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第11話

「私…そんなに物欲しそうに見えたかしら…」


「自覚があるから目が合った時に顔を背けたんだろ?店員さん、がっつり系のお勧めを一人分頼む。」 


 俺が声を掛けると頷いて空いている食器を回収し奥へ消えていった。


「…ありがとう。死に戻りしてお金がなかったの…お礼は後で必ずするわ。」


「期待しないで待っとくよ。それと、宿をとることをお勧めする。保管庫があってお金や物を預けられるようになっている。そこから宿代も引かれるが死に戻りをしても保管庫の中のものは消えない。」


 そう言うと女性は小さくそうだったのね、と呟いた。


「ナンパされた時も、今回のこともありがと。」


「知り合いのあんな姿は見たくなかったし、今回だけな?毎回当てにされても困るし。」


 物乞いに集られるのは迷惑だからな…俺だってそこまで余裕があるわけじゃないし、のんびりするための費用に充てたい。

 奥から店員が戻ってきて、テーブルに料理を並べてくれた。


(この人、結構モテるのね。アーテルちゃんも大変ねぇ…でも、言い寄られてるのに嬉しそうじゃないってことは女性が苦手…?おっと、観察しているのがバレそう!)


 店員さんがなにやらこちらを見ていたようだが、俺が不思議がっているとすぐ離れていった。


「とりあえず、ここの代金と宿代2日分くらいは出すから、死なないように気をつけなよ?装備が無くなるのはかなりの痛手だろ?」


「そう…ね。ソロで活動していたんだけど、もっと慎重に進めるべきだったわ。あら…これ美味しいわね。もし食べられなかったとしたらかなりの損だったわ…」


「ゲーム内だから体は疲れないが精神的に疲労するから睡眠や食事は大事なんだよ。宿代、食費を抜いて装備を整えて少しずつ貯金を増やすほうがいいぞ。」


「こうやって食事をしていると探索より観光をしたくなってくるわね…色々と教えてくれてありがとう。ゲームってあまりやらないのよ…友人からは異性に気をつけろって注意をされたくらいで。」


 実際、ナンパされていたからその注意も正しいし自由度の高いオープンワールドだと具体的なアドバイスは難しい。考えられることは生活基盤を整えることだろうな…それにしても…同じ席に座っているだけでトラウマが蘇ってきそうだ…ここは早く退席したほうがいいな。


「とりあえず、勘定はやっておくから俺はこれで。宿はギルドを出て左へ3軒いって右側にある潤う若葉亭ってとこ。お金は払っておくから。」


 俺はそう告げると店員さんのいるカウンターに向かった。


「店員さん、これで支払いお願いします。」


 ギルドカードを掲示して支払いを済ませた。


「お客さん…人が良すぎますね…騙されているって思わないのですか…?」


 店員さんの言う通り、物乞いの可能性、ソロ活動ではない可能性も否定できない。それでも俺は見捨てることが出来なかった。心が否定したからだ。


「その可能性もあるが…これで本性を表してくれるなら安いかな。後から分かるよりダメージが低いですし。まぁ美人局…というか男が出てきた場合が危険なくらいか。宿はそこまで離れていないから大丈夫と思いたい。」


「楽観的ですねぇ…あなたがやられたら悲しむ人だっているはずですよ?」


 その言葉で脳裏にハルやアーテルさんの姿が浮かんだ。


「そう…だな。心配してくれてありがとう、まぁ縁が切れてくれる行動をしてくれたら助かるんだけどな…」


「お客さんってもしや女性に対してなにか苦手意識でもあるんですか?普通、あんな綺麗な女性に言い寄られていたら良い気分になると思うのですが?」


「まぁ…性を感じさせるような女性は苦手かな。過去にこっぴどくフラれてしまってね。少女のような姿なら問題ないが…あ、少女に欲情するってわけではなく…童顔とか同い年でそういう容姿ならかな…って俺は何言ってるんだ…すまん。」


「いえいえ、女性もそういう趣向があったりしますから大丈夫ですよ。ちなみに私は守ってあげたくなる男性が好みです。」


 いらん情報が増えた…しかし、セクハラって思われなくて助かったな…3大欲求の一つで忌諱するほうがおかしいんだが、タブー扱いになってるからなぁ…


「話し込んでしまったな、それじゃごちそうさま。また利用させてもらうよ。」


「またのご利用、お待ちしております。」


 そう言って俺はギルドの入口に向かう。あれ?店員さんが受付に?アーテルさんと何か話しているようだが…もしや俺の趣向に関してか!?一瞬目が合った気がしたが、俺は恥ずかしくなって外に出た。




 宿に向かっているんだが後ろから数人つけてきている気がする。ギルドを出てから同じ方向、同じ速度で歩かれているということは…はぁ、嫌な予感ほど当たるってやつだな。

 俺は潤う若葉亭で代理予約をして2日分の費用を支払った。宿の中にまでは入ってこないな…まっすぐ宿に向かうと拠点がバレて粘着される可能性があるから裏通りに行っておびき寄せたほうが良いか…?


 潤う若葉亭から出て、俺は細い路地に入っていった。こちら側は初めて来たがいわゆる娼館が並び、客引きの女性が男性に声を掛けていた。また、宿もあるが休憩料金と書かれている看板を見る限りラブホってことだろうな。

 …まだつけて来るのか、そろそろ面倒になってきた。俺は更に裏路地に向かい少し走り角を曲がった。


 後ろから「やろう!気づきやがった!おい、追いかけるぞ!」と怒鳴り声が響く。武器を街中で出すと捕まるからどうすべきか!?

 角で待ち構えていると「ぐえっ!?」と3人の声がした。…どういうことだ?


 慎重に角から覗き込むとフードを被った女の子とぶつかりそうになった。


「っとごめん!あれ?アーテルさん!?」


 俺がぶつかりそうになった子はなんとアーテルさんだった。


「アーテルさん、女の子がこんな路地裏に、しかも娼館や宿が立ち並んでいる所に一人で来たら危ないよ?男の人に襲われちゃうかもしれないんだから。」


「そこの人達みたいに?ナオヤも不用心だね、狙われているの分かっていたんでしょ?」


 アーテルさんの後ろを見るとつけて来たらしい男性が3人ほど倒れていた。


「あー、うん。誘い出したまではいいんだけど、手を出すとギルド規約に引っかかりそうだなぁと思って悩んでいたんだ…助けてくれて嬉しいんだけど、アーテルさん捕まらない?大丈夫?」


 俺が心配していると大丈夫と答えてくれた。


「ギルドの受付嬢には探索者を裁く権限が与えられているの。警備や衛兵には注意が向くだろうけど、私達受付嬢が探索者に敵うとは誰も思わないでしょ?暗部って感じかな。」


 なるほど…実力者だとは思っていたけど鎮圧できるほどの力量だとは思わなかった…あと、きっと店員さんに聞いて様子を見に来てくれたんだろうな。


「はぁ…あとで店員さんにもお礼をいわなきゃな。アーテルさんありがとう。でも、女の子が一人で裏通り来たらだめだよ。とりあえずギルドへ送っていくから。」


「ふふ、ナオヤは優しいね。それじゃあエスコートをお願いするかな。」


  エスコートって掌どっちに向ければいいんだっけ…ダンスが下に向けるのか?とりあえず掌を上にしてみる。するとアーテルさんがそっと手を重ねてきた。…合っていたらしい。


「こういうマナーに詳しくないからすまん。そんな生活とかけ離れているから…」


「気持ちが大切だから気にしなくて大丈夫。緊張していたら楽しめないでしょ?」


 確かにそうかもしれん。食事のマナーもそれに注意していたら味なんて楽しむことができそうにない…見苦しくなければいいかなって思ってしまう。


 俺達は路地裏から出てギルドへ向かう。途中思い出してアーテルさんに聞いてみた。


「そういえばあいつら放っておいて大丈夫なのか?」


「もう連絡しているから警備の人につかまっていると思うよ。それとナオヤが相席していた女性もね。」


 おや?あれは現行犯じゃないと思うんだが…俺が悩んでいるのが分かったのか教えてくれた。


「あの人達、今回の件で2回目。あの女性と追ってきていた男性の関連性も今回の事で認めることが出来るから。」


 そう言う事か。マークしていた人物だからこそ店員さんが忠告してくれて、アーテルさんに話が伝わったって事なのか。


「それと…ナオヤは私といて大丈夫?気分が悪くなったりしない?」


 あっ…これ趣向に関しても聞いてるやつだ…


「あー…失礼かもしれないけど…アーテルさんはこう、女性としての膨らみというか…服装も相まってそこまで強烈に女って意識にはならないかな…だからといって魅力がないわけじゃないぞ?異性なのは理解しているし綺麗というより可愛いから大丈夫な感じ…あー、上手くまとまらない。」


「…コンプレックスな所で大丈夫なのはちょっと嬉しい。お嬢ちゃん扱いされることが多いから。」


「見た目で判断しちゃダメなんだろうけどな…いい奴もいて悪い奴もいる、俺も単に巡りが悪かったと考えられるようにしないとな…」


「心の病気は治療が大変。もし手伝えることがあったら言ってね。」


「助かる。っとギルドに着いたか。それじゃまた今度依頼を受けに行くよ。」


「わざわざありがと、それじゃ…またね。」


 そう言い俺達は別々の方角に向かった。ん-、探索者同士のいざこざは結構ややこしいな…悪行称号やギルドカードに自動で書き込まれるなら犯罪防止になるんだろうが…それは流石に難しいか。でも、警備員や街中の人が目を光らせているっていうのが分かったのは嬉しい。一人では出来ないことも力を合わせればってことだな、うん。


 部屋に戻り一日の疲れを癒すために風呂へ入る。最後の事件が余計だったなぁ…やっぱ人は見かけによらないというか、女性は怖いな…ハルくらいちびっ子なら緊張もトラウマも発生しないが…アーテルさんはギリギリかな…少女という見た目だが迫られてきたら逃げてしまいそうだ…性格上、そんなことはしないだろうが。


 そう言えばログでスキルを覚えたっていうのを見たな。


【採取】

説明:採取する効率が上がる。

 熟練度が上がると正確な採取が可能となり採取に邪魔なものを排除することが出来る。


 これは嬉しい。正確な採取ということは切る場所などが示されるってことか。一応図鑑をみて確認するが…たぶん実地だけじゃなく図鑑を見ることで熟練度があがるんだろうな。採取に邪魔なものの排除や効率はもしや雑草の処理や種植えかもしれん。


【隠蔽】

説明:気配が希薄になり気付かれにくくなる。

 熟練度が上がると見つかり辛くなる。ただし気配察知の熟練度次第で見つかる。


 これも嬉しい。採取している時の魔物バレが低くなるということだからな。これは普段から気を付けて行動して熟練度を上げていこう。


【膝枕】

説明:異性に膝枕をする・されることにより一時的にステータスが上昇

 熟練度が上がると持続時間と上昇率が上がり、スキルが発動するまでの待機時間の減少


 ぐふ…これもスキル扱いになるのか…自分のライフスタイルに合ったものが覚えやすいんだろうがこれは…しかも昼寝とは別バフ扱いになって重複するから相乗効果がすごそうだな…まぁ…膝枕をされる機会なんてないだろうけど。


 最後の最後で余計なダメージを食らったが有用なのは確かなのでプラスに考えることにして眠りについた。タイマーでログアウトするように設定出来るから現実に帰っても眠さは取れてるだろう。それじゃおやすみなさい。

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