第43話
あの後ナイフで刻印通りに彫る練習をしたのだが途中で曲がったりはみ出したりしてしまい、魔道具として機能することはなかった。ハルからはナイフ使いが見ててハラハラしすぎて心臓に悪いと言われ、心配をかけてしまった。
日常的にナイフを使うことってないからな…こればかりは仕方ないのかもしれん。俺が魔道具を作るのは彫刻刀が普及されてからのが安全というのが分かり、まずはハルから渡された本を読んで知識を深める事にする。
ちなみにハルは俺が本を読む段階になったら用事があると言って去って行った。
「へぇ…使用頻度が高い刻印が最初にまとめられているのか。魔道具の肝となっている部分は魔石と刻印で、耐久性や印字の刻みやすさが値段に影響を与えると…」
木材なら刻みやすいが耐久面で心配になり、金属なら耐久面では問題ないが刻む難易度が跳ね上がるし重量を考えると浮くか重力を減らす刻印を追加する必要があるってことか。
魔石を剥き出しにするわけにもいかないということは充電する場合は間に素材が入るわけだから、魔力の伝導率も関わってくるよな。そうなると魔力が高いほど伝導率が低くても苦も無く充電することが出来ると…まぁ攻撃系で使うなら伝導率や魔力の収束率も重要になると書いてある。
読み進めると収束率は素材の割合が大きいが、刻印の効率でロスを減らす感じなんだなぁ…無駄をいかに省けるかって所だな。ハルが最初の導入をしていなかったら投げ出してもおかしくない難しさだ…
俺は息抜きも兼ねて採取と伐採をしに森へ向かった。
採取と伐採を済ませたのだが第2陣がゲームを始めているはずなんだが採取をする人が皆無なのはなぜなのだろうか…敵と戦わずに金策も出来るし依頼も達成できるのにな。
「ね、ねぇこれってホントに次の拠点にいけるの!?もう何度も死に戻りしているのよ!」
「行けるから試験にしてるんだろ!入り組んだ道を通らねぇんだし敵に会わなきゃいけるってことだろ。」
「そう言って何度も敵と会ってるし、同じ試験受けている人達も次々やられて武器もなく歩いているじゃない!」
街へ向かう道中で何やら言い合っているケンタウロスの男とスライムの女性のペアを見かけた。聞こえてきた内容から察すると試験で次の拠点へ向かう、支給された装備がなくなったという感じか?とりあえず声をかけてみたほうがよさそうだ。大声で敵が寄ってくる可能性もあるし。
「大声だしてどうしたんだ?あまり声を荒げると狼が寄ってくるぞ。」
そう声をかけるとハッとしたのか口に手を当てこちらへ顔を向けた。
「ご、ごめんなさい…あ、あの!拠点までの道ってこの地図で正しいのでしょうか?試験官が言うには敵はほぼ出ないって言っていたのに頻度が多いので間違っているのかと思って。」
差し出された地図を見ると、確かに次の拠点までの街道が示されていた。しかし、第2陣が来たことで第1陣は街道でのエンカウント率は下がるが第2陣は変わらないと表記があったような…?
「試験官が何をしたいのか分からないけど…地図は合ってる。でも敵がほぼ出ないって言うのは嘘。第1陣だったら第2陣のリソースを減らさないためにその通りなんだけど、第2陣は普通に敵が出て来るよ。」
「え!?マジっすか!?クソ!やっぱあの試験官怪しいと思ったんだよな!」
「いやいや…大手なんだし信用出来るって言ったのあんたでしょ…」
「2人は知り合いなのか?」
「いんや、チュートリアルから同じように行動していたから一緒にいるだけだ!」
「それであんたに巻き込まれてこんなひどい目に合っているんだけどね…やっぱついて行く人間違えたかなぁ…」
「死にゲーって言われているんだから人数が多いほうが有利だろ?基本的にどのゲームもさー。」
あぁ、この男は所謂ゲーマーで、女性はそれに付いて行動していたってことか。
「第2陣だとしっかり装備を整えないと拠点にたどり着くのは難しいぞ?一旦街へ戻ったほうがいい。俺も丁度戻るところだし一緒にいくか?」
「あ、お願いしても良いですか…?流石に装備がない状態なので立ち往生していたところです。いくら痛くないといっても死の恐怖を味わいたくないですし。」
「すんません…お願いします。…てかこの人大丈夫なのか?敵出るのに武器すら持ってないじゃん、服も土で汚れてるしよ。」
「武器なんてかばんに入れておけば平気でしょ。常に持っている方が行動制限されるんじゃないの?服のことを持ちだしたら私達の方が酷い有様でしょうが。」
ヒソヒソと何か話しているけど全部聞こえてるからな?2人の服は初期装備の麻の服なのだが耐久が下がっているのか所々ほつれたり汚れたりしている。
俺達は連れ立って街へ向かっているのだが、気になったことがあり聞いてみた。
「ケンタウロスって初めて見たんだが人を乗せて走れるのか?スライムも初めてなんだよな…」
「なんか積載量って表示があるぞ!多分運ぶスキルかなにか育てば重い物を運べると思う!ちなみにこいつは重くて運ぶことが出来んかった。」
「あんたのスキルレベルが低いからでしょ!私が重いわけじゃないわ!」
女性の言葉が聞こえないかのように男性はしゃべり続けた。
「一応初期スキルで【疾走】ってのがあったから、これも育てないと速く走れないって感じ。」
人型の場合とは名称が違う気がする…種族スキルって感じだろうか?
「私の種族には【流動】や【成形】というのが初期にあるわ。多分これがないと動けなかったり人型になれなかったりするんじゃないかしら?」
第2陣は種族固有スキルみたいなのが最初からあるのかぁ。最低限、育てる方向性を運営が指示しているって感じなのか?
「人を乗せるにも馬具が必要だし装備はオーダーメイドだろうから大変そうだな…スライムは…興味本位ですまんが、その体って手とか貫通するのか?」
男性は金かかるのかよー!と叫んで凹んでしまった。
「んっと、試してみます?」
いやいや!胸元を拡げなくていいから。腕の部分とかで試させてほしいだけだから。もし貫通するようなら胸元とか突っ込むの見た目的にもやばいって…
「ずり!俺には試させてくれなかったのに!」
「あんたはなんか余計な事しそうだからよ、この人なら安全そうな雰囲気するし。って何笑ってるんですかぁ!」
やり取りを見てて笑っていたのがばれてしまった。
「いや、2人の掛け合いが面白くてね、良いコンビになるんじゃないかなって思ったんだ。」
「ええぇ…こんな奴と?それより試してみてくださいよ!」
俺は女性に促されたので腕の所を触らせてもらったのだが、ひんやりとゼリーのような感触がしただけで貫通することはなかった。
「スキルで成型してるからなのか貫通はしないみたいなの。アメーバというか基本の状態だと貫通しちゃうみたい。」
なるほど、よく出来ているな。
「そうなのか、興味本位だったんだが試させてくれてありがとう。っとほら、門が見えて来たぞ。」
話している間に街の傍まで歩いてきていたようだ。こういうのが時間が経つのが早いって感じる部分だよなぁ。楽しい時間というか…
「うおぉぉぉ!戻ってこれた!ありがとうございます!」
「ほんと助かりました…ところでお互い自己紹介すらしていませんでしたね。」
「おいおい!そもそも俺もお前の名前しらねぇって!」
「私はリーナ。分かるように第2陣から始めたわ。魔族を選んだのは違う自分に慣れると思ったから。」
「っち。俺はジョス!選んだ理由は他のとこ行っても人が溢れかえってめんどそうだったから!」
「そう言う割に大きいクラン入ろうとしたわよね…?」
「後ろ盾ってのはあったほうが何かと特だと思ったんだよ!」
「なるほど…俺はナオヤ、第1陣だけどのんびり過ごすという目的の為に始めたから戦闘系はからっきりだ。ちなみに、第2陣の支度金でも武器以外にちゃんと装備整えられるはずだぞ?多分金を毟るために武器だけ渡したんだと思う。」
「やっぱり!自分達で準備を整えようとしたら狼狽えていたわけよ!あぁぁ!一番最初にナオヤさんに会っていればよかった…」
まぁそこは一期一会というか、運なんだろうな。ジョスも悪い奴じゃないと思うぞ?
こうして俺達は街へ無事帰還を果たしたのだった。