第48話
家に帰り用事を済ませた後、俺は確認のためにもう一度公式HPを開いた。知りたかった情報というのはアイテムが持ち込めるのかだ。持ち込めるかどうかで立ち回りや必要な準備が変わってしまうもんな。
HPを見る限り装備品は持ち込み可。加工品と素材は不可、道具は可とな…?分類が難しいんだが加工品というのは素材から作った物だよな?料理が当てはまる。素材はイベント時のものしか使えないのは当然として道具というのは採取道具でいいのか?そうなると魔道具の分類は?…公式HPには何も書かれていないな。とりあえずかみ転にINしてみよう。
今日は頭に柔らかな感触がないなと少し毒されていると感じながら起き上がると、フラムでログアウトしたことを思い出した。イベントの準備も必要だがまずはきっちりと依頼をこなしてから考える事にするか。
北に向かっていけば分かるってアーテルさんは言っていたので、俺はまず辺りの気配を調べるために魔力を意識してみる。特に大きい魔力の持ち主は見当たらな…いや、奥に1体だけいるがその場に留まっている。ちょうどここから北の、湧き水がありそうな場所に…
それ以外の気配もアージュからフラムまでの道中より魔力が少し大きく感じる。人族の魔法習得を考えると魔法を使ってくる魔物が現れると予想されるので慎重に行動したほうが良さげだな。
【魔力探査】により大まかな位置を特定し【気配察知】【隠蔽】を意識しながら歩を進めた。
「この正面に魔物の気配があるんだが生物は見当たらないな…あの木の後ろにでも隠れている可能性もあるが、アクションを起こさないと出てこないんじゃ?」
3次元で敵の位置を補足してみても木の上ではなく根本側の位置、つまり裏側にいる可能性が高い。槍をなげたら貫通させて倒せる感じがする、ただしハルのバフが掛かっていないのが気がかりではある。
「方針は決まったし、やってみなくちゃ変わらないよな。狙いは魔力が一番集まっている所!!」
俺は思いっきり槍を投げた。昨日の戦いで槍のレベルが上がったからか鋭い音を鳴らしながら槍は飛んでいき深々と刺さったと同時に声にならないような波動?魔力が震えて広がった。
「木の魔物だったか…ってええぇぇぇ!?ちょ、周りも普通の木じゃなかったのか!リンクしたってこと!?」
急に根があちこち地表に現れた。とりあえず冷静になろう!倒したトレントと思われる木をかばんに収納し槍を回収しながら確認する。トレントは5体、非常にゆっくりな速度で枝を振りながら近寄ってきている。その時、先頭のトレントの枝に魔力が流れていくのが分かったので慌てて横へ飛び退いた。
「おいおい…まじか…」
先ほどまでいた場所を見ると30cmに渡り深さ5cmほどの亀裂が入っていた。
「かまいたちってやつなのか?こんなの食らったら一撃で終わりだろう…ラーニングとか言ってられないんじゃないか?」
他にも魔法を使ってくるやつはいるだろうが最初からこんな殺傷力をもった魔法を使ってくるとは思わなかった。発動タイミングは分かった、後ろのトレントが魔法を使ってこないことを考えると前方に味方がいた場合は使用しない、つまり途中に発生させているわけではないし軌道は枝振りで予測が出来る。
うん、大丈夫だ。自信を持っていこう。
その後、投擲しては魔法を避けることを繰り返した。途中から連続で魔法が使えない事が分かったので盾にしつつ他のから討伐していき、なんとか無傷で魔物を倒し終えた。
「敵の動きがゆっくりで図体が大きかったから倒せた感じだよな…不意打ちされただけでアウトだし。だけどあの根を地中に伸ばして足に巻き付けてこようとしたのは危なかった…」
あの攻撃、魔法の発動を見極めるために意識していた魔力探査を使っていなかったら食らっていたな…地面から伸びて来る魔力に気づけて良かった。
「生物ではなく植物だから根を伸ばすのに魔力を使ったって事か?元から蔓のように長さがあるものの場合は魔力を使わないだろうから察知することが出来ないとか?」
万能なスキルはないってことだねぇ…死角がなくなるようなシナジーを得られて初めて役に立つスキルだって多いだろうし。ただ、無意識に発動するパッシブじゃないなら沢山覚えたところでレベル上げが大変、しかも使用していないとレベルが下がっていってしまうもんな。ちなみに昼寝や膝枕はパッシブだからいつの間にか育っている。
更に森の奥へ進んで行くのだが湧き水の場所まで向かっていくであろう小道には魔物の気配がなく、道から外れた場所に先ほどのトレントの魔力が多数見受けられた。
「トレントが大量発生しているのか?さっき倒したのは小道を塞ぐように発生していたが…まぁ無計画に伐採されるよりトレントを沸かせた方が自然破壊にならないってことで運営が関与している可能性も無きにしも非ず…っと、この先が湧き水の場所だな。」
俺は湧き水の場所からずっと動かない魔力の持ち主を警戒しつつ歩き続けた。
しばらく歩くと森が開け、中央にある水飲み場みたいな岩から水が噴き出し、緩やかな傾斜に沿って流れていた。そして水飲み場の岩の上には半透明の小さな生き物が浮いていた。
???
『それにしても暇ねぇ…水を汲みに来る人も全然こなくなったし。新しい水源は発生していないのにおかしいわね。定期的にこないんなら水質でも悪くさせちゃおっかな?』
自然と抜けてしまう魔力を水に還元しているのだけど魔力の補充をこれだけサボられるなら移動しちゃおうか、といっても川は私の趣味じゃないしひっそりとした此処のような場所のが静かで好きなんだよね。あれ?誰か来たのかしら?
へぇ、魔人なんて今時珍しいわね。前の世界では溢れていたけれど、この世界になってからは見かけた事なかったわ。黒髪で細身、目が反転しているのは魔人の特徴だものね、それに魔力の波動が気持ちいいわ。ねっとりとしていなくて攻撃的でもなくただ在るがままに漂う純粋な…
「ん?これって吹き出している水の回収って樽をここに置けばいいのか?」
『そうそうそこよ、あとは貯まるまでのんびり過ごしてて。』
私の声は聞こえないだろうけど、ついつい独り言に答えちゃう。普段は5,6人で来るのに今回は一人だけなのね。きちんと持って帰れるのかしら?
「あ、貯まるまで時間かかるんだな。でも貯まったら次の樽に移さないといけないから寝ることも出来ないや。樽10個ならべて灯油ポンプを刺してセットしたら全部に自動で入ってくれればいいのに。
あー…でもあれって圧力や高さを変える必要あったか。てか用途が限られすぎるからわざわざ作る必要もなさそうか…」
『へぇ、そんな道具があるのね。確かにずっと見張っているのは手間だしちょっとの工夫で時間が使えるようになるなら作ったらいいんじゃない?』
「原理は簡単だから相談してみるか。」
『うんうんそれがいいわよ。あ、樽に水入れ終わったら魔力を分けて。それが契約だから。』
「魔力が必要なんて教えてもらえなかったんだがどこにやればいいんだ?」
『知らない?まったくもう!街の人達、新しい人寄越すならちゃんと教えなさいよ。ほら、この魔石に補充して。水を出すのと私の栄養になるから。』
「へぇこれも魔道具の応用ってことなのか、それにしても栄養ってどういうこと?」
『そりゃ私は精霊だもん、成長するには大量の魔力が必要なの。』
「精霊か、だから体が透けてるんだな。人の赤ん坊くらいの大きさで透けてるからビックリした。」
『ま、普通精霊なんて見かけないから仕方ないわよ。って…え?』
「ん?どうした?」
『見えるの!?というか声聞こえていたの!?』
「え?うん、はっきりと。」
『えぇぇぇぇ!?』
私は驚きのあまり大声で叫んでしまった。