第53話
今日の19時から無人島イベントがスタートするのだが、まずは講義を終わらせないとな。
「とうとう今日からイベントだね!あーしの準備は完璧だよ!」
「そう言ってどこか抜けているのが久実。生活面では予想しているけど戦闘がどんな感じなのか心配。」
「そうだよね。昨日の夜に掲示板見てみたんだけど防衛戦が局所的に起こるんじゃないかって言ってたよ。」
人族は多いから色んな意見が交わされているのか。ま、イベントも大事だけどさ…
「それもそうなんだがイベント後に学期末テストがあるぞ?ゲームのし過ぎで赤点とると休み期間に補習になるぞ?」
皆分かっていたが改めて言われたくなかったようで絶望していた。この3人って成績そこまで悪くなかったよな?
「私は赤点は取らないけど点数低かったら家族にゲームの時間短くされる…」
「奈央はいいよねぇ地頭良いし。あーし、夏季休暇はバイトや遊びに行きたいから点数悪かったらヤバイ…」
「ゲーム内で勉強出来たらいいのに。」
「彩ちゃん…でもホントそうだよね、今回のイベントみたいにゲーム内の3日を現実時間の5時間に常になっててほしいね。」
ゲーム内時間の加速か…色々と問題があるから運営的にも導入し辛いとこではあるよな。
「現実に影響が出るからな。研究によると幼少の頃から加速空間で過ごすと確かに賢くはなるが人格形成に影響がでるとか考え方が突拍子もなかったりするとか。ゲーム内で過ごす時間が長いと現実でも同じような行動をしてしまうとか。」
「あ、それ知ってる!人の家に入って壺割ったりタンスを漁ったりした事件あったよね!」
坂田さんが昔にあった事件の事を言った。
「年齢規制がどのゲームでも必要になった。出来るゲームが少なくなって困った…」
高杉さんの言う通りゲーマーな彼女達にとって年齢規制が入ると厳しかったようだ。
「ま、あとは身体の動かし方にも影響があるしな。ゲーム内でステータスが上がった感覚を現実でも引きずって事故が起こっていたからな。常時ではなく今回みたいなイベントを濃くするためならある程度許可されているとか。」
「勉強に使わせてくれたら助かるのにー!残念!
ね、ね。夏季休暇に皆でゲーム合宿しない??」
突然なにやら坂田さんが言い出した。
「久実…出来たら面白そうだけどバイトをしていない私と彩ちゃんは泊りがけとか難しいよ?」
「会場なら問題ないっしょー!ほら一人暮らししている青木君がいるじゃん!」
…っは!?
え、どういうことだ?うちに泊まってゲーム合宿?
「…ゲーム以外にもしたい。夏だし祭や花火とか。」
「彩いいねそれ!海かプールはどう?」
「さ、さすがに青木君が一緒だと恥ずかしいかも…」
いや、俺もついていくのが前提な事にビックリしているんだが。
だが祭や花火は行きたい。一人でも見て回るだけで楽しめるし花火を眺める時間って好きなんだよな。
「決まり!青木君、泊めてくれない?」
「…一応1ルームじゃなく1DKだから泊まる分には問題ないが布団は2枚しかないぞ?まぁソファーで俺が寝れば問題ないか。というかいくら女性のほうが多いと言っても男の一人暮らししている家に泊まりに行くか…?」
「そこは信頼しているから問題ないっしょ!彩は絶対大丈夫だろうし!」
そう言われて高杉さんの方を見るとブンブンと赤い顔をして横に振っている。否定されている気がするんだが…それと
「…飯塚さん、嫌ならきちんと言ったほうがいいぞ?流されるだけだと取り返しがつかない事もあるし。」
「だ、大丈夫。うん、青木君なら問題ないよ!」
ということでテスト明けから俺の家に泊まりに来ることが決定したようだ。イベント終わったら布団を干しておかなきゃな。あとは風呂とトイレは入念に掃除しなければ…意外と忙しいぞ。
こうして俺達はイベント、テスト、夏季休暇の話で盛り上がるのだった。
イベントの開始時間になるまで勉強と家事を済ませ、俺はログインした。
-ただいまより、無人島イベントを開始します。この機会に普段育てられないスキルを育ててみてはいかがでしょうか。また、このイベント中は時間が加速されますのでご安心ください。
一瞬の浮遊感がした後、急に岩場に立っていてバランスを崩しそうになった。辺りを見渡すと同じ様にバランスを崩しこけている魔族を見かけた。全員が同じ場所に転移させられるわけではなくある程度距離が取られているんだな。
「ナオヤ君、良かった近くに飛ばされたんだね。」
サイも近くにいたようだ。いくら魔族の人数が少ないといってもこれだけ広いエリアを探すのは大変だからな。
「それじゃ事前に打ち合わせしたように動くか。俺は獣人族側との境界に行って坂田さんと合流。」
「私は奈央を迎えに人族側。魔族エリアのどこで合流する?」
辺りを見渡すと魔族の初期拠点は山の中腹にある平地のようだ。海岸線は断崖絶壁となっており登ってくることも難しくなっているのは人族に配慮した結果なのだろう。
中央に向かって下り坂になっているが、ドンっと中心に山が存在しているから4種族の交わる点はあの山頂ということか?
「ん-…これならあの山の麓が分かりやすいか?各境界から麓に沿って移動でどうだ?」
「だね、それで問題ないと思う。それじゃまた後でね。」
俺達はそれぞれの境界へ向けて移動を開始した。サイは種族特性もあって移動が速いから遅れないようにしなければ…走っても疲れないのは助かるし、ないものねだりか。
『さっきの魔族がナオヤの弟子?タイプが違うわねぇ。』
そうか?ま、動物でも植物でも群れるとしたら同じような性質が集まるんだろうけど、自分の持っていないものを持つ相手に惹かれたり尊敬したりしないか?
『…確かにそうね。私だってナオヤに興味があって契約したんだし。とても楽しませてもらっているわ。』
それはなにより。そう言えば精霊がここの管理も任されているって言っていたが4元素というか他の精霊もこの場にいるのか?
『精霊は4元と言わずに沢山いるわよ?植物にだってそれぞれで小さな精霊がいるの。まぁ火水風土光闇の精霊から枝分かれした属性って考えればいいわ。例えば金属は土に属するとか、雷は風光闇が混ざっていたりね。』
あぁ、複合属性ってことなのか。結構日本と同じ考え方なのが好感持てる。向こうは大切にしてきた物には神様が宿る付喪神っていう考えで、こちらでは精霊が宿っているという違いはあるがな。
『へぇ外国って面白い考え方なのね。ま、精霊に好かれたいなら物を大切にするのは大事よ。ちなみにあなたは私以外の精霊も興味を持っているわよ?』
いやぁ…嫌われるよりはいいがそこまで興味を持たれるような面白い奴じゃないぞ?確かに好かれたらなにかと融通してくれそうだがそれによって目立つのはな…
ギルドや金銭面で優遇されているのはもう手遅れだが。
『ま、深く考えなくて大丈夫よ。精霊なんて気が向いたらーってのが大部分なんだし。でも興味を持っている人を困らせるような子はいないわ。』
それを聞いて安心した。
全然獣人エリアに着かないと思い最初に配られてた地図から今現在いると思われる地形を確認すると、もう7割方来ているようだった。