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第29話

 戦闘開始からすでに20分が経とうとしているが、未だに敵の勢いは衰えが見えない。出て来る敵は猪から変わっていないのは救いだが終わりの見えない戦いほど辛いものはないだろう…


「それにしても…素材が十分にあるからこれだけ矢を撃ち続けられるが事前準備が不十分だったら耐えられないよな?」


 俺は隣で指揮しているグルに問いかけた。


「だな。外国人の死に戻りがこっち側の襲撃に気づいて前線張ってくれてるおかげで消耗も抑えられてるからな。こんだけ短時間で連絡を取り合って連携させるのもすげえ。」


 確かプレイヤーの総指揮はディンだったっけ、流石ガチプレイヤーだな。色んなゲームをやってきていればギルド指揮やレイド単位での指示出しに慣れて来るんかね?



 俺は考えながら時たま抜けて来る猪目掛けて槍を投げつける。先ほどスキルを見たらすでにLv1になっていたので威力が上昇したのか頭から尻まで貫通してしまい、槍を回収するのが面倒になったんだが…かばんの収納範囲は自身の届く所なので縄で繋がっている槍と貫通した魔物も対象となり、死体を回収することで戦場に空白地帯を作ることが出来るようになった。


「相変わらずすげぇ威力だな?最初と見違える威力だぜ…スキルのレベルでも上がったのか?」


「あぁ、投擲スキルを覚えて槍スキルもLvが上がっていたよ。これが相乗効果ってやつなのか?」


「さすが外国人は成長が早いな…そうだ、今回のは単体×単体スキルでの効果だが複合スキルってのもある。

 例えば騎乗槍とかな。人族では一般的なスキルらしいが複合スキルは成長しにくいって話だ。育っちまえば強いんだが…それまではお荷物だから後ろからちまちま攻撃するらしいぞ?」


 NPCにもそんな事情があるのか…確かにプレイヤーみたいに成長が早くないとそれだけ他の人に負担かけてしまうし、経験値を吸わせるだけの状態だから仲が良くないと途中で険悪になるよな…それこそ追放物語の状態となり、複合スキルが育ってから立場が逆転するってことだし…


「そちらの育成事情も結構泥臭いんだな…険悪状態だったら裏切られる可能性もあるじゃないか。

 そういやこのあたりの魔物で荷台を運んできた骨格みたいにネクロマンサーはいないよな?これだけの血と死体が転がっていると儀式に使われてもおかしくないような…」


 俺が心配していたことをグルに聞いてみたが笑い飛ばされてしまった。


「ハハハ!お前は童話や本の読みすぎだ!魔族だからって死霊術が使えると思わないほうがいいぞ!それが出来るのは人族のが圧倒的に多い。妬み、辛みをため込み相手を陥れる気持ちが強い種族だからこそ適正が生まれるのだ。

 魔物に関してもそうだ。これだけの猪が来ているが、それを捨て駒の様に使い、召喚を行うなんて非効率的だぞ?死霊が混ざった混成隊だったら分からんかったがな。」


 意外だな…魔族より人族のがネクロマンサーの適正が高いとは…いや、確かに現実で考えたらその通りなのかもしれんが…僧侶が闇落ちしたのがネクロマンサーって感じがするしな。


「なら問題ないか。とりあえず抜けてきた魔物は回収していくが、その辺に転がっているのはどうする?結構な時間放置しているから肉も鮮度が悪くなっているだろ?」


「そうだな…ナオヤって解体出来るのか?出来るのか、それなら新鮮な死体運びに4人、解体出来る奴ら4人付けるから壁の外側で頼む。領地が広がるってことは人が増える可能性が出て来るから食糧難に備える必要があるだろ?出来るだけ解体数を増やしてくれ。」


 グルはすぐに近くの奴らへ指示を飛ばし、俺は集まった人らと一緒に壁の外へ出た。


「あ、魔物が抜けそうな時は教えてくれ!槍をすぐ投げれる状態にしとくから。」


 そう言い、俺は採取を応用して地面に穴をあけ、かばんにしまわれていた猪を取り出し血抜きを開始した。これをしないと肉に臭みが残ってしまうからな…解体メンバーはそれぞれ穴を空けその中に血を流し入れ始めた。

 ちなみに俺は一番外側である。魔物が抜けてきたとき、射線上に味方がいないようにするためだ。解体を進めながらグルが大声で知らせた時に槍を投擲する作業を続けていると魔物とプレイヤーがこの地帯から消えていた。



「もう大丈夫だ!全員で死体を回収し解体を進めてくれ!ナオヤ、今まで解体した分をまとめて保存庫に行ってくれ!そこで干し肉にしたり魔法で肉を凍らせるから!」


「了解、ってまだ戦闘は続いているんじゃないか?あっちの方でずっと音が鳴り響いているんだが俺達は行かなくていいのか?」


 そう、まだ戦闘音は続いているのだが俺達のいる場所と正反対側のようだった。


「あー、外国人が一丸となって1体のサイクロプスを相手にしているみたいだな。敵が1体だけで統率のとれた外国人部隊の邪魔にしかならねぇだろうから他は壁の内側から様子見だ。崩れた時に足止めするくらいしか出来ねぇから、それならこっちで肉の処理をしていたほうが今後の役に立つだろ?」


 今後の事を見越した采配って凄いな。というかグルってお偉いさんじゃないの?一般の探索者にここまで指揮できるとは思えないし…とりあえず指示されたことを済ませないといけないな。

 

 俺は周りの解体者から素材を受け取り、保管庫へ向かった。道中、死に戻ったプレイヤーを数多く見かけたが絶望感は漂っておらず、すぐに支給品の武器を受け取って外へ向かっていく。また、死んだ時のアイテムを回収したのか支給品を返しにくるグループも見かけて中心部は結構混雑していた。

 それらを横目に見つつ保管庫に向かうと一人の悪魔型の女性がいた。肌は紫色に近く目が反転しているので金色の瞳が目立っている。衣装からして魔法使い…この場合は魔女という言葉が似合っていた。

 

「あら…外国人がこちらに来るなんて珍しいわね。何か用かしら?」


「あ、あぁグルに言われて解体した素材をまとめて持ってきた。痛む前に処理してくれって。」


「そう…それならこの陣の上に置いてちょうだい。」


 俺は2つある台の上に等分になるように置いたのだが片方は魔法陣が準備されていた。魔法を使うのに陣が必要なのか?詠唱や魔力の認識だけで出来ると思ったんだが…俺が疑問に思っているのが分かったのか魔女さんは答えてくれた。


「別に魔法を使うのに陣は必須ではないわよ?ただ、高度な操作が必要になる場合は事前に準備した陣を使うほうが楽なの。」


 高度な場合は事前に…陣ってプログラムみたいなものなのか。いくつもあるプロセスを魔力を通しただけで実行できるようにするって事なのかもしれない。となるとこれは魔道具と呼ばれるものなのだろう。



 魔女は左側(陣のない側)に載せた肉を一瞬にして凍らせた。…全然発動タイミングが分からないんだが魔法ってこういうものなのか…?確かにハルが転移?する時とか一瞬だったんだが…単に俺が魔力を感知することが出来ないから分からないだけ?


 次に右側の肉の作業へ取り掛かっていた。事前に準備していたのか液体を肉に振りかけてから魔力を籠めるような姿勢になった。匂いからして液体は調味料なのか?こちらは一瞬で作業が終わるわけではなく陣の上で肉が攪拌され調味液が浸透していくのが分かった。

 なるほど、もしや干し肉を作っているのかも?ただ、あれって2,3日かかる作業だったよな?それが陣の上で一気に調味液が浸透したり乾燥させてすぐに出来るって魔道具凄いな!魔道具ってほんと便利なんだなぁ…

 俺としてはこういう技術が戦いだけに使われていないことに感心していた。日常生活が豊かになる道具だからな。小型化が出来ればキャンプに持っていくことが出来るし夢が膨らむ。ここにあるものは設置系なのか動かすことが出来そうにないからな…


「魔法って凄いんだな…」


「あなたも練習すれば出来るようになるわよ?ただ単に今は知識がないだけ。ほら、次のを持ってらっしゃい。」


 この戦いが終わったらハルから渡された本を読んでみるか…そんなことを考えながら俺はグルの受け持つ地区へ戻っていくのであった。

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