来訪の目的
遅くなり申し訳ありません
「わざわざお越しいただきて申し訳ありません。安物ですがどうぞ」
「お心遣いに金銭は関係しませんよ。ありがとうございます」
「フフッ、相変わらずお優しいのね」
招かれた男性と招いた女性は同じ木造のテーブルを囲んで談笑していた。
手にはこれまた木製のマグカップを持ち、中には褐色の液体が湯気を立ててビターな香りを放つ。
それを女性が口を付けたタイミングで男性も口をつける。
口の中に広がるのは心地よい苦み、そして少し粗い焦げた匂い。さらには舌の上に残る僅かな酸味。
女性は安物と卑下していたが、恐らくは奮発して買った高級なコフィーニュだろう。かなり上品な味わいだと男性は満足げに舌鼓を打つ。
「それで、アンジェちゃんの具合はいかがですか?」
お互いがマグカップを麻でできたコースターに戻したタイミングで男性が口を開く。
「先生のおかげで最近は落ち着いております。いつもありがとうございます」
「それはよかった。けれどあと数日は安静にさせて様子を見ておいてください、発作が抑えられているか確かめなければならないので」
「もちろんです。私もまだ外に出すのは怖いので」
そう話す女性の顔は少し不安げだった。大切にしているゲームを取り上げられそうになっている子供のように。
「大丈夫です、私がついていますから。
根治はもう少し成長して身体ができあがってからとなりますが、必ず治して見せますよ」
「先生……………」
男性が励ますと、女性は涙をこらえた潤んだ目で男性を見つめる。
その目にはやはり恋慕ではなく、信頼と感謝の文字が浮かんでいた。
「ありがとうございます」と消え入りそうな声で女性は呟き下を向く。
それを見つめる男性はその姿を変わらず柔和な笑顔で見つめている。だからこそかはわからないが、その表情からは優しさ以外の感情が読み取れない。
一種の防御壁ともいえるかもしれないほど感情が読み取れその仮面は、果たしてどのような思いで震える両手を膝の上に置いている女性を見つめているのか。
「それではそろそろアンジェちゃんの様子を見させていただいてもよろしいでしょうか」
男性は女性が少し落ち着いたのを見計らってからそう声をかける。
実際それは本来の訪問目的、患者の治療として来訪した男性からするとここまでは序章も序章。
ここからが本題であるとそう切り出す。
「あ、そうですね。すみませんお時間いただいてしまって」
「大丈夫です、お気持ちが少しでも軽くなってくれればなによりです」
「うふふ、ホントお優しいこと。お話しできてとても楽になりました、ありがとうございます」
女性は席を立ちながら頭を下げる。その顔は先ほどまでの泣き顔ではなく、罪を神から許された罪人のようにすっきりしているように見えた。
男性も席を立ちながら手を軽く振りつつ「そんなことありませんよ」と遠慮がちに答える。
それから感謝と遠慮合戦を行いながらスロープのついた階段を上り、一軒家の二階へと上がる二人。
登りきったところで目の前には壁があり、左右に伸びる廊下にたどり着く。右には二部屋、左には三部屋あり一行は左へ曲がる。
三部屋は同じ方角にあるわけではなく、階段を上って左に曲がったあとを正面として右手に二部屋、左手に一部屋存在していた。
女性はそのうちの左手に存在するたった一つの部屋をノックし、「アンジェ、先生が来てくれたわよ」と声をかけ中から微かに音が聞こえたのち開けて中へ入る。
するとそこには木製のベッドの上に寝転ぶ7,8歳くらいの少女が寝転んでこちらを見ていた————————————。
ご読了ありがとうございます、これからも読んでいただければ幸いです
更新は遅いんですが……………………