第54話
ちょっと気になる事があるが無事に境界へたどり着くとそこにはすでに一人の女性がいた。猫族で茶髪のウェーブのかかったロングヘアー、橙色のホットパンツを履き短剣をベルトに差しており、革で作られた服、ローブを身にまとっていた。あの女性で合っているのか?
「お、早かったね!獣人のあーしでもかなり急いできたのにもう着くなんて。やっぱり第1陣だと色々と覚えているのかな。」
合ってたみたいだな。
「他に人はいないが一応、こちらではなんて呼べばいいんだ?」
「ミーだよ!猫の獣人だし丁度いいっしょ!」
「こちらはナオヤ。それじゃ合流地点に向かいながら情報交換でもしようか。」
「リアルネームで大丈夫なの?でも普及を考えれば大丈夫か…あーしらの周りがやっている人多いだけだもんね。」
「そもそも招待枠がある点で知り合いはいるんだから問題ないんじゃないかな?んじゃ時間がもったいないし少し急ぐか。」
俺達はランニングするより少し早いペースで魔族の領域を山の麓沿いに沿って移動を開始した。
走り始めた所までは良かったのだが気配察知に反応する魔物が増えた気がする。
「ミー、境界に来るまでに戦闘した?」
「え…?あ、してない!呼び捨てされてちょっとビックリした。」
「あー…不快感あるならさん付けで呼ぶぞ?それと、俺も戦闘をしていない。一応気配は感じていたが避けてきたし。」
「不快感はないから平気!でもいきなり戦闘の事を聞いてくるなんて何かあったの?」
「俺が感じる魔物の気配が急に増えた気がするんだよね。これって人数による難易度調整ってやつなのか?」
「やっぱナオヤもおかしいと思ってたんだ。あーしも普段のフィールドより敵が少ないなーって思ってたからそうじゃない?」
育成イベントなのに戦闘がまったくないのも問題だからこその調整か?そうなると集団で動いているやつらの周りは敵が湧き続けているってことだよな。しかもこの気配、見つかってもいない距離なのに確実に俺達の方へ向かって来ている。
いや…初期拠点と思われる場所に向かっているのか?さすがに一番近い敵はこちらに向かって来ているようだが、それ以外は向かってこない。人が多い所に引っ張られていく感じだ。プレイヤーは敵を引き付ける磁石って感じだな。
より強い磁力に引かれて敵が移動するとなると…まぁ後から相談だな。
「戦闘に関しては考えが浮かんだから他の2人と相談しよう。積極的に狩るか消極的にいくかだな。」
「お?なんか思いついた感じ?ふふふ、戦闘ならまかせてよ!第2陣だからって先行組に遅れはとらないぞー!」
「頼りにしとくよ。それより、余裕がありそうだからもうちょいペースをあげようか。サイは種族的に体力はあるけど飯塚さんは怪しいし。」
「あー…リアルでは確かに奈央はダメダメだけどゲームなら大丈夫…って思ったけれど結構リアルの影響受けるよね。」
ま、ゲーム慣れしているみたいだから大丈夫だろうけど移動速度に関しては俺達のが速いし早めに合流出来るようにしなきゃな。
「そ、それにしてもナオヤ・・・表情も変えずにこのスピードで走れるなんてすごいね…あーし、体力ある方だと思ったんだけどな…」
起伏のある荒れ地をスイスイ進む俺を見てミーが驚いていた。
「魔力が使えるようになると身体強化ってのが出来るようになるぞ。魔力を消費しつづけるが…」
「あっ!ナオヤの魔力量は特殊なんだっけか。いいなぁあーしも早めに魔力解放したほうが良いのかな。」
「自力で覚えてもユニークが出るとは限らんって話だから人に寄るんじゃないか?ま、攻撃魔法を食らうより自力で覚えて補助魔法覚えたほうが良さそうだが。」
自己バフがあると単独でも戦いやすくなるだろうしな。
「獣人のイメージだと身体能力や獣化って感じなんだが教えてくれそうな人はいないのか?」
「一応第2拠点までは開放したんだけどまだ初期の街すら回り切れてないんだよね…ファストトラベルが欲しい!」
「転移の魔法があるからそういう魔道具があるんじゃないか?まぁ、まだ移動距離はそこまで長くないから必要ないだけかもしれんし。」
「リアル寄りだからない可能性!不便なのが楽しいっていうコアな人向けって気がする。没入感が凄いからあーしは好きだけどね。」
走りながらあーだこーだ話している間に結構進んでいたようで前方に2名の影が見えてきた。っと、やっぱり敵の反応が増えたな。大部分は魔族の初期拠点を目指して登っているみたいだから大丈夫かな?中央の山から湧いた敵は俺達に向かって来ているから戦闘準備だ。
「あ、こっちだよー!」
飯塚さんが声をあげて俺達を呼んでいる。なんというか、飯塚さんの姿は人族だけあって普段とそこまで変わらない恰好であった。サイやミーが獣っぽい姿だから揃うと余計に目立つ。俺も魔族のなかでは目立つほうだけどな。
「やっと合流できたー!ずっと走り続けるのも疲れるね。」
「ミー達が頑張ってくれたから私達は楽できたけどね。あ、サイは早く合流したがってたよ?」
「イナ、それは言わないでいいやつ。でも2人が距離を稼いでくれたから助かった。イナ全然体力ないし。」
飯塚さん…イナが「えぇぇ!?」と驚いているが俺とミーが心配していたことが現実となってしまっていたか。
「2人はもう戦闘したか?俺達は避けてきたからどのくらいの強さの敵か分からないんだが。」
俺が聞くと2人は1度だけ戦ったと言った。
「そこまで強くなかったよ?私の弓で不意打ちしたら1発だったし。」
「それはイナが習得しているスキルの組み合わせが良いから。敵の動きは遅め、ゾンビっぽいけどプレイヤーより腐敗が進んでる感じのグラフィック。」
「うわぁ…近寄りたくないやつー!魔族領の敵だからかな?それとも初日だからとか?」
「どっちもあるんじゃないか?流石にずっと敵が固定されるわけじゃないだろうしずっとゾンビだけとか魔族から文句が出るぞ。それより、敵がもうすぐ来るから戦闘準備。」
俺が皆に言うと一気に警戒しだした。流石ゲーマー…切り替えが早い。
「あーしの索敵には引っかからないんだけどどんだけ広いの…?」
「私もまだ…ナオヤ君すごい。」
「あ、私はいま引っかかった。弓にしてから察知系を意識して育てているんだけどまだまだかぁ…」
…流石にこの島覆えるくらい索敵範囲広いですとは言いづらい。魔力が強めの場所がかなりあるからそれがボスっぽい。敵の数は4人になったことで沸き数が増えているが散漫的に来るから問題なさそうだ。
『他と比べる事で自分の異常さを理解したのね。』
普段ソロで遊んでいる弊害ってやつだな。強さを素直に褒めてくれるのではなく嫉妬されるのも面倒だからスタイルは変えないかな。
『外国人って面倒な性格しているわねぇ。』
優劣をつけたがるのが基本だからな。この3人は羨みはするけど嫉妬はしてこないから一緒にいて助かる。
それはそうとPT戦の開始だな。