必殺技ドラゴンアイを使う伝説のサラリーマンの聖女先輩と仕事で意気投合したけど 牛乳飲んだ文学少女とのデートの方が大事なのだ
この作品は「なろうラジオ大賞2」への参加作品です。
会社で僕とコンビを組んでいる竜崎聖女先輩は伝説のサラリーマンだ。
正直、今度のコンペは取れればでかいが、勝算は極めて低いと言われている。
ライバル社の担当営業がお得意先の部長の甥だからだ。
社長は言った。
「厳しいのは分かっている。だが、竜崎ならあるいは……」
その時竜崎先輩は不敵に笑うだけだった。
「田中君ッ! 今回の仕様書作ってみてっ! それで勝負しようッ!」
「は、はいっ」
これは嬉しいぞ。竜崎先輩に任されるとは。
出来上がった仕様書を受け取った先輩は大きく深呼吸してから叫んだ。
「竜眼ッ!」
竜崎先輩は必殺技の名前を叫ぶと、仕様書に付箋をばんばん貼って行く。
そして、付箋だらけになった仕様書を僕に返すと言った。
「田中君ッ! 付箋が付いたところを全部見直しッ! 明日のコンペに備え、今夜は徹夜ッ!」
「押忍ッ!」
僕は先輩の付箋が付いた所を再チェックしていく。
さすがだ。ポイントがしっかり押さえられている!
もちろん先輩は僕が再チェックしている間も手を休めてなどいない。
手持ちのパソコンを駆使して、仕様書の根拠となるデータをかき集めているのだッ!
先輩は情報収集能力も「伝説」だッ!
こないだCIAのデータがハッキングされたと話題になったが、やったのは先輩なのだッ!
そして、翌朝、他の社員たちが出勤してくるちょっと前に、その仕様書は完成した!
「先輩ッ! やりましたねッ!」
「ああっ、これなら勝てるッ!」
意気投合する僕たち。
そして、先輩は置いてあった湯飲みに何気なしに口をつける。すると……
「ぐっ、ぐわあああ」
呻き声をあげる先輩。あ、その湯飲みの中身は牛乳! だ、誰だ。飲みかけの牛乳を入れた湯飲みを置きっぱなしにしたのは!?
先輩は70無量大数人に一人の特異体質。「牛乳飲むと『文学少女』になっちゃうよ症候群」なのだッ! よりによってこんな時にッ!
先輩は黒髪三つ編みにセーラー服。黒縁の眼鏡っ娘に変身してしまっている。右手には当然のようにカバーの付いた文庫本。
「あ、あの」
「何でしょう? 先輩」
「珍宝町の反省堂でやっているプルーストフェア。今日が最終日なんです。いっ、一緒に行って貰えませんか?」
ヘイ。ジャック。この僕にこの文学少女の勇気あるお誘いを断れるとでも言うのかい?
かくて僕と先輩は一日デートを楽しんだのである。
次の朝、すっかり牛乳が抜け、平常に戻った先輩と僕が出勤したら、机の上に社長直筆のメモが置かれていた。
「お前ら、クビね」
イラストレーション 大浜英彰 様