第46話
慣れない野外活動をしたから精神的に疲れていると思ったのだが思ったより疲労が残っていないのは宿でキチンと寝たからなのだろうか。それだったらかなり嬉しい誤算だ。ゲーム内で予習や復習が出来ればいいんじゃないかって思うんだが、そのうち学習ゲームに応用できそうだ。
今日は2限から講義なので先に図書室で彫刻に関しての資料を探してみる。必要な知識は持ち方、刃の選び方、彫る際のコツを重点的に調べていく。
基本の持ち方は親指と中指、人差し指で持って反対の手で板が動かないように、あとは刃が走り過ぎないように指を添えて、怪我しないように刃の進む側に手を置かないとな。切り出し刀が鉛筆持ちで親指で押すようにして切るのか。ゲーム内ではナイフが主流ってことはこの切り出し刀がメインになりそうだ。溝が三角になるように刃を入れるのがコツなのか。彫り始め以外は三角刀でつなげるのもありかもしれん。
刻印を彫るってことだから平刀とか使わないもんな…石や木材で大きい物を彫刻するときに使うものだし。ハルは関心していたが刻印以外にも需要があるから商品になるってことなのか?
調べものが終わったと同時にチャイムがなったので、急いで本を戻して講義室に向かった。講義室では3人娘が俺の後ろの席に集まっていたがあまり話す時間がないのもあり、また後でと話を切り講義の準備を進める。
今回の講義は歴史学であまり人気がないのだがどのようにして発展していくかが見て取れるので面白いしゲームにも役立ちそうなので動画を撮りながら俺は真面目に聞いている。講師の話を聞いてその時に思ったことをノートの端に書いてメモするのも重要だ。
特に歯車によってもたらした事とかな。魔法がある世界だからこちら以上のブレイクスルーを引き起こせるかもしれんが、急な発展は色々としわ寄せ出て来るのであまりお勧め出来んよな。特に職に就いている人達とかさ…ゲーム内で望んでいる発展は緩やかなものを指している感じがハルから伝わって来たし、既存の技術で出来ることから少しずつ変化させていくべきなんだろう。
講義が終わり、片付けをしていると後ろから声が掛けられた。
「青木君お疲れ様、ゲームの話もしたいんだけど昼食とりながらどうかな?」
横を見ると坂田さんと高杉さんも何やらうずうずしている。確かにこれはゲームの話をしたいんだってことが一目瞭然だ。ただ…
「3人とも自分の容姿をちょっとは気にして?俺が混ざったら面倒な事になりそうだから…って全員そんな顔するなよ!…はぁ、分かった。俺が先に席座っとくから偶然合流したって感じにしてくれ。」
断ろうとしたらこの世の絶望みたいな顔されたら仕方ないよな…
「直哉君、ありがとね?」
高杉さんが申し訳なさそうにしていたが手を振って問題ない事を伝え、俺は講義室から出て学食へ向かった。
学食に着き、辺りを見渡すと出遅れたにもかかわらずそれなりに席が空いているようなので俺はまず飯を注文することにした。そろそろ夏が近づいてきたしさっぱりしたものを食べたいので釜玉うどんと、それだけでは足らないので唐揚げの食券を買って列に並んだ。
丁度よく学食の端っこに4人用のテーブルが空いていたのでそこへ座る。まぁ…他にも席が空いているので相席するのはおかしいがこればかりは仕方ない。
「青木君、ここ座っても良いかな…?」
オドオドした様子で飯塚さんが聞いてきたが、周りが空いている状態なので可笑しくてクスクスと笑ってしまった。
「わ、笑わないでよ…私だって可笑しな状況って分かっているんだから…」
「とりあえず、目立つから座ったらどうだ?」
そう促すと3人は席へ着いた。周りを見てみるが3人を気にする様子がない。本人達も見られる事が分かっているのか目立たないようにある程度動いてくれるので助かる。
「食べながらになってしまうが大丈夫か?聞いてもらい事がある感じがしたんだが何かあったか?」
「そうなの!かみ転ほんと楽しいわね!皆から聞いていたから楽しいのは分かっていたんだけど実際にやるとリアルだけど身体能力は種族に反映されているから飛び回っちゃったわ!」
おぉ…坂田さんがすっごく良い顔してる。元からゲーマーだし体を動かす事が好きみたいだから獣人族は合うんだろうな。スキルを覚える特性を考えるなら性格と嵌っているってことだろうな。
「それでね、昨日だけでかなりスキルを覚えたわ!【気配察知】、【短剣術】、【跳躍】よ!」
「久実、凄いね!ソロでもPTでも使えるものだね!」
「でしょでしょ!青木君の言ったことを意識して行動してたらすんなりと覚えられたし熟練度も1になったから私に合っているってことよね?頑張って育ててみるわ!」
「私は【調合】、【植物知識】、【格闘術】と【採取】ね。直哉君に教わったことがきちんと身につけられて良かった。」
「皆順調でいいなぁ…私も青木君からもっと早く教えてもらってれば…」
「いやいや奈央、青木君最初に注意していたと思うよ?掲示板を当てにしすぎるなーって。」
「えぇぇ!?うぅ…私のバカ…楽しすぎて固執しちゃったみたいだね…。」
皆順調にスタート出来ているみたいでよかった。というか、あまり冒険していない俺より皆のが凄いんじゃないか?
「青木君、自分は大したことしていないって顔しているね?私達が順調なのは全部青木君からコツを聞いたからなんだよ!ほんとありがとね!」
「うん、私も普通に遊んでたら無理だと思う調合を育てられる環境を整えてもらったし、メンターとして色々と教えてもらって助かっているよ?」
そう言ってもらえると助かる。自分では最初の街でのんびりと採取して過ごしているだけだからどうしても凄いって感じられないし。
「そっか。皆順調にスタートが切れたみたいでよかった。」
「うんうん、私達は昨日どんな事していたのか話していたんだけど青木君はゲーム内でどう過ごしていたの?」
「私は2拠点目で自分に合ったスキルを鍛え直したの。やっとLv2になってすっごく世界が変わったって感じたの。」
ほうほう…飯塚さんもとうとうスキルレベルが育った恩恵を感じられたのか。
「私は紹介してもらった薬師を訪ねて、弟子入りする前に必要になりそうな知識を教えてもらった。ちなみに薬師はおばあちゃんだったよ。」
いや、薬師さんの性別は特に気にしていないんだがなぜ安心してね、みたいな表情でこちらを見て来るんだ…小さい子がこんな表情したら頭撫でたくなるよね。流石にしないけど。そして君は何をしていたのって3人から見られている。
「あー…俺は魔法の出力に問題があるみたいで、それを解決するために魔道具作成の基礎を教えてもらった後に採取へ行って、第2陣らしき2人組が立ち往生していたから街まで送りに行ったかな。なんか詐欺が流行ってるらしいから皆気をつけろよ?」
何をしていたのか言っただけなのだが3人とも固まってしまっている。あれ?何かおかしい所でもあったか?