第58話
??? side
はぁダル…ゲームの中なら現実とは違って追いかけられたり人に囲まれたりしないと思ってたのにこっちでも常に追いかけて来る奴がいるとか面倒すぎ…ゲームなんだからもっとユルく遊びたいのにさ。
「なぁ、こんな拠点から離れた所に来て平気なのか?」コソコソ
「大丈夫だろ?ここまで敵を見かけなかったんだし問題ねぇよ。」コソコソ
「ま、他の奴を出し抜いて姫ちゃんと仲良くなるにはリスクを取るべきよな。」コソコソ
小さくしゃべってるんだろうけど聞こえてるっつうの。こいつらもそうだけど付きまとってくる奴ら下半身で物事考えすぎ。
「リスク…吊り橋効果ってやつか!」
「でも姫ちゃん自身結構強くね?俺らより強いと思うんだが?あんな面倒くさがりなのに。」
「面倒だから楽に倒そうって考えるんだろ?普通普通。あとピンチになったとこを助ければいいんだから俺達が弱くてもへーきへーき。」
付きまとわれたくなくてイベントが始まってからすぐ島の中心に向かったのに…容姿がもっと弄れたらちがったのかな?リアル準拠じゃないとログアウト後に弊害が起こる可能性考えるとしかたないけど。これなら見た目がかなり変わる魔族のがよかった。
「それにしてもここまで敵がでないってありえるか?」
「姫ちゃんが索敵しながら避けている説。」
「ありえそうって思えるのが凄いよな。もし索敵してなかったら誘い込まれてるけどそれはそれでチャンスだもんな。」
はぁマジこいつら邪魔…置いていきたいけど私ってトロいから無理だし…それを知ってて付いてくるし…って索敵の端に反応あり?しかも数が…
「お、おい!前を見ろ!なんだあの数!?」
「いや!前だけじゃねぇ囲まれてるぞ!」
「う、うわぁぁぁぁ!!!」
「あ、おい!お前だけ逃げんなよ!」
「後ろはまだ大丈夫だ!早く逃げるぞ!」
「姫ちゃんはどうする!?」
「姫ちゃんのペースで行ったら逃げれんぞ!せっかく熟練度上がってきてるのに死ぬなんて御免だ!」
3人は女性を置いて逃げて行ってしまった。
はぁ…人って危機的状況になったら本性が出るからね。こんな状況で逃げるなんてやっぱり信用に値しない。
まだ一度もやられたことないけどこれが初かぁ…どんだけ熟練度落ちるんだろ。イベント中にやられると装備ってどうなるんだっけ…魔法を使ったとしてもこれだけ囲まれていたら脱出は無理だし動けなくなるから結局死ぬよね。それならさっさとやられた方がダルくないか。
私は周囲を囲みながら近づいてくるスケルトンの群れを他人事の様に眺めながらその時が来るのを待っていると…
「フィーーッシュ!」
体に何か巻き付き、私は空中に持ち上げられた。辺りをよく見ると崖の上に女の子3人と1人と男性がいて、男性は槍を釣り竿の様にして絡められた私を釣っていた。私を釣りあげていた紐は意思を持っているかのように解かれ、小柄な私の体は男性の腕の中にストンと落ちた。
「あ、あー…ナオヤ君、あとでそれ私にもして?」
「ん?釣り上げるのをか?確かに上の方に投げだしたら地形の把握にも役立ちそうだが…」
「いやいや違うっしょ…」
「あはは…まぁそういうナオヤ君だから下心なく感じて私達も付き合いやすいんだけどね…」
私はすぐに地面に降ろされ、私を抱えた男性はPTメンバーに指示をし始めた。これだけ敵に囲まれているのに冷静なんて凄い…
side out
とりあえず少女は救い出したんだが他の3名は…あらら、気配からすると完全に逃げ道が塞がれているな。っと気配が消えたな。ただ、あの3人を追っていった敵の距離からするとこちらには戻ってこないからいい仕事をしたんじゃないか?初期拠点が押しつぶされたのってこういうまとまった集団を作られたからなんじゃ…
「ね、ね、あーし達も逃げないとまずいんじゃない?」
「…敵の行動を考えると倒さないと意味がないかも?」
サイとミーが言っている事は正しい。が、地は俺達の味方をしてくれている。
「前方は崖、ここに来るためには坂道になっている横道から来るしかない。んで、曲がり角も急だから敵の遠距離から射線が通らないから角待ちして倒せると思う。敵は賢くないから出会い頭に武器を振ってこないのは確認済み。」
俺が今の状況を言うと不安がっていた3人も十分に対処が可能というのが分かり冷静に戻った。
「2人は前衛で曲がり角へ、イナは崖上から遠距離の対処と前衛の様子を見て紐矢を撃ちこんで。俺も崖上から遠距離の対処だが前衛の援護の為に曲がり角に近い所に行く。
敵がこっちに向かって来ているな。んじゃ動こうか。」
「あ、あの…」
助け出した少女が口を開いた。
「この状況になったのは私のせいですし何か手伝わせて欲しい、です…」
改めて少女を見る。金というには少し鈍い色の長めの髪に彫りの深い顔立ちをしているので身長が低くて、幼いのに大人びた雰囲気がしていることから日本人ではなさそうだ。ただ、一部分が立派なことからギャップが凄い…っと女性は視線に敏感っていうから気をつけないと。
「そうだな…俺達だけでも対処は可能だが…なにが出来るか教えてもらっても…あ、魔法出来るのか。」
そう、少女の傍には小さな緑色の光が漂っていたのだ。緑ということは樹木に関連する精霊なのか?
『そうね、エルフだし精霊や木との親和性が高いから付いてきた子ね。予想の通り木の小精霊よ。ただ、私達みたいに契約したわけじゃないから大した力はないけれどね。』
エルフだとそういう魔法の覚え方もあるのか。
『まぁ精霊に憑かれると他の属性が覚えづらくなるのよね。精霊同士でも相性ってあるから。』
なるほどな、精霊事情も難しいんだな。
少女は俺が魔法を使えることを指摘したことに驚いていた。
「な、なんでわかったんですか?」
「俺も魔法が使えるからな。木の魔法みたいだし崖上から援護をお願いしてもいいか?」
サイとミーが相手をしている敵に槍を投擲し、刺さったところを横に引っ張りスケルトンを薙ぎ払った。すかさずトドメを刺してくれる2人の動きは相変わらず凄い。
「え…エルフでも魔法が使える人は少ないのに…他の種族は普通に使えるの…?」
「覚え方は何種類かあるから増えていくんじゃないか?敵から魔法を食らうと覚えるのが一番早いがレア度って考えると低いがな。っと、それじゃ上からの援護は任せた。射線に気を付けて魔法を使えよ?」
俺はそこで話を切り上げ前衛の傍へ駆け寄っていく。
「…こう、ちやほやされると鬱陶しいけど、何もないとそれはそれで寂しい…」
少女が呟いた一言は風にかき消されてナオヤには届かなかった。