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第38話

 しばらくの間、女性?2人でひそひそ話していたので俺は疎外感を感じながらベンチに座りぼーっとしていた。初めてこちらの世界で出来た友人が違う人と仲良くしているのを見ると少し寂しく感じてしまうが、サイにもこちらの世界で話せる相手が出来るのは喜ばしい事と思うことにしよう。


 急にハルがこちらを向き、近づいてきた。


「ナオヤ、今度は2人で出掛けよう?探索でもいいしのんびりするのもいいし。」


 なんとなく心情を察せられたみたいで恥ずかしい…が、こういう気遣いが出来るから皆から慕われているんだろうな。


「それじゃ僕は用事があるからこれで失礼するね!サイちゃん、この世界を楽しんでねー!」


 走りながらそう言い残し、ハルは去って行った。


「相変わらず忙しないな、だが堅苦しくなくて話しやすい相手だろ?」


「う、うん。ビックリしたけど仲良くなれそう。学び舎の紹介状と弟子入りさせてくれそうな薬師の店教えてもらえたし。それに…」


「あいつの交友関係どうなってるんだか…」


「ナオヤ君も知らないの?」


「良いとこのお嬢さんっぽいとは思う。お付きのメイドさんも見たことあるし。でも行動だけ見ると子どもなんだがなぁ…」


 そう言うとサイはくすりと笑い、そうだねと相槌を打った。


「とりあえずあとは試行錯誤してくれたら大丈夫だと思う。探索で分からない事があったらギルドの受付に聞けば大体答えてくれるしな。信用度が上がれば資料室も使えるようになるぞ。」


「資料室…それって結構重要なんじゃ…それも聞いたことがない。」


「そうなのか?人族なんて人数が多いから変わった行動をしている奴がいてもおかしくないんだが…」


「うん。それより獣人族のがNPC…じゃなくこの世界の人達と交流を持っているから色んな情報を知っていると思う。」


「なるほどな。あと俺に教えられそうな事はないんだよな…街の外に行って採取でもするか?」


 俺が提案するまでは悲しそうな表情をしていたのに誘ってみると笑顔に変わった。女性って表情ころころ変わってその変化を見ているだけでも楽しいな。


 

 俺達は門をくぐり抜け街の外へ出たのだが、サイは緊張した様子をしていて初々しい姿をしていた。


「そんな緊張しなくて大丈夫だぞ?街から近い所は治安がいいからな。まぁ横道にそれたり街から離れたりしたら魔物が出て来るから注意な?俺もこの間、護衛任務を受けたんだが緊張感を持ちすぎるのもダメだと言われたぞ。」


「そ、そうなの?」


「ああ。いざというときに筋肉が硬直するというのもあったり人相手だったらその緊張が伝わってなにか重要なものを護衛しているのではって思われるからいい事がない。」


「そうなんだ…たしかにスポーツでも適度な緊張感をって言われるのはそれかも。なんでも過度にやるのはダメって事ね。」


「そんな感じで良いと思うぞ。とりあえず俺は槍を出しとくか。ちなみにこの辺りで出て来る敵は狼がほとんどで、鉱山の中は前まで大きいコウモリがいたが討伐されているから安全かな。」


「私は爪でやってみる。…流石に欠けないよね?強度がいまいちわからない。」


 それは俺もわからん…物語の中でよく爪や牙での攻撃はあるんだが、どうなっているんだか。


「採取できる群生地はもっと真っすぐ行ってから左に曲がるんだが、ちょっと試しに突っ切ってみるか。街道はエンカウント率が低いし。」


「お願いする。でも大丈夫?私はやられても失うアイテムはまだ少ないけど…」


「俺もそこまでアイテムを増やしているわけじゃないぞ?店売りのアイテムばかりだし、お金も宿に預けられるからそこまでデスペナが痛いわけじゃない。」


「え?アイテム預けられるの?…そっか、みんな宿を使わないからか。」


「しかも宿屋の主に借りないといけないからな。部屋にそのまま置いておくのも危険だから。」


「それは…コミュ力が必要ね…」


 VRでフルダイブとなるとリアルでの力がどうしても必要なんだろう。こういうとき、人は一人では生きていけないんだなって感じる。



 

「サイ、ここからまっすぐ大体200m先に魔物が2体いるからそろそろ音に気をつけてな。」


 俺がそう言うとサイは小さく頷き中腰になり警戒をし始めた。


「ナオヤ君、索敵スキル?この距離で分かるなんて凄い。」


「複数の組み合わせ、かなぁ…俺も前まではこんなに遠くまで分からなかったから。でもこれは便利だな、ソロで活動するときでも不意打ちが防げそうだ。」


「私も出来るようになるかな?」


「サイの場合は種族的に匂いに敏感そう。索敵自体はフィールドワークしていたら苦労せず覚えられるんじゃないか?他だと気付かれにくくなるスキルとか。」


「うん、頑張る。」


 そうこう話している間に狼の姿が見えてきた。2体は仕留めた獲物を貪るように食べているようだ。


「これなら不意打ちできそうだな。サイ、俺が1匹仕留めるから横から回り込んで裏を取ってくれ。」


 サイは小さく頷き音を立てないように回り込み始めた。

 俺は前の防衛戦で使った槍に縄を結びつけ、投擲出来るように準備を進める。1匹仕留めたらこちらへ襲ってくるだろうから防御するために引き戻す必要があるからな。ソロの場合だったら罠を設置して足止めも良いんだが、今日はサイが居てくれるから時間を稼ぐだけで良い。


 サイが配置についたと連絡が入ったので俺は投擲モーションをとる。ちなみにスキルがないと狙いかあら外れやすいのでこういう正確性を求められる時の為に少しずつ上げていくべきだろう。威力や飛距離も上がるからな。


 俺が放った槍が上手く狼の横っ面にあたり、一撃で絶命させることが出来た。もう1匹が槍の飛んできた方向を見て俺の姿を確認すると草むらから勢いよく向かってきたが、すでに俺の手には引き戻した槍がある。

 敵の飛び掛かりを槍でいなし、後ろからサイが近寄ってくる姿を見られないよう位置取りを調整する。


 忍び寄ったサイが勢いよく跳躍し狼を引っ掻き、深手を負わせた。引っ掻くというより切り裂くとでも言える威力だな…素手なのに強いのは種族の特性を使った攻撃だからなのだろうか?


 深手を負った狼はサイの追撃から逃れる事ができず喉元に爪を突きたてられ、動かなくなった。

 息切れをしているサイに近寄り、俺は労う。


「現実では慣れちゃいけないような生々しい感触だろうが初戦闘おつかれさま。」


「こ、これ…他のゲームとは比べ物にならないリアルさ…確かに年齢制限しないと危ない…」


「だよな…俺は直接戦闘をせずに罠にかけて初戦闘を終えたが、初回からこうだとめいってしまうよなぁ。」


 俺は狼の遺体を1か所に集めた。


「ナオヤ君、魔物を倒した後ってどうするの?」


「自分で解体するかギルドに持っていって解体してもらうかのどっちかだな。この場で解体するときは風下に注意する必要があるのとグロいのでお勧めは出来んが納品の評価が高くなる。プレイヤーは住人達より容量の多いかばんだが時間が止まるわけじゃないからな。処理したものと後から処理するものでは鮮度が変わる。」


「血抜きが重要って言われるよね。」


「そそ、自分で解体しない場合でも血抜きだけは行ったほうが良い。氷系の魔法が使えるなら状態を保存することも出来るんだけどな。とりあえず今回は血抜きだけして進むか。」


 俺は手際良く首元を切り裂き穴を空けた地面の上で逆さに吊るした。こういう時、ポンプみたいに血を押し出せればいいんだけど…


 血が抜き終わったので穴を埋め、俺達は群生地へ向かって歩き始めた。 

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