第32話
突然ハルに言われて思考が停止してしまった…程なく再起動して、今日あったことを説明してみる。
「ふむふむ…僕のプレゼントした本を読んだ後に防衛拠点とここを往復してたのに疲れなくて戻ってきたと…んー、特におかしい所はないし僕が書いたことを実践しただけだよね…ちょっと調べさせてね?」
一言、ことわりを入れてから俺の体をペタペタ触り始める。ちいさな手が全身を這うように触られると擽ったいのと、ハルの見た目からいけない事をしているという背徳感がこみ上げてしまった。
そんな俺の気持ちに気づかず触っているハルは「…結構硬いんだね」とか「ドキドキしてきた…」など小さく呟くものだから意識してしまう。
「ナオヤ、深呼吸してー」
俺は言われた通りに深呼吸を繰り返す。
「吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー…うん、完全にマナを取り込んでいるね。魔人だからなのかな、適正が高くて外国人だから成長が早いのもあって自分自身ので生み出すオドよりマナを取り込むのが癖になったのかも?」
確かにランニングをするときって一定の呼吸法をするからそれも相まったのかもしれん…だが本によると普通はオドを使うんだよな?
「マナだとなにか不都合とかあるのか…?オドを使えるように矯正したほうがいい?」
俺がそう聞くとハルは首を振って否定した。
「マナを取り込めるなら常に供給されてある意味無限の魔力を持っている事になるんだ。ただし、通常はマナ1に対して取り込んで自分の魔力になるのは0.001で1000倍も違うんだよ。だから実感しにくいしマナを扱うのは難しくて、精霊や神など自然、信仰の対象が扱えるものなんだけど…出来ちゃってるね…しかも1:1で呼吸をしながら取り込んでいるんだ。…ナオヤって何者…?」
「いや…俺は外国から来て与えられた種族は魔人なんだけど…」
「そうだよね…こうまで珍しいとそれがナオヤのユニーク魔法…ううん魔法というより特性だよね。」
おぉ…もしやこれが俺つえぇぇって言われる要素なのか!?というかプレイヤー強すぎないか?
「ということは魔法が使い放題ってことなのか?強い魔法が使えるのはある意味楽しみだな。」
「えーっと…楽しみにしている所悪いんだけど…ナオヤは攻撃魔法、ううん魔法は使えないよ?」
「え?そうなのか?魔力は自然から取り入れて使い放題なんじゃ…」
「普通ならそうなんだけど、魔力は溜め込めるんだけど放出する出口が狭くて魔法を起動させる魔力に満たせないんだよね。時間をかけすぎると起動に失敗するからナオヤには無理…
あぁぁぁぁ!そんな落ち込まないで!ね!魔道具なら使う事が出来るから!あれは魔力を溜めてから放出するもので、ナオヤとは逆に魔力を満たしてあげないと使えないから!」
な、なるほどね…放出が苦手だけど魔道具を介することで補う事が出来るならまぁ…問題はないのかな?魔法に憧れはあったが、元々は魔道具のほうが気になっていたんだし。魔道具を作るために魔法の理解をーって感じだったからな。
「おぉ…とりあえず魔道具が使えるってのが分かって助かったよ…それにしても、魔力は湯水のごとくあるのに宝の持ち腐れになってしまうなぁ…」
「魔法は使えないけど身体強化は出来るよ?と言っても倍率はそこまで上がらないけど…往復していた時にスピードが上がった感触はあった?」
そういえば…全力で走って疲れるようにしていたけど、スピードは変わっていなかった…その代わりに疲れを感じなくなっていた。
「…そうだな、疲れなくなっていただけでスピードは大して変わっていないと思う。とすると力もそこまで変化ないんだろうな…」
「そう、マナを常に取り入れているのに破裂しないのはそこが理由だよ。これだけマナを取り入れていたら普通は体が壊れちゃうもん。多すぎてもダメ、少なすぎてもダメ、ナオヤはそのバランスが常に一定だからきちんとした身体強化をしても普段とほぼ変わらなくなっちゃうの。まぁ…疲れない体になったし活動範囲を広げられるってことだけど。」
「なぁハル、もしオドをしっかり使う事ができれば常に一定の魔力にプラスされるのか?」
「んー…ナオヤは常にマナを取り入れているわけだからオドがすっごく認識し辛いと思う…ただ、訓練するのは無駄じゃないよ。マナやオドの暴発を防ぐ意味でも認識は必要だし、敵対者の力量も見抜けたり、隠れている敵を発見することにも使えるからね!」
「マナは自然の魔力でそのなかに異物があれば分かるって認識で良いのか…?」
「そうそう!普通だったら自分の魔力を拡散させて他の魔力を探知するんだけど、ナオヤはマナを自発的に認識することが出来れば異物が分かるようになるよ!慣れてくれば探知距離が伸びるかもね!まぁ魔力がない魔物とか隠蔽の仕方もあるけど逆に空白空間になるから分かるんだよね。」
魔法って奥が深いんだな…ハルが居てくれるから本だけでは分からない事を知れて知識が深まっている。前情報として知り、実践し、問題点の洗い出しを行う。これってどんなことにも応用できるし知識だけついても生かすことが出来ないだろう。この辺りは現実の勉強でもそうだよな。
今までなんとなく大学に来てやりたいことを探していたんだが、こうやってゲームに触れてみて面白さがわかり、ストーリー性やバランスの重要性を考えるとやりがいがありそうだ。ちょいと真面目にこの方向で考えるのもありだな…まだまだゲームに詳しくないからプレイしながら学んでいき、世界観を知って行こう。
「あはは、ナオヤすっごく良い顔するようになったね!カッコいいよ!」
「あぁ、今まで流されてきたんだがやりたいことが見つかると急に目の前が開けて見えるんだな。」
「うんうん、でもしっかりと足場を固めていかないとコケちゃうから気を付けるんだよ!とりあえず、体は疲れていないけど精神的な疲労は感じるだろうからしっかり休もう?ほら!こっちおいで!」
そう言い、ハルはベッドに座り太ももをポンポンと叩いた。相変わらずこの状況は慣れず照れ臭いのだが、ハルがスキルのレベル上げ以外にこちらを気遣ってくれている気持ちが伝わってくるので嬉しく思ってしまう。俺はハルの太ももに頭を預け楽な姿勢を取り目を瞑る。
「ほんと、ナオヤは僕の予想を超えるほど成長していくね…しかもその成長の元となったのが僕のプレゼントした本だなんて嬉しいよ。今日は色々とあったんだししっかり休んでね…」
頭を撫でながら話すハルの声が段々遠くなり、俺はログアウト時間を設定し直してから眠りについた。