第16話
ふぁぁぁ…良く寝たな。昨日はハルとの話し合いで予定より少し遅れてログアウトしたわけだがそこまで影響は出ていないようで助かった。それにしても、魔法を覚えるとしたら講師をどうするかがやはりネックか。ハルが教えてくれると言ってくれたが、何でも頼りすぎるのはお互いのためにならないし、何より頑張ったところを見せたいという気持ちが強い。そりゃあ、独学では限界はあるだろうが…
学習するにあたって分からない所が分からない状態で勉強するより最低限の知識を身につけてからのが講師に聞きやすい。そのための下地を作るために絵本から入るのがいいよな…いきなり参考書として専門的なものを渡されても分からんだろうからな。
本の値段次第だが、もしハルが参考になる本を持っているようなら貸してもらえるか聞いてみるか…
あっ…
そう言えば、この間まで採取していた薬草の群生地は当分使えないか…っとなると少し奥に行く必要が出て来る。それなりのお金が溜まってきたから防具と回復薬、自衛用の武器を入手しておくべきか。
講義室に入ると机に突っ伏している飯塚さんが見えた。
「おはよ。」
俺が挨拶をすると
「あ、おはよう青木君。」
飯塚さんはのそのそと起き上がった。目元には隈がなくなっていたので友人に諭されたのかね。
「顔色見る感じ、今日は大丈夫そうだね。」
「さ、流石に私だって気を付けるよ!昨日怒られちゃったし…それに、人族は固定PTを作っていく雰囲気になってるからペースを合わせる必要があるからちゃんとログアウトするよ…」
なるほど、確かに気心の知れたPTだと連携が取りやすいし意思疎通もしやすくなる。ただ、それぞれ活動時間が違うだろうし人数が増えるほど動きづらくなると思う。突出するわけにもいかないし、一人だけ戦力が変わってしまったら妬みも出て来るだろうしな。
固定を組む上で必要なのはゲームの目的が同じ方向を向いている必要があると考えられる。のんびりしたい、敵と戦いたい、生産をしたい等それぞれ考えることが違うだろうし。戦闘系でもガチ勢と呼ばれる人達と戦闘を楽しみたい人でも差があるし難しい。
「PT組むのって大変そうだな…熱中していたらゲームの止め時を忘れてしまいそうだ。」
俺がPTの感想を言うと飯塚さんはそれは違うと答えた。
「ゲーム初めに固定PTもだけど、フレンドを作っておくのはどんなゲームでも重要になってくるよ!それこそ生産職との繋がりとか情報通の人とかね。後から固定PTに入ろうと思っても居心地が悪いだろうし。」
「そうなのか。人付き合いが苦手な俺にとってはゲームって難しいんだな…」
「オンラインゲームってコミュニティ能力が高い人ほど有利な点はあるよね。それ以外だと課金次第って感じだけど。そう言えば魔族スタートはどんな感じなの?」
「ん-…人族と変わらないんじゃないか?死に戻りした人が門前に多数いて、外出ていく奴らをPKするんじゃないかって目線送っているぞ。あとは…ギルドに併設されている食事処で食べている奴らを羨ましそうに眺めているな。」
そう答えると飯塚さんは苦笑いを浮かべた。
「私達も同じような事してたなぁ…昨日は無理をしないプレイングだったからご飯をまともに食べられたけど、食事をすると装備に費用を回せないってことで食べない方針になったよ。」
俺は食事をしたり宿屋で寝ているが、食べなくても平気なのか?ステータスという表記がないから詳しくはわからんがやる気に影響がでそうなんだが…スキル習得率、熟練度上昇率とかな。腹が減っていたり睡眠不足だと学習能力も下がるだろ?まぁPTの方針なら指摘するのも不味いか。
「金策は大変だもんな。俺はソロ活動だから街の外出るだけでも命がけだ。」
俺達が話していると飯塚さんの友人2名が近づいてきた。
「やほー奈央。お、今日は隈が出来てないね、偉い偉い。」
声を掛けてきたのは茶髪のギャルっぽい服装の女性であった。女性にしては身長が高く165cm位か?もう一人はヘッドホンを首にかけ、黒髪に赤のメッシュが前髪に入っており小柄で150cmほどと思われる。まぁ目測だから正しくはないだろうがな。
「さ、流石に昨日あれだけ注意されたから大丈夫だよ久実…」
「えー、奈央ってうちらよりゲーマーだしちゃんとログアウトするかわからないじゃん。きちんと出来る人は目の下に隈作ってこないでしょ。」
「…それだけ嵌れるゲーム、羨ましい。」
おぉ…ちっこい子までゲーマーなのか。見た目では分からないものだなゲーマーって。
「そ、そんな恨みがましい目で見ないでよぉ彩ぁ…私だって当選してビックリなんだから。」
「話を聞く限り楽しそうだし私らもやってみたいんだよね。第二陣の募集ってないのかな?」
飯塚さんがこちらを向いて、どうだろ?と聞いてきたが俺も知らないな…というかまだ始まったばかりですぐ募集を出すだろうか?確かにゲーム業界の中ではかなり盛り上がっているらしいが。
「ちぇ…やっぱりまだかぁ。おっと、私は坂田久実だ。私らもゲーマーだけどかみ転に当選しなかったから奈央の話聞いてくれて助かるよ。」
「高杉彩。フレンド招待枠が実装されたら是非招待してほしい。」
「お、おう…当分来ないと思うがな。まだ全体的に手探りって感じだろうし。」
そう言って俺は2人から視線を逸らす。女性に囲まれると嬉しいって思う前に居心地が悪くなるんだよな…それに俺と飯塚さんは座っているが2人は立っているから威圧感もあるし。
そうだ、ゲーマーな人に聞きたかったことがあるんだった。
「そういや今やってるゲームはクエスト形式じゃないんだが、進め方が分かりにくくて何から手を付ければいいのか難しくないか?」
俺が質問すると3人とも「えっ?」という顔をされた。あれ?俺がおかしいのか?
「あー…青木君はゲームをしてきていないから不思議に思うんだね。今時のゲームだと自由に進めて平気ってものが多いかな。ただ、自由にできるけど一応推奨レベルがあるから進み方はほとんど被ると思うよ。」
「あとはシークレットクエストみたいなのがあるわね。特定条件下で発生して1度限りとか。他にもグランドクエストといってエンディングを迎えるためのものがあるわ。」
ほうほう…かみ転で考えると探索がグランドクエスト、好感度によるイベントがシークレットクエストってところか?ハルの宿屋突撃やアーテルさんによる救助が当てはまりそう。
「腕に覚えがあるなら強い場所に向かう、回り道すれば苦労はしない。自分のペースで大丈夫。」
色んな進め方があるんだな。俺はのんびり出来ればいいだけだから回り道で十分楽しめると思う。街中を見て回るだけでも面白いしな。
「早く魔法が使えるようにならないかなぁ…剣で戦うのも楽しいんだけど現実で出来ない魔法を使いたい…」
人族もまだ魔法を習得した人はいないのか。確かに出て来る敵で魔法を使ってくるのはいないから食らって覚えることも出来ないし当然だな…。
「大勢いる人族でも魔法をまだ覚えていないんだな…」
「そうなんだよー…私達の見解ではもっと進んでから覚えるんじゃないかな。武器屋にも杖とか魔法系の装備が売ってないもの。」
「聞いてる限り大変そうね…奈央ってちょっと中二病入っているから痛い魔法覚えそうね。」
「そんなことないよ!ただちょっと想像してカッコいい魔法考えちゃうだけだよ!」
「それが中二病。見た目清楚なのに中身残念。」
「うぅ…2人して虐める…」
うん、3人とも仲がよろしいようで。俺は会話を終了して寝る体勢に入った。
「青木君、もう寝始めちゃった。」
「奈央の思っている通り、私達が集まっても嬉しそうにしないわねぇ。」
「珍しい。男なら喜ぶわ。」
「私らからすると安全な男って感じで嬉しいわね。ガツガツしすぎなのが多くて困るわ。」
「あはは…久実は遊んでいそうって思われているのかもね…」
「2人はまだいい。私に声かけて来るのはロリコンばかり。」
「ままならないわね…あーいい出会いが欲しいわ。」
「わ、私は話が合って趣味を認めてくれる人ならいいかな…」
3人寄れば姦しいとは言ったもんで、講義が始まるまでおしゃべりを続けたのだ。