第19話
前回まで採取をしていた箇所まで進んできたが1度も敵に会わず順調に歩き続けている。集団で討伐に向かった人達が全て処理したんだろうか?一応、血痕や戦闘の跡っぽいものが残っていたので普段だったらここまででもそれなりに戦闘を行うのだろう。
ここから更に進んだ所が本日の採取地点なので、俺はかばんの中から槍を取り出しスキルが育っていないので気休めではあるが隠蔽スキルを意識しながら進むことにした。こういうのって意識することによって成長度が違うと思うんだが、実際はどうなんだろうか?パッシブスキルの膝枕や昼寝は意識せずとも成長するだろうが、解体や採取、隠蔽は流石に違うだろう。
そうそう、俺もゲームに慣れてきた考える余裕が出来てきたんだが、こういうゲームはPT毎に役割というものがあるらしいな。小規模でいえばPT内の盾、回復、火力。大きい視点で見るなら生産職、攻略組、その二つをつなぐ商売や情報屋。俺には何が向いているだろうか?
今の状況を考えると生産職なのか?しかし採ってきたものを加工しているわけではないからな…素材屋か?しかしそれではのんびりは出来ない、けどゲームの醍醐味である探索と両立することが出来る。とりあえず今回の採取を終えてから方針を決めよう。
その後、順調に群生地の採取が終わり近くの鉱山を見に来た。採取してても敵が現れないほど前のグループは先へ進んで行ったのか?そもそも、俺が敵として見たのは狼と猪なんだが、それ以外の敵ってなんだろう?魔族領の敵のイメージってアンデットや無機物だよな…そう考えると魔じゃない狼や猪って獣人族の所で出る気がしないか?エルフ族なら植物やエレメント系とか、人族ならゴブリンやオークとかそんなイメージを持っている。
しかし、そう考えると魔族ってどの敵も現れそうな気もするな…植物も魔に染まるとかさ。今のところ出てきていないってことはそのうちか?ただ、他の国でどんな敵が出ているか分からんが、種族で出そうなものが現れず、他の国で出そうなものが出るんじゃなかろうか?種族間対立を促進させるような…でもプレイヤーは対立するかもしれんがNPCは他種族と対立している感じはしないからゲームを進めさせるための処置なのかもしれない。対抗意識ってやつだな…
そんなゲームの裏事情を考えながら鉱山の入口を様子見している。少し暗いが道なりに明かりが付けられているので俺達プレイヤーが来るまで炭鉱夫が活動していたんだろうな。そもそも、採掘って当たりを付けるのはどうやるんだ…?鉱石って分かりやすく岩肌に出ているわけでもないだろうし…現実世界だったら爆薬である程度吹っ飛ばして採取とかなのか?奥に進めば岩肌にあるかもしれんが、それ以外だと探知系のスキルがないと難しいとか?水脈ならダウジングでも見つけられのかもしれんな。
慎重に進んで行くと分かれ道があった。片方は明かりが続いているので探索済みの可能性があり、もう片方は明かりが付いておらず急に内部が広くなっている様子だ。そのことから自然洞窟に当たったのだろうと考える。となると…この広くなった空間は探索がまだされておらず危険度も高いってことだろうな。そうすると俺が採掘するとしたら明かりのある側なんだが…探索されていない空間に入口側が塞がれるのは結構やばい気がする。うん、俺には難易度が高いな…
きちんと採掘をやるならば鉱石の箇所に当たりの付けられるスキル持ちに手伝ってもらうべきだ。そもそも俺一人が採掘をしても街全体に行き渡らんだろうから焼け石に水だ。ギルドも依頼を出しているのだろうが、そんなに採取系は人気がないのかね…
街に戻ると何やら盛り上がっていた。服装を見ると死に戻りをした様子だが、大勢いるってことは朝に集団で出掛けて行った人達のようだ。悲観的になっておらず、何やら興奮しているということはストーリーが進んだのか?
聞き耳を立てて様子を伺うことにした。
「くっそーもうちょいだったのに!」
「あそこが第一関門って感じだな。」
「あれを倒せばエリアチェンジってことで次の街があるのか?」
「いや、俺が聞いた話だと倒した後はタワーディフェンスになるとか。」
「なんだそれ?どっから情報だ?」
「聞いたというか、街はここだけって話だから倒したとしたら拠点を作るんじゃないかってこと。」
「なるほど…それで領土を広げていくってことか!」
代表者っぽい騎士風のデュラハンの男と剣を持った全身包帯のミイラ男、棍棒を持った鬼の女性が話していた。
なるほどなぁ…あの街道を進んだ先にボスがいて、倒すと拠点維持フェーズに突入ってことか。そうなると物資集めの依頼が増える、つまり鉱石や木材、回復薬が必要になってくるか。売り時を考えるなら需要が増えてきたときに放出すべきなんだろうが、すんなり拠点を建てるとなると事前にある程度あったほうが良いよな?まぁ…カウントされるのがボスを倒してからの可能性もあるけど。
こうなると俺がすべきことは裏方で良さそうだな。攻略組だとサボってると思われかねないし、商売をするとなるとNPCを雇うことが出来なかった場合が働きづめになってしまう。そうなると自分のペースで出来る素材採取が一番良い。それでも自衛のために戦闘力が必要になるが、街に引きこもるよりスキルが育てやすい環境になるよな。
そもそも一人で攻略は難しいし、だからといってハルに手伝ってもらうのも違うだろう。ゲームでの主役を考えると俺達プレイヤーが頑張らなければいけない事だよな。
そんなことを考えながら俺は採取品を納品するためにギルドへ入った。受付を見るとアーテルさんが珍しく居なかったのでラミアっ子のペルルさんの所へ並ぶ。
「薬草とメリッサの納品処理お願いします。」
「ナオヤさんいらっしゃい。これはまた…今日も大量ですね。」
俺は群生地や鉱山をマーキングした地図を取り出し、その地の情報を報告した。
「こことここの群生地は採取したから2,3日後じゃないと採取が出来ないと思うから情報共有をお願いします。あとは…鉱山って街の人は採掘に行かないのか?少し中に入ってみたが明かりの付いていない横穴があったぞ。一応覗いてみたが中は結構広い空間になっていたな。」
「群生地の件は共有しておきますね。鉱山にそんな横穴あったかしら…」
ペルルさんは棚から付箋がいっぱい張られた冊子を取り出し、ペラペラとめくり始めた。
「ん-…おかしいですね。あの鉱山は一本道のはずですが…これは確認が必要と思いますので迂闊に踏み込まないように周知しますね。」
やはり危険な横穴だったのか…行かなくて良かった。
「探索者が大勢で向かった先に境界があったみたいなので拠点を建てる準備も必要になるかもしれませんよ?横穴のことを探索者に言うとそちらを優先してしまうかもしれないので、ギルドで優先度を決めるといいかも。」
「そうですね…まずは領域を広げたほうが素材は増えそうですね…この辺りは上に掛け合って決めると思います。」
「了解、それじゃ俺は換金処理が終わるまで向こうで待ってるよ。」
「はい、ご報告ありがとうございました!」
俺は受付から抜け出し併設された酒場で飯を頼んだ。前回同様、具体的な料理名を言わなくても察してくれるあの店員さん凄すぎだろ…今回は脂身の少ない肉を細かくまぶしたサラダや付け合わせのスープ、摘まめる軟骨っぽい唐揚げが来た。この世界、料理の文化もしっかりしているよな、現実世界と変わらない調味料や調理法があるし。プレイヤー側が親しみやすいように作られたのかもしれん。
俺はじっくりと料理を食べ、清算所でお金を受け取り宿へ向かった。1日で結構物語が進んでいる気配を感じたから、次にログインする際は身の振り方をしっかりとすべきだな。そう考えながら俺はベッドへ横になった。