第23話
ゲームにログインすると、いつものことながらハルが膝枕をしてくれていた。ここの宿の枕も質が悪いわけじゃないんだが、人肌のする膝枕のがやはり心地良く、何より安らげる。
俺はウトウトしているハルを起こさないように起き上がり布団をかけてようとしたら目を擦りながら起きてしまった。
「あ、ナオヤ来てたんだ!おはよう!」
「おはよう…意識ないときにいつもしてくれているのか?嬉しいんだが、負担になっていないか?ほら、ちょっと疲れた顔しているぞ?」
「あはは…バレちゃってるか。ただ、膝枕で疲れているわけじゃないよ!ちょっとやることが多くてね…ほら、領土を広げる準備もあるでしょ?」
確かにNPCというか住民からするとそれぞれ役割があって大変な時期か。
「あぁ、プレイヤーがボスを倒して野営地を作成出来るようにしたもんな。ハルがそれだけ疲れているってことは重職についているのか?いや、ないな…」
「えぇぇぇ!?僕、見た目こんなだけど大人だよ!ちゃんと仕事だってしてるんだよ!」
言動が子供っぽく、行動も似たり寄ったりだからな…メイドがいるってことは良いとこのお嬢様なのかなって考えてて、優雅に紅茶でも飲んでそう…いや、ありえんか…外に歩き回っているイメージだわ。
「まぁハルが何をしているか分からんが、しっかり休むんだぞ?俺の意識がないときは膝枕しなくていいからな?夜に宿屋にくるのは良いからメイドさんに了解を取っておいてくれ。」
「そうだね…反応があったほうが僕も嬉しいしそうするよ!それじゃ僕は家に戻るねー!」
そう言ってハルは部屋から出て行った。台風みたいな子だよなぁほんと。
俺は準備を済ませギルドへ向かった。まだ明け方だというのにギルドはかなり混雑していた。周りのプレイヤーが話ししている内容をまとめると昨日から特殊依頼が始まったようだ。依頼を達成することによってポイントが付与され、イベントのランキングに反映されるそうだ。
また、防衛当日の活躍も加味されるそうなのでスタートダッシュをかけるプレイヤーでギルド内は溢れかえっていると。
とりあえず、どんな依頼が出ているのか確認しようか。何々…採取系は木材、薬草、鉱石か。この辺りは順当だな。それと街道の警備と防衛地点の警戒・調査もあるのか。
他は当日の護衛任務と採取して加工した物の運搬ね…これと同時に人が一緒に動くなら受けておくのが良いな。
後回しにしている鉱石以外の採取系を受け、俺は一番最初に採取していた群生地に向かったが、採取している人は誰もいなかった。
依頼にも出ていたから流石に人がいるかと思ったんだが…小説では生産系に焦点を当てたものが増えているとはいえやっぱりゲームの花形は戦闘職なのかねぇ…まぁ、俺が読んでいるものがスローライフが多いから余計にあれ?って思うのかもしれん。
まずは依頼に出ている薬草をスキルを使い採取をする。スキルが育ったからか低確率で上級の薬草も入手できるようになった。採取する時に違いはないのに他のものが取れるのはやはりゲームならではと思った。
しかし、こうやってレア物が取れるようになるにはスキルを育てる必要があるということが分かり、改めてスキルの重要性を理解した。まぁ、納品するにはある程度束じゃなければ受付してくれないからかばんの中に入れっぱなしになるけどな…こういう時は薬師の所へ直接持っていくべきなのかも?
次の依頼は木材の調達なので、鉱山の入口付近の整備をすることにした。ここもプレイヤーは来ていないのだがNPC達が鉱山に入っていくのを見かけた。しかし、
木材を採取する者はいなかったので俺は当初の予定通り斧を取り出し伐採を開始した。
採取や伐採のスキルレベルが上がることによって採取・伐採速度の上昇、疲労度の低下、レア物の確率上昇の効果がある事が分かった。ちなみにこの木から採れるレアは樹脂が固まった琥珀で、初の宝石ゲットとなった。
いや、レアって1日で獲得できるようなものなのか…?大学の3人娘の話を聞く限り、廃人が粘って粘ってようやく入手するようなものだよな?なにか原因なのだろうか…とりあえずこれは加工するにしても納品するにしても細工師やギルドの受付嬢に話を聞いてみる必要があるな。
結構なNPCが鉱山に入っていくので、入口に休憩所というか、切った木材を斧で加工し長椅子を作っておいた。鉱山の中で休憩しているのかもしれんが暗くて見通しが悪いと不安感も出るだろうから、鉱石を運びだすついでに休憩出来ればなぁと。
3つ目を加工したあたりで木工を覚えた。初の生産スキルだ!今は毎回宿屋まで戻れる距離で活動しているが、そのうち移動距離が伸びて戻れなくなる可能性もあるので野営の練習もしなければいけない。セーフティーエリアが点々と続いているならいいんだけどな…
そもそも野営の道具まで準備するとなると新しいかばんが必要になるのだが、店売りのものでは容量が変わらないので生産じゃないとダメな気がする。裁縫でいいのか?俺にはそういうセンスに疎いから無理だな…
これで納品する物資は集まったので戻るかな。そう思い長椅子から腰を上げると…
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
鉱山の中から叫び声が響き、NPC達が鉱山から抜け出してきた。
「お、おい!あんたも逃げたほうが良いぞ!」
その中の一人が俺に向かって叫んだ。
「一体中で何があったんだ?」
「ナイトバットだ!魔物の巣に繋がっていたんだ!!」
ナイトバット…コウモリか!光の届かない暗闇を好む魔物で吸血することで病気を感染させるんだっけか。たしかにあの横穴は真っ暗で何が潜んでいるか分からなかったが…それと、光を差し込んだ存在に敵意を向けるとか…
「犠牲者は一人か!?それと、まだ中に人はいるのか!?」
「い、いやもう中にはいねぇがいつこっちに来るかわかんねぇ!それと、最初に襲われた奴はもう…」
とりあえず入口を封鎖する必要があるのか?思い出せ…ナイトバットの特徴を…
光に弱くはなく襲い掛かる、全長30cm、主な攻撃は吸血、怪音波…ってことはクモの巣みたいに塞げばいけるな!
「おい、ナイトバットは外まで来ると思うか?」
「い、いまは掘り当てた奴の血を吸っているだろうが終わったら向かってくると思う…」
そうか、ならまだ時間に余裕はあるな。
「なら外にナイトバットが出ないように塞ぐぞ!鉱石を掘るときツルハシの他にハンマー使うよな!?この矢を壁に打ち込んでロープを張って塞ぐぞ!」
そう言って数本買っておいた先端が鉄製になっている矢を先ほど覚えた木工を使い、テントを張るときに使うペグのようなものにした。これでロープを張って光に寄られてくるナイトバットを外に出さないように出来る。
俺が指示すると我に返ったのか鉱夫達は矢を壁に向かって打ち込んでくれた。その後に罠用に持っておいたロープをナイトバットが通れない隙間になるよう網目状に張る事に成功した。これで準備が出来た、さぁ来てみろ!