第55話
俺はこのイベントでの敵の湧き方や動きについての見解を皆と共有するために話した。
「つまり、ある程度離れた場所に自然発生して人数が多い場所に全方位から近づいてくるってことかな?」
イナが確認する。
「ねね!それってなんか前にちょっと流行っていたゲームに似ていない??周りからわらわら敵が出てきて経験値を取って装備を強化してくやつ!」
「…それで時間によってウェーブが発生?ミーの言うゲームに心当たりあるけど確かに似てるかも?」
俺には何のことかさっぱりだがサイもミーも思い当たるゲームがあるらしい。
「そう言うわけだから俺達が中心に向かっても大量に敵が来るのが少ないかもしれない。拠点とってからの防衛戦は別としてな。」
「そっか、私達より4か所とも大人数がいるわけだしそっちに敵が向かっちゃうもんね…」
「でもでも!それなら不意打ちしやすいってことっしょ?堅実に倒すことは出来るのは助かるー!装備の修理が出来ないと敵多くても心配だし!」
「あ…敵の影が見えてきた。イナが先制する?」
そう言えば不意打ちをしたら一撃なんだっけ?こういうゲームってタンク役が先制入れるのが基本らしいが強みを生かすとなると変則的になるってことか。
「あ、ナオヤ君。普通のゲームは遠距離が先制しないでタンク役が挑発スキルを使ってターゲットが安定してから火力が叩くんだよ。ただ、このゲームって発見されてないだけかもしれないけど挑発スキルがないから…」
「単なるダメージでヘイトコントロールだね!あーし的には回復系のもの使うとうざいからヘイト溜まると思っているよ!」
「それは経験則。イベント始まってすぐだから弱いけど時間が経つにつれ強くなって大量にでると予想。」
皆色んなゲームをしてきたからこその法則を知っていたり予測が出来るのは凄い。
「私のスキルは狙撃っていうのがあって、気づかれていない敵に2倍、ヘッドショットで1.5倍のダメージを与えられるの。6体来ているから一番前のを狙うね。」
そう言うとイナは弓を引き射掛けた。そして吸い込まれるようにゾンビの頭に突き刺さり一撃で葬り去った。
…弓って難しい部類だよな?いくら部活でやっていたとしてもこんなに速く狙って動作できるものなのか? しかも背中にかけている弓じゃなく小さめの?弓道で使われるのは和弓だっけか。
イナが使ったものは反り返って小さめので、背中にかけているのは長弓ってやつなのか。凄いな…用途に応じて切り替えるって感じだ。
「次、あーしが出るよ!」「ん、私も」
そう言い残し2人はゾンビに向かって走りだした。ミーは刃渡りがそれなりにあるナイフを両手に持ち敵を一閃、サイは武器を使わず自分の爪で切り裂いていた。その間にイナがもう1射打ち込み残り2体。
俺も参戦するが近接をしかけるには距離があるのでいつもの如く槍を投擲、縄の反対側は重しの分銅を付けているのでこちらを投げもう1体の動き止める。その間に3人が止めを刺した。
「皆、好戦的というかバトル慣れしてるなぁ…」
「いやいや、ナオヤ君のがおかしいって…まるで忍者が使う鎖鎌みたいな挙動してたよあれ。」
「私達は普通。武器で攻撃しただけ。」
「あーし見てたよ?サイ、爪になにか塗り込んでたでしょ?」
「ちょっと毒状態になるか試してみた。」
薬師こえぇぇ…というか全員揃って回避というか見つからない戦闘スタイルというかそんな感じがする。
「俺的にはイナの精度が凄いって思った。最後なんて混戦というか1体の敵を3人とも狙ってただろ?フレンドリーファイアはないだろうけど度胸があるなって。」
「そうなのかな?当たっちゃうって思うより当たらないって思いこんだほうが命中精度上がると思う。集中してて目に入らないみたいな感覚?」
「一応あーしらも射線に入らないようには注意してたからね。あとは信頼かな!」
「フレンドリーファイアないから射線に入らなければ大丈夫。それよりナオヤ君、ゾンビが粉になって消えてアイテム落ちたよ。」
サイに言われて討伐したゾンビの箇所を見ると確かに死体は消えていた。落ちていたアイテムは木材、石、粘土であった。
「倒した魔物と関連がないアイテムってことはイベントで使用するってことだよな?」
「多分そう。あとイベントポイントが入った。」
「6体倒しても6pだね!後半にどれだけ狩れるかってことかな?」
「まだ魔物は弱いもんね…弱いうちにポイントを稼いでおくか、戦闘に自信があるなら後半に倒すって感じなのかな?」
皆それぞれドロップ品を見てあーだこーだ意見を交換している。ドロップ一つでそれだけ予測出来るってほんとゲームに慣れているよな。「ねぇねぇ!」っと皆に呼ばれているな。
「ナオヤはどう動いたほうが良いと思う?」
3人から見つめられながら考えてみる。俺達のパーティーは第2陣とはいえ戦闘出来る人が3人もいる。また、生産もそれぞれ分野を分けて行う事も出来る。そしてドロップ品が建材…ということは…
「積極的に狩ろう。ただし、中心にあると思われる拠点に向かいながらだけどな。」
「そっか、ボスがいるかもしれないなら少しでも戦ってスキルを上げたほうが良いもんね。」
イナが納得のいった表情をした。
「それもあるんだがこいつらのドロップを見てわかる通り、おそらく拠点作成に使う建材なんだよ。ということは結構な数が必要と考えられる。
ボスに直行したとしても素材が足らずに戻る手間を考えるなら道中に倒して行ったほうが良いと思ってな。」
「…初期拠点の作りは全方位ではなく敵の来ない方向がある作りになっていた。私達で1方向担当するだけで相当の数を狩れる可能性。」
サイが地形から推測を付け加えてくれた。
「後方からくることはないんでしょ?それなら索敵に反応する近いの全部倒してこ!」
ミーもやる気十分という感じだ。俺はイベント前に上がった膝枕や昼寝の効果をボス戦に温存していくか。まだまだ素の力でも倒せるしな。
遠い敵を俺とイナが狙い、近い敵をサイとミーが軽やかに倒して行く。島の中心付近まであとちょっとと言う場所まで囲まれる事がなく危なげなく倒しているがそろそろイベントが始まって6時間が経とうとしていた。つまり3日間あるうちの6時間経過、敵の切り替えがいつ起こってもおかしくはない。
道中の敵もなウェーブ戦っぽい感じでまとまって来ていたのだ。初期拠点では防衛戦が発生していたのかもしれないが、いくら数が多くてもゾンビにやられる人達はいないだろう。
休憩を挟み、再び頂上を目指すのであった。