとこね。』
俺の魔力かい!そこはニオの魔力かと思ったぞ…俺の魔力を吸い続けているのなら確かに俺ので合っているけどさ!
「え…今のなに?それがナオヤさんの魔法?」
「生産職っぽくていい…時間があるときに私も生成用の水が欲しい。」
「まぁ生産というより俺は採取メインだけどな?攻撃用には使えないが飲み水としては便利だぞ?入口は各種族の区画にきちんと空いているみたいだからエルフ側から入ろう。」
これはある程度予想は出来ていた。1か所にしか空いていない場合、公平ではないからだ。ボスの強さが未知数なのが怖いんだよな…ただ、ウェーブ戦がメインのイベントだからボスもまだ2段階目の可能性がある。
そもそも中央だとボスが強いという予想も探索は外から内へ行くと思うので、中央の拠点を見つけた時にはすでに強化が完了しているのがゲームバランスとしては丁度よさそうだし。
「こんな木が密集した中に洞窟があるなんて…これは分かりにくいね…」
そう、ミーの言う通りエルフ側の入り口は木で隠されていた。ただ、よく見ると不自然な感じでまとまっているのでそこに違和感が持てれば見つけられる…はず?
「流石ナオヤ君!やっぱり頼りになるね!」
「ほんと、流石私のメンター。」
「……」
ポリーは開いた口が塞がらないのか唖然としていた。
「…採取メインだと分かるものなの?」
「それだけじゃないが採取物の場所が分かるしソロプレイしていると敵の気配に敏感になるからいいことづくめだぞ?戦闘は不意打ちがメインになってしまうが。」
改めて覚えたスキルを確認すると、精霊術と魔力系、寝る系以外は戦闘でも便利なもの多いよな。探索者という職を考えるなら必要って事なんだろうなぁ…PTプレイじゃないのなら。
「休みなく移動しているが大丈夫か?敵が湧かないうちにボス付近まで移動してから休憩って考えているんだが。」
俺は4人を見渡し聞いてみた。
「私達は大丈夫、頂上で少しだけど休んでいたから。エルフの区画だと私達じゃ採取も出来ないからポリーさんに負担かかっちゃっているのが気になるかな…」
イナの指摘は御尤もだ。移動の際にポリーにも敵の湧き方やイベントのルール的なのを改めて共有はしておいたが…
「…だるいけど今移動したほうが楽よね。採取に関してはナオヤさんが場所を教えてくれているから面倒じゃないわ。」
ポリーって俺と似た性格をしている?のんびり屋というか面倒くさがり屋というか…だが助ける前は戦わず諦めている様子だったし…こういうのって何て言うんだ?ダウナー系?自暴自棄ってわけじゃないから微妙に違う気がする。
『確かに似ているわね。でもナオヤは後で必要になりそうなことをきちんと先に終わらせておくタイプだけど、この子は後回しにしそうよ?』
向こうの世界で疲れているからこそこちらの世界ではのんびりしたいんじゃないか?逃げて行ったエルフに関しても付きまとってという表現をしていたし普段は囲まれている生活をしているとか?
『有名な子なのかもね。私も人に囲まれて生活なんて嫌だわ。』
…今更態度を変えるのおかしいし、余計な気遣いと思われそうだから気にするのはやめておこう。有名だとしてもこちらでは一介のプレイヤーとして接したほうがよさそうだ。
俺が百面相をしているのが気になったのかポリーは首を傾げていたが、その背をミーに押されて洞窟の中へ潜っていった。
さて、気持ちを切り替えて俺も中へ入るとするか。