第40話
俺とサイは混雑し始めた食堂で空いている席を見つけ、店員さんに声を掛けた。
「今日はがっつり肉料理を。それと女性に人気の品とデザートがあればお願いしたい。」
注文を受けた店員さんはスカートを翻し厨房へ入って行ったのだが、その様子を見ていたサイは驚いていた。
「ん、どうした?」
「え、そんな注文の仕方でいいの?」
「メニュー表があるわけじゃないからな。一度食べてみて美味しい物が見つかったら何か聞いてみたらいいぞ?それに、店員さんは客の様子をしっかり見てくれているから外れはないと思うぞ。」
「NPC…じゃない、こっちの住民って凄いんだね。普通の人じゃ居酒屋でバイトも難しそう…」
「そりゃそうだろうな。ギルドに併設されている食堂だし酒も出すんだから腕っぷしもなけりゃ難しいだろうな。多分、元探索者や現役の人が担当しているんじゃないか?」
俺がサイの問に答えるとやっぱそうなんだと小さく呟いた。この世界は一芸に秀でている方が職につける傾向がある気がする。ま、それは現実もだけどな…
注文した食事が届き、俺達はその料理を舌鼓しながら食べている。
「ゲーム画面でしか見たことがない料理の盛り方。ボリュームがあるのに油っぽさを感じない味付け。それにデザートにシンプルながらまろやかなパフェ…お任せでここまで好みに合うのすごい。」
「だろ?料金を掲示すればその中でお勧めの品を出してくれるから金欠の時でも問題ないぞ。あと、好みに合ったのなら店員さんに後でお礼を言うのを忘れないようにな。それがいい人間関係の構築につながるぞ。」
「ん、そうする。ナオヤ君、今日は案内ありがとう。」
「気にするな。メンターとして当然の事ばかりだから。あと、飯塚さんみたいに寝不足になるまでやりこむなよ?っておい!なんで目を泳がせているんだ。」
楽しみにしていたゲームがやっと出来たのだから遅くまでやりたいんだろうが…現実世界の生活に支障が出るようじゃ本末転倒だぞ…?
まぁ、そこは言ったとしても自分で気づくか友達に心配されてからじゃないと伝わらないだろうから、今言ってもダメだな。
「い、一応気を付ける。でも早くナオヤ君に追いつきたいってのもあるし…」
「俺もそこまでスキルが育っているわけじゃないぞ?というか一番出遅れているはず…ていうか、サイだと学び舎へ入学してからが本番じゃないか?それまでは素材を採取して弟子入りした時にスムーズに行くようにとか?」
「あ…そうだった…夜は、採取…無理だね。いくら身体能力が高くても不意打ちされたら危険だし、学び舎が終わってからにするね。」
「そのほうがいいぞ。っと忘れていた、初期費用として本の代金も渡しとく。それを読んでいれば時間も潰せるだろうしスキルも育てられるんじゃないか?今から向かっても本屋は空いているからな。」
本屋までの地図をサイに渡し、俺達はそれぞれの宿屋へ向かった。
今日一日サイに付き合っていたが、初心に戻った気がして結構楽しかったな。だが、初心者っぽいのを見かけたのは街道ですれ違った一団だけだったのだが…クランへ勧誘して次の拠点へ連れて行ったのか?分不相応だと苦労するだろうに…これがパワーレベリングってやつなのかもしれん。
俺は宿屋のベッドで横になりながらこれからどう活動していくかについて考えている。
「サイは俺のサポートをしてくれるって言うが、今日の戦闘を見る限り俺がおんぶに抱っこされそうなんだよな…採取や昼寝場所を探す俺の活動に付き合わせるのも悪い感じがするし…どうしたものか…」
俺と一緒じゃなくもっとこの世界を楽しんでもらいたいんだが、サイがそう決めたのならこちらから言うのは野暮ってもんだよなぁ…楽しみ方は人それぞれだし、合わなければ個人の時間が増えていくんじゃないかね。ゲーマーだって話ならゆっくり進行に耐えられないと思うし…
スキルを意識して育てる必要も出て来るんかね?自分にあった傾向なら自然と上がる気がするんだがそれ以外となると技能が必要な依頼を受けて積極的に上げなきゃいけないだろうな…
俺は自分のステータスを見ながら考えていた。
プレイヤー名:ナオヤ
スキル:【気配察知】Lv3 【隠蔽】Lv3 【膝枕】Lv5 【昼寝】Lv5
【採取】Lv4 【解体】Lv3 【槍術】Lv2 【投擲】Lv1
【魔力回復】☆ 【身体強化】☆ 【魔力探査】Lv2 【木工】Lv1
【伐採】Lv1
こう見ると攻撃用のスキルが上がっていなくて気配に関するものが多い。採取系で考えると釣りも欲しい所だし…だが釣った魚は料理しないともったいないよな?この街の依頼で魚採取は見かけないからもっと奥に行く必要があるか…
攻撃力のなさはやはり膝枕と昼寝の重ねがけが必須となると討伐系は複数人いないと厳しい。あとは投擲をもうちょいあげられたら相乗効果で結構なダメージを与えられるし、安全性が増すから意識してみるか。
身体強化の恩恵がもうちょいあれば…ない物ねだりするよりはどうするか考えたほうがいいか。魔力は出力が低いが無くなる事がないから魔道具を入手すればいいんだよな。というか、元々魔法を覚えたらしたい事の中で魔道具作成があったはず。
お金に余裕が出来たんだし魔道具作成の本を買うのと学び舎の専攻にもあったような?ま、まぁ本を買って分からなかったら一度ハルに相談するのが正しいのだろう。
またハルに…か。ハルに頼りっきりなのも問題なんだけど、あいつは嬉々として手伝ってくれる気がするからこちらが申し訳なくなってしまう。
俺はサイと活動した場合の事を考えながらこの日はログアウトした。
かみ転魔族総合掲示板
151:転生せし魔族
どこも新情報は種族関係ない掲示板に流していないな
152:転生せし魔族
出し抜きたいとこが多いんだろ?
153:転生せし魔族
それに比べ魔族は相変わらずの過疎っぷり…
154:転生せし魔族
い、一応新人っぽいのは見かけたよ!全員騎士団についてったけど
155:転生せし魔族
外の情報に踊らされている奴らってことか
いま実権握ってるのはサブマスだろ?
156:転生せし魔族
なまじ知名度があるからついて行くんだろうな。マスターは実動員って感じだから状況把握してなさそう
157:転生せし魔族
そもそも今日ログイン出来た奴って紹介された奴らだろ?確かメンターシステムで一緒に行動したほうがお得ってやつ
158:転生せし魔族
招待した側には恩恵なかったぞ。逆に招待したやつの装備整える必要があってきつい
159:転生せし魔族
支度金が減らされてるんだっけか。まぁ初期組のトライ&エラーよりきつくはないし、情報もある程度出ているんだから第2陣はそうなってもおかしくないな
160:転生せし魔族
俺、招待しようとしたら「魔族?ありえんわ」って断られた…
161:転生せし魔族
泣くな!俺だってそうだぞ!
162:転生せし魔族
一番最初に防衛クリアしているのにこれだもんな…魔族のなかの更に種族がランダムなのが問題なのがな…
163:転生せし魔族
ファンタジー世界なのにゲーム内のNPCと見た目が違いすぎるのもリアルじゃないし没頭できんから俺はありと思ってる!
164:転生せし魔族
メンターの俺を無視して騎士団に入ってく招待者はどうすればいいでしょうか…
165:転生せし魔族
諦めろ…てかあいつら掲示板にこないし情報をため込んでそうだよな
166:転生せし魔族
そういや討伐任務の帰りにボロボロの新人集団を見たがあれはなんだったのだろうか
167:転生せし魔族
それ騎士団が入団テストとかいって次の拠点までの地図配ってたどり着かせるやつ
168:転生せし魔族
ちなみに装備は武器屋で一番安い剣を支度金で買わせてた
169:転生せし魔族
え?それ割高じゃない?いくら支度金を減らされたからと言って武器以外にも買う余裕あるよね?
170:転生せし魔族
差額をせしめてるんだよ
171:転生せし魔族
うわー…やっばいね
明日から抽選当たった人も来るし被害者が増えなきゃいいけど
172:転生せし魔族
ま、被害にあった奴らが同じような手口で巻き上げる可能性もあるよな
173:転生せし魔族
人数少なくてもこれだけ問題があるから人族なんてやばそうだねぇ…